大切なまま
掲載日:2026/09/19
稲の波が引いていった
刈り取られた田園
何も害することを案じなくてよい安らかな実りがよこたわる
藁の香りが移るほどの雨音は
内なる森へとゆく足音
夜風に揺れる木々のさざ波
何かを語りかけるように打ち寄せる小舟
なんの木なのと問うと
名前を教えてくれた
その声はどこまでも
時間を溶かしてゆくみたいに響きつづける
胸の奥で
松の木だよ 松よ
舟の主が応えてくれる
薄明の青に走る飛行機
やがて真っ直ぐに闇に溶けゆく雲の舟
恋の芽生えは朧な月影
目覚めてゆけば秋の空
蒼に頰を白くしたまま
ゆっくりと根を張る松の木の下で
大切なまま 抱きしめたなら
精霊の息遣いになれる
いくつかの秋草を摘む手の中で
柔らかな花の翼が広っている
秋虫が鳴いている




