Ⅳ.孤独な。後編
「『黒顔』、緊急の依頼です。今の依頼は成功として扱い、後は別の者に任せます。」
「りょーかい。内容は?」
「西南に80キロ。クラル地下迷宮攻略へ行った8人PTの救助です」
人数を聞いて目を丸くする
「え…。8人で行って救助要請?」
「はい。」
即答され肩を落とす
「マジかよ…」
「ともかくクラル迷宮に向かってください。重傷者2名と魔力切れが1名、ボス部屋手前の安全地帯で待機中だそうです」
「りょーかい」
重傷者がいるなら急がないとね。
―エアウイング
背中から半透明の薄い羽が現れる
その羽を白い魔力が包み白く発光した綺麗なモノにかわる
「行きますか」
そして助ける為に飛んで行く―
―――
今私達がいるクラル迷宮の敵は金属質のものが多く、見た目通りですごく硬い、体力も多い。なので1体倒すのにも大変なこんな場所なのに…
「どうしよう…」
私。イリスは今とってもピンチです
重傷者2人と魔力切れ1人
やっとボス部屋前のところまで来たのに…
今は部屋のすみっこで見つからないように隠蔽結界と防御結界を張って身を守りながら救助待ちです
「助かるよね…私達…」
そう思った矢先
不意に部屋が真昼のように明るくなる
救助が来た?…でも救助依頼を出してからまだあまり時間がたっていない
何事かと全員無言で身構え緊張が走る
きたのは銀色の炎。
その炎が数体の敵を一瞬で薙ぎ払う
そして炎の後に出てきたのは真っ黒の仮面を付け大鎌を持った1人の男の子だった
背丈は私より頭一つ分高いかなってくらい
体を魔力で護っているのだろう全身がほのかに白く発光している
そして髪が銀色なのに少し引っ掛かった
「見た感じ大丈夫ですね。救助に来ました」
力無く喜ぶみんな
私もうれしかったのだけど思い切り喜ぶ元気が無かった
みんなが心の底から喜べなかった理由はきっと―
「で。他には何人いるんですか?」
1人が仮面の子に当然の疑問を投げかける
ここクラル迷宮は2年生が受注できる依頼のほぼ最高ランク
しかも受注条件には《8人パーティーであること》が入っている
普通ソロで来れる場所ではないはずなのに…
「え、他?…いませんよ。俺1人です」
「え、大丈夫なんですか?…俺達助かるのか?」
「大丈夫です。あなた達を助ける為に来たんですから。待っていて下さい」
そう言って仮面の男の子はボス部屋に向き直りゆっくりと、しっかりとした足取りで入っていってしまう―
―――
さて…サクッと…終わらないんだよなー多分
ここクラル迷宮のボスは4、5人で壁を作り、残りは高火力魔法攻撃で叩く。
そう言うのが一般的だと思う
受注条件にもあったように俺も8人でしか来たことがない
だから…
「ソロで倒せるのかな…?」
だけどやるしかない
深く考える時間はあまり残ってないし
俺は緊急依頼が入ってからリミッターを壊しっぱなしでスペアをつけてない
俺のリミッターはスイッチを入れていなくても一定の魔力が制限される
…そういう仕様。
俺はリミッターで自分の魔力を抑えておかないと…悲しいコトに自分の魔力に自分の体が耐えられない
壊した瞬間から俺の残り時間は約1時間―
だから―残り30分!
今回のボスを遠くから見る
デュラハン―馬に跨がっていて馬もヒトも全身つや消しの黒い鎧に包まれていてその鎧の隙間から黒いモヤがあふれ出てくる
…あれ?なんか俺の知ってるのと違う気がする…
「なぁオペレーター。…繋がってる?」
『なんでしょうか?』
「なんかこのデュラハン…デカイ気がするんだけど…もしかして成長するのか?」
前に見たのはデカイ人間がでっかい馬に乗っている程度だったはずなんだ。
でも…
『成長はしないと思いますが…あっ、時々サイズが一回り大きい固体が出ると報告がありますね』
…一回り?
「嘘だ…」
『本当です』
「…頑張ります」
『幸運を。』
今俺の目の前にいるのは前回の一回り大きい程度じゃない。あきらかに2、3倍ある
高さは6、7メートルあるんじゃないかってくらい
つか広いけど結構高さもある部屋だったんだな、ココ。どうでもいいこと考えてる場合じゃないや
…とりあえず様子見から下準備かな
-エアウィング
先ほどと同じように羽が生える。しかし今度は2,3枚増量。
そして軽くかがんで小さな呼気とともに放たれた矢の如くデュラハンの馬の脚まで跳び、そのまま文字通り全力で叩き斬る
耳を貫く甲高い金属音。捕捉されない様に高速で部屋中を飛び回りつつ斬った場所を見る。
斬った脚は鎧に防がれていてかろうじて鎧が割れた程度。何度も叩き続ければ破壊できるだろうがそんな時間は無い。
なら―
デュラハンの周りを飛び回り
軌跡が残るように自分の魔力を空間に乗せていく
少しずつデュラハンが見えなくなっていき、その姿が完全に見えなくなった瞬間―デュラハンの周囲を等間隔に手の平くらいの小さな魔法陣が展開する
「捕まえた。」
大量の魔法陣から内側に向かって障壁を張る
張り終わるとほぼ同時にデュラハンが大斧を狭い魔法陣の中で力任せに振るう
ゴオォォォン
くぐもった鐘を鳴らしたような音が響く
「攻撃能力付きの捕縛用結界だ。…一発じゃ壊せないよ。」
デュラハンがもう一度腕を持ち上げ、攻撃の動作に入る
「ハッ遅いね!装填は終わった!!
天は全てを浄化する聖なる歌、光は全てを滅する聖なる剣とならん!消し去れ!―ヘブンレイ!」
たくさんの小さな魔法陣から一斉に結界の中に、デュラハンに向かって光が降り注ぐ
一応途中を詠唱したけど無いよりいいだろ。
デュラハンは悪魔で『ヘブンレイ』は浄化性持ってるから相性はいい
大量の魔法陣からの一斉射だからこの場合は『ヘブンズレイ』か?『ヘブンレイズ』か?…まぁどっちでもいいか。倒せればそれでよし。
魔法陣に装填していた分の魔力が終わり小さな魔法陣の結界がとける
中にはデュラハンの黒いもやが見えた気がしたが闇に同化し、わからなくなる
「終わったかな…」
結界もその中身もなくなった空間を見ながらつぶやく
思ったよりも時間が残って無かったみたいだな、そろそろヤバい…
部屋の奥に入り口に繋がる転移魔法陣がボスを倒したことで起動し淡く青い光を発する
後は一言大きな声で言えば俺の仕事は終わりだ。
「倒した!全員帰るよ!」
―――
あの後俺は入り口に戻ると待機していた救護班と守護隊に任せて一足先に飛んで帰っていた
ネージュに近くなり速度を落とし高度を低くする
そろそろか…
「オペレーター。救護班をまた頼みます」
「負傷者を見つけたのですか?」
「俺が限界だよ。」
着陸と同時に倒れ、意識がなくなった―。
ここまで読んでくださりありがとうございます!
えーと…なんかめちゃくちゃ時間かかりました。
そしてなんだかんだですこし次に引きずります。