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ep.5

 「まず取り組むべきは何だと思う?」


 自らの手で歴史を変える気でいる彼は、早速未来を知る俺らにアドバイスを求めてきた。だが……


 「そう言われましても、我々は歴史書に載っている程度の概要しか知りません。実際に今このときを生きている、あなた方の持っている情報を教えていただかなければ、的確なアドバイスは不可能です」


 フリードリヒが俺らを頼らざる負えない状況になったので、遠慮せずに今までよりも少し強く言った。とてもじゃないが、神のように思われて余計な期待をされるのは困るからな。


 俺達は神、もしくはそれに準ずる存在に転移させられただけで、神そのものではないのだ。まぁ神の使徒や代理人という解釈はできるかもしれんが、別に何か超能力といったものはもらえなかったから、ただの人間だ。


 「うむ、至極当然だな。それでは、まずこちらの持っている情報をまとめようか。……だがこの狭い部屋で長々と会議するのも苦痛だな。他に大きい部屋はないのか? なければこちらで仮設司令部用の大型テントを持ってくるが……」


 現代人として、テントで長々と会議するのは何としても避けたい。なぜ虫や暑さと戦いながら会議せねばならんのだ。日本より暑くないとはいえ、長時間外にいれば汗だくだ。


 「《《一応》》、大きい部屋はありますよ。ただ一つ難点が……」


 テントよりは快適な、大きい部屋は一応ある。《《一応》》、な。


 「ほぉ」


 「あるにはあるのですが……格納庫ですので、物騒なものが色々おいてありますし、鉄と油の匂いが充満していて、あまり快適ではないかと。……まぁテントよりはマシだろうと思いますがね。テントよりは」


 「格納庫……気になるな」


 「100年後の格納庫ねぇ……ジュルリ」


 フリードリヒの後ろに控える学者たちが色めき立つ。


 「ふむ、ひとまずそこを使おうか」


 学者たちの反応を受けてフリードリヒも賛同した。





 「なんと美しい機体だ……これは飛ばせるのか?」


 「非常に洗練された戦車だな……馬力はどれぐらいあるのかね?」


 格納庫に入った瞬間、学者たちがまるで小学生かのように騒ぎ出した。しかも今回に限ってはフリードリヒですら、落ち着きのない様子だった。


 「学者の応援を呼べ! 陸海空全ての兵器を調べられる人選にしろ!」


 「はっ!」


 フリードリヒの号令で護衛が一人、伝令に向かわされる。


 「こちらの持ってる情報をまとめると言ったが……悪い、先に君たちの持っているものを調べさせてくれ」


 「まぁ、良いですけど……」


 フリードリヒもやはり、男のロマンには勝てないようだ。


 「この機体は?」


 「F-4ファントムです。第三世代ジェット戦闘機で、生産数は5000機を超えるベストセラー機です」


 翼が生き生きと答える。


 「おぉ、5000機か……この、後ろに空いた穴は?」


 「本来ならエンジンが入っている場所です。整備のために今は抜いています」


 「エンジンの仕組みは?」


 「まず前から空気を吸い込んで、それを圧縮して……」


 フリードリヒは翼と熱く語り合いながら、ファントムを観察している。意外なことにフリードリヒもある程度、技術的なことがわかるらしい。結構なことだ。


 「少しよろしいですかな?」


 「えぇ」


 フリードリヒがファントムの翼下に潜っているのを眺めてニヤニヤしていたら、マトモそうな見た目と雰囲気の学者が話しかけてきた。彼なら得体のしれない者たちの前で、ファントムの翼下に潜るようなことはしないだろうと思いたい。

 

 「この戦車、バラバラにしてもよろしいですかな?」


 「は?」


 何を言っているんだこいつ。


 「詳細なエンジンのスケッチが欲しいので……」


 「いや、無理です。俺の可愛いM-48を解剖しないでください」


 「そうですか……」


 ションボリとしてしまった学者が、ほんの一ミリばかり可哀想に思えたため、とある提案をする。


 「良ければ、あちらの軽装甲車、ハンヴィーのエンジン見ます? バラバラにはできませんが、ボンネットを開けるぐらいなら」


 「見ます!!!!」


 そう言ってハンヴィーに向かって走っていった。すごい熱意だ。後で壊れたガソリン式発電機でもプレゼントするか。


 「あれ……このエンジン、ルクステリオン変換器が無い……?」


 「ル、ルクステリオン?」


 「え、ご存じないのです? ルクステリオン変換器というのは……」


 まさか、この異世界には……


 「ルクステリオンを瞬時に強大なエネルギーに変換……というよりニュクサンティアに復元する部品ですよ」


 「その、ルクス何とかやニュク何とかはどういったものですか?」


 「ニュクサンティアという、夜間に花びらが強く発光する奇妙な植物がありましてな。そいつの花びらを色々加工して、燃料にしたのがルクステリオンです。あなた方の世界にも違う名前で存在するのでは?」


 そんな魔法のようなものが存在するのか? 20世紀のドイツなのに? これは調べなくては!


 「そのあたりの原理全て教えてもらえませんか!」


 「それならフリードリヒ閣下が一番詳しいと思います。閣下はニュクサンティアの調合が専門ですから」


 フリードリヒは、やはり研究者でもあったのか。後でじっくりと教えてもらおう。 


 「ただ、開戦後行われている諸外国によるルクステリオン禁輸措置で、最近は満足に研究もできていないようですね。前線でも兵器を満足に動かせないほど枯渇していますので……」


 まさか……俺たちが……


 「それはつまり、エネルギー源を止められたということですか?」


 「えぇ、全く困ったもんです。前線の兵士たちは、次の冬は越せないかもしれません」


 この異世界で、俺たちは……俺たちの転移は、歴史の大きな転換点となるかもしれない!


 これは急ぎ伝えなければ! 我々の手で、我々の力で、我々の知識で、この異世界に革命を起こせる!


 「フリードリヒ閣下!」


 「なんだ!!! 儂は今忙しいのだ!!!」


 ファントムのコックピットから籠もった声が聞こえてきた。


 「大発見です!!! えーと、ルクス……テリオン? の代用となるものを我々は持っています!」


 「なんだと!!!???」








 「まさか、これほどのものが……」


 「凄まじいな……ルクステリオン無しでここまでのことができるとは」


 我々がルクステリオンを使わない技術を持っている、という情報に驚愕したフリードリヒ一行は兵器見物を中断し、格納庫に設置された縦長の折りたたみ机とパイプ椅子で真剣な会議を始めた。


 「実に素晴らしい! これさえあれば、一気に地政学的な問題が全て吹き飛ぶじゃないか!」


 蒸気機関や内燃機関の仕組みを聞いて、フリードリヒもご満悦である。だがひょっとすると、この異世界のドイツは石炭の埋蔵地帯が無い可能性も否定できないから、糠喜びはしないでほしいが……今はそれよりも先にこれを聞かなければ。


 「ルクステリオンの生産地はどこなのです?」


 「大体、地中海性気候の国ですな。イタリア、スペイン、ギリシャ……」


 ルクステリオンが得られる国が、地中海性気候だけというのは、よくわからんな。海から飛んでくる塩分とかで育つのか? 先ほど概要だけ説明されたが、わからない部分はしっかり質問して、後の勘違いがないようにしておかなければ。


 「北海に面した地域などでは育たないのですか?」


 「いや、海は関係ない。ルクステリオンの原料を生み出すニュクサンティアという植物が、温暖な気候でしか育たないのだ。以前はドイツでも育つような品種があったのだが、30年前に病が流行して以降、ほとんど成長する間もなく死んでしまう」


 植物の病は、30年も継続して流行するものなのか? それとも寄生虫が原因なのか? よくわからんな。


 「温暖な気候で育つ品種が大丈夫なら、暖房を効かせた室内で育てればよいのでは?」


 確かにそうだな。やはり、悠馬は突拍子もないことを思いつく。


 「うむ、実際にその方法で一定数は収穫できている。だがせっかく収穫したニュクサンティアから得られるルクステリオンのうち、7割近くを暖房に持っていかれてしまうのだ。それではとても採算が取れんから戦前は普及していなかったし、禁輸されてから焦って始めただけでは、需要の2割弱しか供給できていない。しかも戦時中だと、軍が信じられない量を消費するから尚更だ」


 「なるほど……」


 その程度のことで解決できたら、苦労しないか……まぁ一応、データセンターの排熱で少しぐらい育ててみても良いな。今も野菜育てているし。


 「さて、技術的な議論は一旦横において、最重要事項を決めよう」


 フリードリヒはご満悦な表情を保ちながら、しかし目だけは冷たく鋭い、今から人を殺しに行くような目に代わった。


 「ドイツの敗戦は最早、どう足掻いても防げんだろう。これらの技術を最大限活用したところで、今からでは戦術単位での勝利しか望めん」


 フリードリヒが軍事を理解していて良かった。俺達が前線送りになることは避けられる。


 「だが我々の武器は、未来の技術だけではない。別世界のものとはいえ、未来の歴史を知れたのだ。多少相違点はあるにせよ、儂にはこの世界も彼らの世界と同じ道を歩むように思える」


 確信を突いているな。2つの世界の間には、動力源に蒸気を使うか、ルクステリオンを使うかの違いしか無いのだから。


 「その上で諸君らに問いたい。このまま座して歴史が進むのを待ち、戦争終結後に二度目の大戦を防ぐために動き始めるのか。それとも、まだ辛うじて前線に兵力が残っている今、彼らの世界よりもマシな講話を結べるよう動くか。どちらを選ぶ?」


 何とも難しい二択を突きつけてくれやがって。


 「……後者の場合、少しでも選択を誤ると……より酷い講話となる可能性もあります。それに、その後の世界情勢が大幅に変化し、我々が持つ歴史とは全く別の方向に進んだ場合……未来の歴史という武器を失いかねません」


 「いやしかしだな……」


 会議は、数度の食事と仮眠を挟みながら、数十時間続くことになる。


 

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