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ep.4


 フリードリヒや学者がプロジェクターやPCの観察で興奮している一方、護衛の兵士たちは鋭い目で周囲を警戒している。


 そのせいで敗戦寸前の軍議のような物々しい雰囲気を醸し出しており、現実世界の説明という貧乏くじを引いた悠馬は、目に見えてわかるほど腰が引けていた。


 だが覚悟を決めたのか、マイクで拾えるレベルの深呼吸で心を落ち着かせた彼は、遂に喋りだした。




 「……えー、では早速、我々が住んでいた世界の紹介から始めます」




「うむ。よろしく頼む」




 心の底から楽しんでいそうなフリードリヒが頷く。




 「あー、その、まず前提なんですが、私たちの住んでいる惑星である地球はですね、意外なことに丸いんですよ」




 やりやがった。こいつ。


 彼らの軍装を見れば、近代程度の文明を持っていることはわかるだろうに……


 まぁ、会社の説明というスライドは元々あったものを流用できたが、世界の説明などというスライドはないし、誰もが作った経験すら無い。それを考慮すると、仕方ないとも言える。




 「はぁ……それで?」




 (勝手に)期待していたフリードリヒは、拍子抜けしたような声を出した。そりゃそうだ。




 「悠馬、ちょっとそこ変われ」




 「え、あ、おう、わかった」




 強引にマイクを奪った俺は、なんとか誤魔化せないかと脳使用率100%にして思考する。




 「えー、それで、今となっては惑星が丸いことは当たり前ですよね? ですが我々の居た世界では、数百から数千年という長きに渡って平らであると思われていたわけです」




 「ふむ、こちらの世界でもそんなところだな」




 反応は悪くない。これは行けるぞ。




 「そして、我々が住んでいた世界とこの世界の発展の差は、僅か100年程度です。しかし、その100年で地球球体説にも勝るとも劣らない発見や発明が積み重なっています」




 これは100点の誤魔化しではないか?




 「ほう、つまり、古い知識で凝り固まった儂らにはどうせ理解できぬが、お前らを異端扱いして迫害するなと、お前はそう言いたいのだな?」




 た、確かにそうとも取れてしまう……単純に価値を示したかっただけなのだが……




 「……迫害しないでほしいという点はその通りですが、この世界の人々が理解できないとは思っておりません。なにせ100年間で人類は進化していませんし、教育も進化してきたわけですから、聞く耳を持てば全て理解できます」




 「ふん、まぁ良い。続けろ」




 「……ではまず、我々が住んでいた世界の歴史を話していきます」




 画面上に世界地図を映し、メソポタミア文明の説明を始めようとしたところ……




 「……地球だな」




 「あぁ、全く同じだ。やはり、我々より未来の地球から来たということか」




 学者たちが妙なことを言い出した。




 「この世界の地形は、画面上に映っている我々の世界と同一なのですか?」




 まさかとは思うが、地球という名前が同じな時点であり得ないわけではない。




 「えぇ、この地図と全く一緒です」




 これは困った。説明の大部分が不要かもしれん。だが一応これは聞いておこう。




 「暦は何を使用しているのですか?」




 「一応、主流なのは西暦です。今年で1918年ですな」




 1918年という単語を聞いて、背筋が凍ったような感覚がした。




 「このあたりの地域って、地図上だとこの位置ですか?」




 そう言いながら、画面上の世界地図でドイツを指差す。




 「えぇ、そうですよ。よくわかりましたね」




 まさか……




 「もしかして、どこかと戦争をしていないですか?」




 頼むから違ってくれ。




 「ふむ……なぜそう思った」




 今まで俺と学者とやり取りを静観していたフリードリヒが、遂に口を開いた。だがこれは少し返答に困るな……




 「我々の居た世界では、1914年から1918年にかけて、この周辺地域一帯で大戦争をしていたのですよ」




 誤魔化すとややこしくなりそうなので正直に言ったが……この次にくる質問は恐らく……




 「で、ドイツは負けたのか?」




 お、この世界でもこの地域はドイツというのか。まぁ翻訳機が気を利かせて、合わせているだけかもしれないが。……で、そんなことはどうでも良い。これは正直に言っても良いのか……いや、下手に曖昧にするほうが不機嫌を書いそうだ。




 「残念ながら、惨敗しました」




 俺の予想、というかタイムリープもののテンプレだと後ろの兵士が怒って剣を抜いたりするのだが……そんな様子もない。みんな納得した様子だ。




 「……だろうな。春季攻勢が頓挫してからというもの、儂には全く勝ち筋が見えん」




 一気に部屋の空気が暗くなる。おい、換気扇と空気清浄機、仕事しろ。




 「ですが、不幸中の幸いというべきか、何とかドイツというアイデンティティ自体は存続できます。英仏領として支配されたりはしません」




 「”アイデンティティー自体は”というのが不吉だな。これからどうなるのか、細かく説明してくれ」




 「……慧、適当なAIに説明させてくれ」




 「了解」




 面と向かって、「これからあなたの祖国はこのように滅ぶのだ」という説明をするのは大変に気が重いため、適任者にぶん投げた。




 いや、すごいね。デリカシーのかけらも持ち合わせていないAIは、機械的にドイツが第一次世界大戦に負けるまでの過程を説明。


 


 その後、天文学的な賠償金を課せられたり世界恐慌が起きたりしてナチスが躍進。第二次世界大戦に繋がり……敗戦。東西に分割され、冷戦の最前線に立たされ……冷戦終結後再統一し、何とかドイツ第4帝国と呼ばれるまでは立ち直るも……繁栄に影が見えつつある、という頼んでも居ないところまで説明してくれたよ。




 おかげさまで、部屋の空気は氷点下だ。ただ1人を覗いて。




 「いやぁ、ものすごいものを見させてもらったよ。この情報には、その天文学的賠償金とやらをゆうに超える価値があるな」




 誰もが暗い顔をしている中、フリードリヒだけがニコニコと笑っている。実に不気味だ。不気味すぎる。




 再び腰のナイフを意識しながら次の言葉を待っていると……




 「さて諸君。我々は……本来知ってはならないはずの未来を見たわけだ。最悪な未来をな」




 後ろに控えている学者や兵士に語りかけた。




 「そして……それを見たからには……我々には、義務があるだろう」




 言葉の続きを推測した俺は、鳥肌が立ってしまった。まさかこいつ、1人で……自分の手で……




 「なぜ彼らの世界のドイツは、この最悪極まる未来に至ったのか。その原因まで全て、この無表情な機械は教えてくれたわけだ。それさえ分かれば、後は簡単なことだ」




 歴史を変えるつもりなのか……?




 「原因を全て潰せば良い。潰すのだ。我々の手で。何としてでもこの未来を回避するために、我々でやれることをやろう」




 ……止めるべきだろう。確かにドイツは2度の敗戦を経て衰退し、東西に分割されてしまい、再統一した21世紀でも地域大国の域を出ない。ドイツ人にとって、避けるべき未来だろう。


 


 しかし、ほんの少しでも歴史を捻じ曲げれば……彼らが恐怖を知らない、知っても理解はできないであろう本当の最悪な未来核戦争による文明崩壊が訪れる可能性もある。




 それほどまでに、20世紀の地球というのは不安定な歴史を歩み続けてきたのだ。無数の選択肢から、正解……ではなくても、マシな選択肢を選び続けた結果、21世紀の人類が豊かに生きていける未来が作られた。




 フリードリヒたちが歴史を捻じ曲げた世界線で……その未来は訪れるだろうか?




 今ならまだ止められる。ガソリンでフリードリヒ一行を建物ごと燃やし、”我々の存在ごと”全て抹消してしまえば良い。




 だが、その場合でもフリードリヒ一行が本来与えるはずだった歴史への影響がなくなるため、歴史が変わらないとは言えない。




 それに、この世界における異物である俺達7人も……消える必要がある。自分の頭にフルメタルジャケットを撃ち込むのはまだ良いが、他の6人を……俺は殺せないだろう。




 あとは自分買って極まるが……俺達の知識と技術があれば、どれだけのことができるのかという興味もある。やれるところまでやってみたい。その好奇心は、俺の中で着々と高まっている。




 ところで……俺達をこの世界に転移させた張本人───神なのか、世界の管理者なのか、それは計り知れんが、そいつは何を望んでいる?




 何のためにこんなことをした?




 俺達に、歴史を変えてほしいのか?


 


 それとも、歴史を変えてしまう可能性を考慮できない愚か者が、技術革新を起こさせるためだけに転移させたのか?




 まぁ人間の戦争を止められない時点で安保理と同レベルの無能であるし、後者という可能性も十分にあるが……




 もう知らん。好き勝手に生きてやる。文句があるなら直接言いに来ればいい。話はそれからだ。




 さて、異世界で、知識チートとやらをやってみるとしますか。

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