ブラックサンタ
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クリスマス・イブの夜。サンタクロースを信じるこどもたちは胸を高鳴らせ眠りに就く。
――サンタさんは来てくれるかな? プレゼントはなんだろう。お手紙読んでくれるかな。
そんな数多の願いの中、こどもの元を訪れるのは白と赤のサンタクロースだけではない。
「最近の家は煙突もねえ、サンタ稼業もやってらんねーよ」
足音を忍ばせながらこども部屋に忍び込んだ男は、黒い衣装に身を包んでいた。
ベッドの枕元には大きな靴下が置かれており、その隣にはたどたどしい字で書かれた手紙がある。しかし黒いサンタクロースはその手紙に触れることもなく、大きな靴下に手を掛けた。
そして、自分の背負った袋の中から取りだしたものを、次々と詰め始める。途端に辺りには饐えた匂いが漂った。
腐りかけのニシン、緑色のジャガイモ、それに混じった他の生ゴミが床に落ちてべちゃりと濡れた音を立てた。
「……ん、へんなにおい……、ママ! ママー!! 変な人がいるー!」
本来ならば朝まで起きないはずのこどもが異臭に目を覚まし、見知らぬ人物に気づいて叫び声を上げた。
「俺はサンタさんだよ! 悪い子にお仕置きをしに来たブラックサンタだけどな! ママから聞いてただろう?」
「ひっ……」
――いい子にしていないとサンタさんは来てくれないよ。ブラックサンタがお仕置きにくるから、ちゃんといい子にしていなさい。
それは母が繰り返しこどもを叱るときに話していたことだった。
確かに自分は今年いい子ではなかった。小学校の宿題も全然やらずにママを毎日怒らせた。道路に猫が寝ていたから蹴りつけた。――数々の出来事を思い出してこどもが息を詰まらせていると、ブラックサンタが閉めたはずのドアが物凄い音と共に勢いよく開けられる。
「ユウタ、どうしたの! ぎゃあああ、なにこれ!」
すぐ隣の部屋で寝ている母が駆けつけ、壁際のスイッチで明かりを付けた。そして露わになった惨状にブラックサンタすら苦い顔になる。
「なにこれぇぇぇ! 人の家に生ゴミをぶちまけるなんて、迷惑防止条例違反よ!」
ブチ切れた母親に掴みかかられ、ブラックサンタは彼女の大声を上回る声で叫び返した。
「よい子にはプレゼントを、悪い子にはお仕置きを! それがサンタの決まりだろう! おまえの教育が悪かったからこんなことになってるんだろうが!」
「うるせえ不審者! 迷惑防止条例どころじゃないわ、不法侵入だわ! パパー! 110番して!」
「ぎゃああああああああん!! ママもサンタも怖いよぉぉ!!」
こどもはベッドから飛び降り、ニシンを掴むとそれでブラックサンタをびたんびたんと叩いた。腐臭が更に広がり、今度は母親がこどもの手を叩いてそれを止める。
通報を受けた警察が駆けつけたが、その後ブラックサンタがどうなったかを知るものはいない。
メリークリスマス! サンタクロースはいい子悪い子のリストをちゃんと持っているから気を付けよう!