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21話 ブス

「帰るっ!僕もう帰るっ!!」


「待って、待って、悪かったって!」


 家から出ていこうとする僕にオウスケが楽しそうに笑ったまますがりついて引き止めている。


「言葉でいうだけじゃ納得いかないだろうから、実際にやってみせただけだって。

 悪かったって」


「びっくりしたんだからねっ!!??」


 さらに言えば怖かったです。


「いやー、本当にごめんって。

 でも、これで分かったろ?

 ハルトは相手に迫られると断れないんだよ」


「…………そんな事無いもん」


「『もん』って。

 実際、今も断れなかっただろ?」


「あれは……ちょうど殴り飛ばそうと思ってたところだったんだよ……」


 そうっ!ちょうどまさにその時にオウスケが頭突してきて……。


「実際のとこは?」


「…………オウスケがそこまで思ってくれてるなら、仕方ないかなぁ……と」


 あんな真剣な目で迫られたら仕方ないじゃんっ!?


「なぁ?根本的にチョロいんよ、ハルトは」


 ……チョロくないもん。


 …………我ながら説得力がない。


「ハルトみたいのはあれだな、女の子なら色んな男から迫られて断りきれなくて、いつの間にやらビッチになっているタイプ」


「流石にそれは酷くないっ!?」


 いくらなんでもそこまでだらしなくはない……と思う。


「どーだろうなぁ?

 実際、ハルトの場合誰に対してもオッケーマーク出てるからなぁ」


「へ?なにそれ?

 そんなの僕出したこと無いけど」


「いや、まあ俺の感覚的な話だから実際そういう物が見えてるわけじゃないんだけどな?

 とりあえず、人と人が話している時はお互い壁が出来てると思ってくれ」


 壁?


「この壁がまあ要するにエッチするための壁だな。

 男はこの壁を壊すためだけに生きているわけだ」


「そ、それは流石に言いすぎじゃないかなぁ?」


「でも、男のやってることの最終目標なんて結局のところそこだろ?」


 い、いや、そうじゃない人もいっぱいいると思うけど……。


「まあ、とにかく色々やってるうちにこの壁が徐々に薄くなって行って、完全になくなったらゴールインだ」


 普通の人間関係でも壁のようなものを感じる時はあるから、オウスケの言ってるのはそれの恋愛特化型のようなもののことなんだろう。


「この壁は人によってそれぞれ厚さが違うし、相手によっても厚さが変わってくる」


 それはそうだろう。


 その人なりの価値観や相手との相性なんていくらでもあるだろうし。


 なるほど、ちょっとオウスケの言いたいことが分かった。


「つまり、僕のその『壁』はかなり薄いってこと?」


「いや、薄いどころか、無い」


「無いのっ!?」


 いや、どう聞いてもそれ無くちゃいけない壁でしょっ!?


「俺も今日までなにかの間違いだろうと思ってたけど、今日ので確信した。

 全く無い。

 ハルトは押せば誰でもヤれる」


「うっわ、すごい聞こえ悪い……」


「でも、実際そうだろ?

 さっきなんかも断る素振りすら見せなかったし」


 と、止めようとはしてたよ…………多分。


「あ、あれはほら、オウスケだからってところもあるし……」


 そう、オウスケのことは結構気に入っているから、そのせいが大きいと思う。多分。


「まあ、そう言ってくれるのは嬉しいけどな。

 それじゃ、今日のヒルダちゃんなんてどうよ?

 知ってのとおり色々やばい相手だけど、迫ってきたらどうする?」


「い、いや、そりゃ、普通に止めるよね?」


 彼氏が一杯いて、しかもそのうちの一人がレオンとか……手を出す勇気はないぞ、流石に。


「諦めなかったら?」


「へ?」


「ヒルダちゃんの方で諦めないで迫り続けてきたら?」


 断っても迫られ続けたら………………。


 ベッドの中で微妙な困り顔でヒルダさんを抱きしめてる自分の姿が思い浮かんだ。


「…………マジか……」


「な?押しに弱いの自覚したか?」


「え、いや、でも、相手がそこまで想ってくれるならさ……応えなきゃ失礼…………。

 …………ああ……」


「そういうことよ、普通そこまで相手のこと本位で考えねーって。

 俺に見えるのはこういうゲスい関係のことだけだけど、普段の生活の方は大丈夫か?

 色々面倒事とか押し付けられてないか?」


 オウスケは少し心配そうにそう言ってくれるけど……。


「い、いや、流石にそっちは大丈夫だと思うけど……」


 恋愛関係については僕の経験値が少なすぎてどう対応して良いのか分からないからってところもあるだろうし、普通に生活している分には別に押しに弱かったりは……。


「そうか?

 例えば今回の村長のやったことなんて、もっと怒っていいと思うけど?」


「え?あれは、なんていうか……僕がしてやられただけだから……」


 あの件に関しては僕より村長さんが上手だったと言うだけのことだ。


「はあぁ……押しに弱い上にお人好しじゃこの先苦労するぞ。

 村長のやったことなんて、俺からすればハルトが激怒して村長ぶん殴って言うこと聞かせることになっても仕方ないことだと思うけどな」


「い、いや、流石にそんな事……」


「そんな事やるレベルのことだって。

 本来関係ない人間なのに命がけのことやり遂げたのにその功績全部横からかっさらわれたんだぞ?

 もっと怒っとけよ、そこは」


 そんなことを言っているオウスケ自身がだいぶ頭にきているように見える。


 昨日真っ先に謝りに来てくれたことと良い、色々思うところがあったみたいだ。


「あの……なんていうか…………ありがとう」


「……お、おう……」


 なんかちょっと二人して照れた。


「ま、まあ、そういう真面目な話は俺にはわかんねーし似合わねーから、そっちはハルトの方で注意しろよ」


「うん、気をつけておく……」


「あっち方面の方も気をつけておけよ?

 ……と言っても、無理があるだろうけどな」


 そんな事無い……と思う。


 これからはもっと身持ちを固くいかないと。


「お、ようやく壁ができたぞ。

 ちょっと抱きしめときゃ破れるくらいの薄っぺらーいのだけど」


 …………気をつけよう。


「壁がまったくないのなんてハルトとジーナさんくらいだったからな、ちょっと心配してたんだ」


「ちょっとまってっ!?聞き捨てならないんだけどっ!?

 えっ!?なにっ!?僕ジーナさんと同カテゴリーだったのっ!?」


 オウスケの何気ない、むしろ安堵した様子さえある言葉を聞いて心底驚いた。


「ん?

 ああ、いや、同カテゴリーって言ってもジーナさんのは捕食者的なアレだからな。

 ハルトのとはだいぶ違うよ」


 よ、良かったぁ……。


 流石にジーナさんと同カテゴリーに入れられていたんなら色々文句を言いたいところだった。


「ハルトのはあれだ、ジーナさんと逆に非捕食者的なアレだったから。

 周りに猛獣がいたらすぐに食べられちゃうやつ。

 結構心配だったんだよ」


 そ、そんなふうに見えていたのか……。


 …………実際ジーナさんっていう猛獣にはすぐ食べられちゃったからなぁ……。


「いや、そういう心配もそうなんだけどな」


 また心読まれたっ!?


 ……って、それじゃどういう心配してたの?


「来る者拒まずで受け入れていると変なのまで寄ってくるからなぁ」


「変なの?」


 オウスケみたいなの?


「……いや、まあ、俺みたいな変なのも寄ってくるけどよ。

 今言ってんのは、もっと実害のあるタイプのことよ」


「オウスケ、実は心読めるでしょ?

 まあ、それは置いといて実害って?」


 ちょっと意味のわかっていない僕の問いかけに、オウスケが重い表情で答える。


「なんてーかな……変に思い込むやつがいるのよ、「こいつは自分のもんだ」とかな。

 まあ、ある意味普通の人間としては当然な反応なのかもしれねーけどな」


 そういうって苦笑いを浮かべながらオウスケは下着をめくり上げる。


 むき出しになったお腹の真ん中辺りに……大きな傷があった。


「えっと、話の流れ的にもしかして……」


「うん、刺された、ブッスリと」


 うわぁ……。


 オウスケ、この年でどんな経験してんのさ……。


 なるほど、色んな子に手を出しているという意味ではオウスケもジーナさんと……不本意ながら僕とも同じカテゴリーだ。


 場合によってはこうなりかねないってことか。


「ま、そういう事。

 一応、言い訳しておくと今も昔も付き合ってもらう時は、俺は色んな子に手を出しているしこれからも出し続けるゲスだって伝えてるんだぜ?」


 うわぁ……言語化すると本当にゲスだぁ。


「それでも、そんな事になったの?」


「ああ、その子もそのことは承知していて、初めはお互い軽い遊びだったんだけどな。

 いつの頃からかだんだん「様子がおかしくなってきたな?」って思ってたら、ある日ブスよ」


「…………こわ……」


「その子も彼氏持ちの明るいいい子だったんだぜ?

 当時も彼氏とうまくやってたし、未だになんで刺されたのかいまいち分かんねぇ」


 そして、「分かんねえようなクズだから刺されたんだろうな」と自嘲気味に笑う。


「ま、とにかくさ、それ以来俺はヤバい奴は何となく分かるようになったからさ。

 手を出す時はそういう子は避けるようにしているけど……。

 ハルト……あとジーナさんも来る者拒まずな所あるからなぁ……そんなだと避けようがないからちょっと心配してたんよ」


 …………気をつけよう。

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