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15話 自制心

 部屋を出ていつも通りリンたちと合流しようと広間に向かうと、なんか年長組が全員起きてた。


 まだ日が昇ったばかりの時間なのに三人で楽しそうに話をしている。


「おはよう、みんな早いね」


 朝の挨拶をする僕にみんな返事を返してくれるんだけど……。


「オハヨウデス」


 リンは耳飾りにかかる辺りの髪を指で弄り回している。


「おはようございます」


 ユーキくんは耳飾りの付いた耳たぶをそっと触ってる。


「お、おはようございます……」


 シャルは今までほとんど髪で隠れてたはずの耳が耳飾りがついた方だけ出ていて、耳飾りを僕に見せつけるようにちょっとだけ斜めを向いている。


 仕草はそれぞれだけど、みんな恥ずかしそうにしながらも明らかに耳飾りを意識して……というか、アピールしてきている気がする。


 その耳飾りの意味を考えると……実に恥ずかしい。


 ちょっと、みんなの顔見れない。


「そ、そう言えば、ギルゥさんは?」


 耳飾りに関わらない話を……と思っていたら、この時間いつもはリンと話しているギルゥさんの姿が見えないことに気づいた。


 珍しくゆっくり寝てるんだろうか?


「ギルゥ、ソウジ ハジメル デス」


「僕たちが早く起きたので早速掃除始めてくれてるんです」


 と思ったら、寝てるどころかもう仕事してくれてた。


「もっとゆっくりしててくれてもいいのに」


「ギルゥ、ハタラク スキ デス。

 イツモ ハタラク ヤスム シル ナイデス」


 む、すごいな。


 言われてみればギルゥさんはいつもなにか家のことをしている気がするし、なにもしてないように見える時もなにか指示されるのを待つ『待機状態』になってるように思える。


「ギルゥさんそれで大変じゃないの?」


「ギルゥ、タイヘン ナイ イウデス。

 ギルゥ、タノシ イウデス。

 アタシ、ワカル ナイデス」


 言葉通り、リンはさっぱりわからないというふうに首を振っている。


 うん、僕にも分からない。


「わ、私、分かる気がします……か、家族のために、な、なにかしていると楽しくなってきます」


 そういうシャルの横でユーキくんもウンウンと頷いている。


 考えてみればこの二人もなにか時間が空いたと思えば家の事しているな。


 ノゾミちゃんもなにかといえばお手伝いをしてくれるし、アリスちゃんもユーキくんと一緒になにかしていることが多い。


「……あんまり無理しないでね?

 リン、ギルゥさんにも適度に休むように伝えといて」


 そういったところで、ユーキくんの部屋からシーツを抱えたギルゥさんが出てきて、僕に気づくと一礼した。


 お辞儀に合わせて昨日おみやげに買ってきた首飾りがチャラっと少し揺れる。


 そしてそのままテキパキとやけに張り切って見える様子で洗い場の方に歩いて行ってしまった。


 今度、またなにかおみやげ買ってこよう。




 準備運動としての健康体操をした後、シャルに見守られながら、リンとユーキくんとの三人で組み手もどきのじゃれ合いをしている。


 後ろから殴りかかってきたユーキくんをクルッと大きくかわし、肩に手をかけてそのまま勢いを乗せてユーキくんをリンにぶつける。


「うわっ!?」


「ぎゃうっ!?」


 つんのめるように突っ込んできたユーキくんをかわすかどうか迷った様子だったリンとユーキくんがそのままもつれ合って転んでしまう。


「今日はここらへんにしておこうか。

 大丈夫?」


 転がっている二人に手を伸ばして引き上げる。


「うぅ……二人がかりなのに完敗です」


「クヤシ デス」


 二人共年齢からすればありえないほど動けるけど、流石に体術だけで言えば僕に一日の長がある。


「まあ、そこらへんは、もうちょっと連携を練習しなきゃかなー」


 二人の場合、二人でかかってきているだけで連携とかはまったくなかったからなー。


 ここらへんは練習が物を言うところだから初めてやった二人は出来てなくて当然なんだけど。


「でも、二人共すごいですっ。かっこよかったですっ」


 珍しく興奮気味な様子のシャルがちょっと弾んだ声で言う。


 シャルと二人で子供たちに読み聞かせを始めてから知ったんだけど、大人しそうな見た目によらずシャルは冒険譚とか英雄譚が好きでよく読んでいる。


 小さい頃から英雄や勇者が格好良く戦うシーンが好きなんだと、なぜか熱く潤んだ目で見つめられながら言われたことがある。


 シャル自身は別に運動音痴というわけではないけど、逆に特別運動が得意というわけではないので憧れのようなものがあるのかもしれない。


「さ、それじゃ、そろそろ水を浴びて家に戻ろっか」


 そろそろ年少組も起きてくるし、朝ごはんの時間だ。


「「「はーい」」」


 ………………え?シャルも浴びるの?


 確かに体操は一緒にやったけどさ。


 いや、裸はやめよう?


 庭とは言え誰が見てるか分かんないし……。


 やめよっ!?やめよってっ!


 大丈夫ですじゃないからっ!!!


 ……なんで恥ずかしがり屋なのにこういう所は大胆なんだろう……。




 朝食の後、みんなに断りを入れて僕一人で村に向かった。


 みんな一緒に行きたがっていたけど、今日は色々回らないとだから申し訳ないけど一人で行くことにした。


 本当はリンと真面目な話をしなきゃいけないんだけど……ゲシャールさんと約束をしているので仕方がない。


 そっちはそっちで大事な用事なのできちんと済ませてからリンとはゆっくりと話そう。


 …………ゆっくり、じっくりと話をしよう。


 結婚の話をする勇気を持てる前に二人目の話をしなければならなくなるとは……。


 まずはリンに婚約を申し込むところから始めたほうが良いだろうか?


 でも、婚約を申し込んだその場でシャルと付き合いたいというのは流石にどうなんだろう……。


 考えてみれば三人であんな耳飾りを付けるとか、三人の間でどんな話になってるんだろう?


 『三人』のことを考えていて、重大なことに気づいた。


 …………ユーキくんどうしよう。


 深く考えてない……というか耳飾りの件は恥ずかしすぎてなにも考えられてなかったけど……。


 そういう意味でいいんだろうか?


 それとももっと別の忠誠心的な意味なんだろうか?


 それにしてはみんなやけに恥ずかしそうにしていたし……。


 シャルはもうなんていうか……全部分かってそうだからリンに許可を貰えれば、あとは僕の自制心だけの問題だ。


 でも、許可と言っても現状ただの『友達』であるはずのリンになんの許可を貰えばいいんだろう……。


 かと言ってこのまま黙ってシャルと付き合い出すのは絶対に違うし……。


 やっぱり、まずは婚約から……。


 ただ、婚約をしたとしてもリンの場合なにも分かって無さそうなのが問題なんだよなぁ。


 その事が元で色々問題になる前にきちんと説明しておいたほうがいいだろうか。


 僕から説明するのは色々覚悟がいるんだけど……。


 やっぱり、リンを通してでもギルゥさんにお願いするしか無いかなぁ……。


 リンが色々理解してくれれば、あとは僕の自制心だけの問題だ。


 自制……出来るかなぁ……。


 いや、しないと。


 こういうことが気持ち悪くて、吐いてしまってすらいた僕がまるで遠い昔のことみたいだ。


 ユーキくんは……あの年齢でも色々全部分かってるっていう謎の確信があるけど……流石に年齢がアウトだ。


 うちの国の場合、『稚児』や『小姓』が一般的な貴族や富裕層だけじゃなく、一般庶民の間でもそういう関係はなんとなく容認されているから年齢以外の問題はないんだけど……。


 まあ、ユーキくんに関しては逆にそれ含めて分かっていてくれてる気がするので、そんなに心配はしていない。


 年齢を重ねていけばユーキくんの気持ちも色々変わってくるだろう。


 まあ、ユーキくんとも一度ゆっくり話す時間を設けよう。


 …………色々変なこと考えたけど、「そういう意味じゃないんですけど……」って言われたらどうしよう……。


 恥ずかしくて死ぬと思う。


 ま、まずはそこらへんの確認から慎重にしていこう。


 むしろユーキくんの問題はアリスちゃんとの関係だな。


 お互いまだまだ子供だから今後どうなるか分からないけど、アリスちゃんからの矢印は分かりやすいほどに出てるからなぁ。


 ユーキくんも気づいてないはずはないと思うんだけど……どうする気なんだろう?


 …………なんか最近アリスちゃんがある意味の癒しになっている気がする。


 ノゾミちゃんとも『秘密』出来ちゃったしなぁ。


 ノゾミちゃんの場合はそれこそ年齢が年齢だから、「パパと結婚する」とおんなじ感じのものだと思うからそのうち忘れてしまう気がする。


 …………それはそれで寂しいけど仕方ない。


 なんか結婚もしていないのに父親の気分が少しわかった気がする。


 そう言えば、僕の婚約者たちはどうしているんだろう?


 少し話したことくらいしか無いからこういう事考えるまではすっかり忘れてたけど……。


 『シナリオ』の都合なのかヴァイシュゲール家と親しかった貴族の領地は軒並み魔王軍に占領されているから彼女たちの家も滅んでいるはずだ。


 『前』は姿かたちもなかった彼女たちだけど、せめて無事でいてくれるといいな……。




 考え事をしていたら、あっという間に村についていた。


 『前』はこういう事に頭悩ませることになるとは欠片も思わなかったな……。

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