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38話 子供

 今日、『友達』になったばかりのリンと一緒に寝る。


 正直、まだ距離感が分からず突っ走りっぱなしの僕らにとってそれは『危険』と同義語でしか無い。


 マズイ……絶対にマズイ……。


 なにがマズイって、リンが服を脱ぎだしているのがまずマズイ。


 まだまだみんな子供だからということで、今までお風呂でも添い寝でも、それこそ孤児院の中ででも、裸でいてもお行儀以外の意味で気にしていなかったのだけど、これからはもっと気をつけたほうがいいと思う。


 いや、もちろん、やましい気持ちなんてこれっぱっちも……うん、無いよ?無いんだけど……おっぱいは……ほらおっぱいなだけでやましいものじゃないから……。


 とにかくやましい気持ちはないんだけど、とにかくマズイ。


「リ、リン、裸で寝るのはもうやめよう」


「ナゼ デス?イママデ オナジ デス」


 はい、僕の次の手なし。投了。


 いや、ある意味やましい気持ちがあれば、恥ずかしささえ無視すれば説明もしやすいんだけど。


 そういう……ま、マズイことをしたい、というような気持ちは本当に一切ないから困る。


 ただなんとなく恥ずかしくて、心がフワフワ落ち着かなくなるから、という理由にならない理由しか無いので説明がし辛い。


 こうなったらこの際『男女』のことについてきちんと話すか、とも考えたけど、今の状況はリンの知識が薄い状況だからかろうじて成り立っている気がする。


 もしこれでリンが『男女』についての知識を得てしまったら……マズイ方向に突っ走ることが容易に想像できる。


 どうしよう……。


 悩み込んでしまった僕にリンがあくびをしながら話しかけてきた。


「ハヤク ネル デス」


 そして、トコトコとベッドに向かうと横になってシーツに包まってしまう。


 その自然な様子を見て拍子抜けした気がした。


 どうやら僕が変に空回りしていただけなようだ。


 リンはいつもどおりのことをしているに過ぎない。


 それに気づいたら子供の体では逆らい難いほどの眠気が襲ってきた。


 普段ならもうとうの昔に寝ている時間だ。


 バカなこと考えてないで寝よ。


 難しいことは考えずに僕もいつも通り服を脱いでたたむ。


 そして、なんの気負いもなくいつも通りの自然な感じでシーツをパタパタして「早く来い」と呼んでいるリンの横に潜り込んだ。




 『自然な様子』と『今まで通り』がイコールでないことを僕は思い知ることになる。




 リンの隣に横になり襲いかかる眠気に逆らうことなく目を閉じた僕にリンが抱きついてくる。


 これも珍しいことじゃない。


 というよりはほぼいつも通りだ。


 いつものリンのちょっと硬い筋肉質な感触に安心して夢の国へ……。


「ぎゃーうるぅ……」


 リンの甘い……煮詰めた砂糖のように甘ったるい鳴き声で一気に引き戻された。


 僕はいま死地にいる。


 緊張で眠気が吹っ飛んだ。


「ハルト イマ フタリ ダケ デス」


 リンの甘ったるいささやき声が脳を侵食してくる。


 ハルトと呼ばれたときなんて、ちょっと背筋がゾクッとした。


 僕はリンの擬態を見破れずに気づかないうちに死地へと踏み込んでしまっていた。


 『自然』だから『いつも通り』なわけではなかった。


 単に、リンの『自然』が『この状態』にシフトしただけの話だ。


 リンが僕の足に足を絡めて……足だけじゃない、少しでも多い面積で僕とくっつこうと全身を絡めてくる。


 リンのハリのあるしなやかな身体の感触が全身に……あばばばばば。


 胸にりんの体で唯一柔らかい物体が……いや、ここまで密着すると分かる。


 リンの体は筋肉質な見た目によらず、胸だけじゃなく色んなところが柔らかかった。


 具体的には……認識すると大変なことになるのであえて認識しない。


「ハルト……ハルト……スキ……ハルト、スキ……」


 リンの甘い囁きが僕の脳をどんどん侵食してくる。


 聞いてちゃマズイというのは分かっているんだけど、リンに名前を呼ばれるのも、好きだと言われるのも嬉しすぎてどうしても頭に入ってきてしまう。


「ハルト、スキ……ちゅっ……ハルト、ちゅっ、スキ、ちゅっ、スキ、ちゅっ」


 リンは甘く囁いてはキスを飽きることなく繰り返してくる。


 どういう種類の拷問なんだろう?これは。


 幸せすぎて死ぬ。


「…………ハルト、ハ?」


 リンがそのきれいな金色の目に少し不安げな色を浮かべて僕の目を見つめてくる。


 もう我慢できなかった。


「リンッ!僕も好きっ!リンのこと大好きっ!リンッ!リンッ!」


 言葉を発してしまったらもうダメだ。


 リンの名と好きを叫びながら強く抱きしめ返す。


 体中にリンの体を押し付けると、リンの身体の柔らかさがよく分かる。


 リンを抱きしめながらスキと名前とキスを繰り返していたら、少し困った表情のリンが僕の唇に指を当てる。


「ハルト ミンナ ネル デス。

 サワグ ナイ デス」


 少し困った顔でほほえみながら囁かれて……。


 もうなんていうか……なんていうか……もう……。


 力いっぱいリンを抱きしめて、身体を絡め合いながら唇を合わせてベロを絡め合う。


 眠気に逆らえなくなるまでずっとそうしていた。




 …………朝だ。


 断言しておくけど、致命的なことはしていない。


 繰り返す、致命的なことはしていない。


 もうギリギリアウトなことをやってしまっている気がするけど、まだセーフだ。


 あれだけ夜更かししたにも関わらず目覚めはとてもスッキリしていた。


 いつも早起きなリンには珍しくまだ僕に抱きついたまま寝ているリンの姿を見ながら考える。


 とりあえず昨日はリンがまだ『こういう事』の知識がないままやっていると分かっているから我慢できた。


 僕としてもまだそういう衝動は薄いので、具体的なことをしなくても辛くない。


 まあなんていうか昨日のは好きがあふれちゃっただけだ。


 リンに好きと言って、好きと言われて、身体を合わせることでちょっとだけ気持ちよくなって……それで満足できてしまった。


 でも、これもそう長くないよなぁ……。


 具体的には僕がもうちょっと成長するまでの猶予期間だと思う。


 それまでには色々ちゃんとしないとな。


 とりあえずは徐々に添い寝はやめていこう。


 …………周りの方から反対が出そうなのはどうしていいものやら。


 しっかり説得していこう。




「…………あふぅ……ハルト、オハヨ デス」

 

 くだらない、でも深刻な悩みについて考えていたら、リンが目を覚ました。


「うん、おはよう、リン」


 お互い朝の挨拶を交わして、そのままキスを交わす。


「ぎゃーうるぅ……」


 キスが終わるとリンがまた甘い鳴き声を上げる。


 もう何度も同じ言葉を聞いている気がするけど……。


「ねぇ、リン、それなんて言ってるの?」


 聞いたら恥ずかしくなる言葉なのは分かっているけど、こう頻繁に言われると意味が知りたくなる。


「…………ハズカシ キク ナイデス」


 だけどリンは恥ずかしそうにするだけで教えてくれなかった。


 今までにないくらい恥ずかしがっていて、こっちまで恥ずかしくなってきた。




 僕がベッドから降りて服を着ている間、リンがずっとお腹を撫でていた。


 前もやってたな、コレ。


「リン、お腹へった?」


 リンは一瞬キョトンとした顔をしたあと、ちょっとだけ怒ったような顔をした。


「チガウデス、オナカ ヘル ナイデス」


 そして、少し恥ずかしそうにお腹を撫で続けながら、続けた。


「ハルト コドモ デキル ネガウ デス」


 ………………え?やってないよ?


 僕まだ致命的なことしてないよ?


「リ、リン……リンはどうやれば子供が出来るか知ってる?」


 絶対勘違いしている。


 絶対変なふうに勘違いしてる。


「ハルト、イッショ ネル デキル ナイ ギルゥ オソワル デス。

 ギルゥ、ハルト、ダキアウ ネル デキル イウデス」


 …………惜しいっ!もうちょっと。


 知らないんだろうなぁ……とは思ってたんだけど、中途半端に知ってた。


 しかし、ギルゥさんはなんでそんな中途半端な教え方したんだろう?


 普通に恥ずかしかったのかな?


 「それじゃ出来ないよ」そう言いかけた言葉を飲み込む。


 これ、教えたらしたがるよね?


 流石に教えるわけにはいかない。


 教えるとしたら、そういうことの問題点もきちんと教えられるようになってからだ。


 僕には荷が重い。


 多分押し切られるという情けない自信がある。


 出来れば子育て経験のあるギルゥさんに教えてほしいけど、ギルゥさんに頼むにはリンを経由しないといけないし……。


 誰か大人の女の人呼んでーっ!


 切に願う。




 ………………リン、昨日のあれ、子供作ってるつもりだったんだ……。


 ちょっと嬉しかった。


 同時に責任がすごい重くのしかかってきた。

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