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37話 バカ

 あのあと、僕の決死の告白を受け入れてくれたリンと二人で家路についている。


 結局あのあと肝心な……け、け、け、けっ…………………………結婚…………のことは口に出せなかった。


 情けなくて軽く『三週目』に行きたくなる。


 ということで、僕とリンの関係はとりあえずは友達ということになった……んだと思う。


 せめて最初っから恋人にしておけば良かった。


「ぎゃーう」


 森を家に向かって歩いてる間、リンはずっと僕には分からない言葉でなにか言っては…………キ、キスをしてくる。


 唇だけじゃなく、リンが思いついたところならどこにでもしてくるので、多分、今僕の体の露出している部分でリンの唇が触れたことのないところはなくなっていると思う。


 数分おきにそんなことをされるうえ、腕への抱きつきはもはや絡みついていると言っていい状態になっていたので歩きにくいことこの上ない。


 辺りも暗くなってきて足元が危なくもなってきたので、少し前からリンをお姫様抱っこして運んでいる。


「ぎゃーうるぅ」


 リンは腕にはキスできなくなった代わりに、唇にキスしやすくなったのでご満悦だ。


 自分で歩かないで済む分キスに集中出来るので、今はもう数分おきどころか数秒おきにチュッチュペロペロしてくる。


 実にかわいい。


 …………僕も脳がやられているのは分かっているんだけど、可愛いのだから仕方ない。


 自分からは好き放題、唇を合わせたり、吸い付いたり、舐めたり、噛んだりしてくるのに、僕が顔を向けてキスを要求すると鳥の雛みたいにちょっとだけ首を伸ばしてチュッと軽くキスだけして恥ずかしそうにしてるのなんて、たまらないくらい可愛い。


 友達ってこんなにチュッチュするものだっけ?と思いはするけど……可愛いから大丈夫だ。


 ほんと可愛いなぁ……。


 そう思いながらリンの顔をみていたらそっと目を閉じたので、僕の方から唇を重ねた。


 そのまま少し開いているリンの口の中にベロを差し入れる。


 すぐにリンのベロがお出迎えしてくれたので、夢中でベロを絡めて好きという気持ちを伝え合う。


 …………夢中になりすぎて木の枝に頭をぶつけた。


 前は見て歩こう。




 リンを抱きながら森を進み、孤児院が見えてきて、悩む。


 このままじゃ流石にマズイよなぁ……。


 なんていうか……教育に良くない。


 リンは可愛いから問題ない気はするけど……かろうじて残っている僕の正気の部分が「ダメ」とはっきり言ってくる。


 本当にダメなのか葛藤していたらリンが自分から降りてしまった。


 ああ、もう少し待っててくれれば「大丈夫」って言ってる天使が「ダメ」って言ってる悪魔を倒してくれたのに。


「王」


 リンの言葉にちょっとびっくりした。


「え、あの、リン、僕はもう王様じゃなくてね?」


 まさか今までの話いまいちちゃんと通じてなかったんだろうか?


 心配になる僕の前で、リンがゆっくりと首を横に振る。


「王、アタシ、フタリ ダケ オワル デス。

 フタリ ダケ チガウ 王、アタシ、ニンゲン ゴブリン ミホン デス」


 ……なるほど、二人だけ以外、つもり公の場では僕は人間とゴブリンの見本でなければならない。


 より良い姿は模索していくとしても、今のところはゴブリン族が僕に従う形がお互いに殺し合わなくて済む姿だと、さらに言えば僕に従えば殺し合う必要はないんだと、示さなければならない。


 僕なんかよりずっとリンは冷静だった。


 ……キスのことしか考えてないんじゃないかと言う失礼なことを考えていたことは心の中で謝っておこう。


「そうだね。

 僕たちがまずはしっかりしないとね」


 よし、そうとなれば僕も気を引き締め直さなければ。


 リンが可愛いからっていつまでもデレデレしているわけにはいかない。


 気合を入れ直している僕の顔を見て、なぜかリンがモジモジしだした。


 そして、ちょっと悩んだあと……目を閉じて少し上を向く。


 …………えっと、気を引き締め直すのはもう少しあとからで。


 念のため孤児院から見えない木の陰に隠れて……しばらくイチャイチャした。




 孤児院についた時にはもう夕食も終わっている時間になってしまっていた。


 ……一応弁解しておくと、普通に遠かっただけでイチャイチャしている時間が長かったせいではそんなに無い。


「それで、ゴブリンさんたちとは無事話しできたんですか?」


 遅く帰ってきた僕たちのために簡単な夕食を作ってくれた――夕食作るまでに帰ってこなければ、傷んじゃうかもだから僕らの分はいらないと伝えていた――ユーキくんが、僕たちの向かいに座って今日の話を聞いてくる。


 あとの三人は時間が時間なので今はお風呂に入っている。


「うん、無事引っ越ししてもらえたから、差し入れを持ってもう一度尋ねるつもりだよ」


 引越し作業を手伝いながら色々話を聞いてきた。


 ギャーオさんによると、女手二人だけでの生活だけど、幸い川で魚が取れるらしくて食べ物に困るということはないらしかった。


 ただ、それでも足りないものは色々とあるらしかったから今度差し入れを持っていくことにした。


 ギャーオさんにそれを伝えたら恐怖混じりの遠慮をされてしまったけど、関係改善の第一歩として頑張りたいと思う。


 最悪、荷物だけ置いてすぐにお暇すればそんなに迷惑にもならないだろう。


「分かりました、それじゃ、僕たちはまたお留守番してますね」


 そう言ってにっこり笑ってくれるユーキくん。


 ああ、言葉が足りなかった。


「いや、差し入れに行くのはもうちょっと先の話だよ。

 だから明日は約束通り遊ぼうね」


 僕の言葉を聞いたユーキくんの顔がぱああっと明るくなる。


 見せないようにしてくれているけど、やっぱり色々我慢してくれていたようだ。


 喜びを隠せないでいるユーキくんを見て、明日は遊び倒そうと思った。




 遅い夕食を食べ終わって、お風呂から上がってきた子供たちにおやすみのキスをして入れ替わりでお風呂の時間。


 なんだけど……。


「…………」


 お風呂の洗い場に今までにない、妙にモジモジした様子で立っているリンがいた。


 モジモジしていると言っても手を後ろ手に組んで自分の体は一切隠そうとしていないので、目のやり場に困る。


 こ、この状態のリンと二人っきりでお風呂に入るのか……。


 非常にマズイことをしている気がしてならない。


 いまいちどうするのが正解か分からず曖昧に身体を隠しながらリンの前に立つ。


 いつもならこのまま座って子供たちに洗ってもらうんだけど……。


 今日、リンに洗ってもらうのはなにか致命的にマズイ気がする。


 かと言ってこのまま向かい合っているのも同じくらいマズイ気がする。


 どうしていいか分からず硬直してしまった僕にリンが優しくほほえみ。


「ぎゃーうるぅ」


 甘い声で小さく鳴いてそっと目を閉じる。


 もうすでに危険域に入っていることは分かっているんだけど、もう一歩リンに近づき目を閉じたままの可愛らしい頬に触れて……。


「先生ー、もう入ってますかー?」


 脱衣所からユーキくんの声がして、慌てて椅子に座った。


 そ、そうだった、僕たちの夕食の準備をしていたからユーキくんもお風呂入ってないんだった。


 よ、良かった……リンと二人っきりのお風呂はなかったんだ……。


 ほっとため息をつく僕の中に、どこか残念に思っている僕がいた。


 


 そして、僕は迂闊にも忘れていたのである。


 このあとさらなる試練が待っていることを。




「それじゃおやすみなさい、先生、リン」


「うん、おやすみ、また明日ね」


 挨拶をするユーキくんのおでこにおやすみのキスをする。


 ユーキくんは嬉しそうに笑うと、一度頭を下げてからノゾミちゃんとの二人部屋に入っていく。


「それじゃ、リンもおやすみ……」


 おやすみの挨拶をしようとする僕を置いて、リンが自分の部屋とは違う方へ……僕の部屋の方へ歩き出した。


「リン……?」


「ナニデス?

 王、キョウ イッショ ネル アタシ バン デス」


 そ、そうだった……。

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