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28話 性癖

「あれ?気づいてなかった?

 俺もジーナさんとはさ……」


「気づいてますっ!知ってますっ!説明しなくて大丈夫ですっ!!」


 リ、リンがいるのになに言い出すんだ……。


「あー、悪い、そういう感じね。

 まあ、なんせさ、俺も君とは仲良くしたいんよ」


 僕の表情からなにかを察したらしいオウスケは、今度は言葉を濁して話しをしてくれる。


 ……なんかすごい察しのいい人だな。


 オウスケは、ユーキくんと同じ東洋の血を引いている人らしく、黒髪黒目のちょっと周りとは趣の違う顔をしている。


 僕と同い年くらいに見えるけど、東洋系の人は多少若く見えるから多分僕より少し年上だ。


 別にこれといった特徴のない顔つきだけど、レオンの取り巻きの一人とは思えないくらいニコニコと人懐っこい雰囲気をしている。


「あの……レオンと僕は犬猿の仲に近いと思うんですけど……。

 なぜその僕をそんなに好意的に?」


 今まで接点があったわけじゃないし、いくら敵意はないと言われても色々勘ぐってしまうんだけど……。


「まあ、さっき言った通りの理由だよ。

 ……なんていうかそういう関係の男で、事情を知ってるのに俺に敵意を向けてこないやつって珍しいからさ」


 ……まあ、一人の女の人を間に挟んで男二人がそういう関係になったら、ギスギスするのは目に見える。


 僕の場合は、ジーナさんに別に好意があるわけじゃないからそんなに気にならないけど……まあ、普通ならこういう話しされていい気分はしないだろうな。


「俺さ、本当にそういう奴と仲良く……出来れば友だちになりたいんよ。

 理想としては、そういう友達と同じ女の話で盛り上がれれば最高」


 オウスケのニコニコとした顔からは嘘をついているような感じは一切見受けられない。


 な、なかなか厄介な友人像を持った人のようだ。


「例えば君さ、そこの子に他の彼氏ができたらどうする?

 あ、君とおんなじ位好きって感じね」


 リンに僕と同じくらい好きな相手ができた場合……?


「えっと、まず僕は別にリンの彼氏じゃないですよ?

 そのうえで、多分、リンが好きになった相手ならしかたないと思うと思います」


 って、僕はなにを答えてるんだ!?


 リンの名前も言っちゃってるし、なんかオウスケのペースに飲み込まれてる。


「そうそう、顔色一つ変えずにその回答をしてくれるのが大事なんよ。

 いや、そりゃ俺も嫉妬するよ?した上で、相手が好きになったなら已む無しって割り切れる奴と友だちになりたいの」


「は、はぁ……」


「もちろん、「俺だけのものにする」とか「身を引く」とかそういう人を否定するつもりはねーよ?

 というよりもそっちのほうがフツーだと思う。

 ただ、俺とはちょっと友達にはなれねーなっていうだけで。

 というか多分前者には殺されるな」


 そう言って、自分で笑うオウスケ。


「ま、ある意味、自分だけを好きにさせるっていう熱意のない根性なしってことになるんだろうけどな。

 俺自身がいろんな子に手出している以上、相手だけ縛る訳にはいかないしなぁ」


「……あの、ちなみに、先程の女性は?」


「ああ、ネスカさん?知ってるかわからないけどヒューゴって人の奥さん。

 君に驚いて裏から帰っちゃったよ。

 会っても知らんぷりしてあげてね」


「は、はぁ……」


「いやぁ……俺、そんなだからさどうしても人のものに手を出したくなっちゃうんだよね」


 そう言って、苦い……思ったよりもずっと苦い笑いを浮かべるオウスケ。

 

「悪い癖だとは思ってるんだけどさぁ……。

 どうしても『友達』作れるかもって相手見つけると手を出しちゃうんだよね」


 とんでもない人だな……。


 思わずチラッとリンを見てしまう。


「ちなみに、俺がその子に手を出したらどうする?」


「え?さっきのリンがあなたを好きになったらって話ですか?」


「いや、今からこの先の現実での話」


「とりあえず殴り飛ばしてから『話し合い』をします」


「怖っ!」


 口ではそんな事を言ってもオウスケはどこか楽しげだ。


「それじゃ、君にバレないうちにその子に俺を好きにさせられたら?」


「…………リンがあなたを選ぶのなら」


「いやー、やっぱり君良いよ。

 いい感じに頭おかしい」


 オウスケは本当に嬉しそうに笑ってる。


 まあ、初恋もする前に色々あった僕の恋愛観が歪んでるのは自覚してるけど……はっきり言われるとちょっと凹むな。


「まあ、さっきの話は心配しなくていいよ。

 その子は……望み無いから手は出さないよ」


 なんだろう?この物言い。


 まるでリンの心が分かっているような口ぶりだ。


 あまりに確信に満ちていてちょっと異常なほどとも思える。


「あー、本気で友だちになりたいから全部ぶっちゃけちゃうけどさ。

 俺、なんていうのかな……見ただけでだいたいこの二人はヤってるな、とか、この子はヤれるなとか分かっちゃうんだよね」


 ゲ、ゲスいけどすごい特技だな。


「え、ちなみに確度は……?」


「今ん所百発百中」


 すごいな、それ。


「逆に「この二人は仲良さそうだけど冷え切ってるな」とかも分かるよ。

 まあ、男女の間のしか分かんないけどな」


 それでもすごい。


 …………使い道はあんまり思いつかないけど。


「えーっと……何の話だっけ……?

 ああ、だからさ、本気で俺、君と仲良くなりたいんだよね。

 そういや君、名前なんだっけ?」


「えっと、ハルトです」


「りょーかい。

 俺は、知ってるかもしれないけど、オウスケな。

 姓はなくて、単にオウスケだ」


 そう言うと、オウスケはニカっと人懐っこい笑顔を浮かべて手を伸ばしてきた。


 少しその手を見て悩んだあと……差し出された手を握った。




「そんで、ハルトはなにしに来たの?」


 ああ、オウスケのペースに完全に飲まれてた。


「あーっと、傷を治すかわりにゴブリンへの遺恨を忘れてほしいって頼みに来たんですが……」


 なんかもうまどろっこしく丸め込む必要がない気がした。


「あー、なるほど、その子の為ね。

 もちろんいいよ……と言いたいところだけど」


 一度笑顔でうなずく様子を見せていたオウスケが、苦笑を浮かべる。


「俺、レオンに逆らう訳にはいかないからさ」


「…………他の4人は納得してくれましたが……?」


 僕の言葉を聞いたオウスケがさらに苦笑を濃くする。


「あいつらは親がいるからなぁ……。

 親無しが村長一家に睨まれるわけにはいかないんよ」


 なるほど、それで、『前』もだいぶ虐げられている様子だったのにレオンには一切逆らわなかったのか。


「その割には、随分派手にやっているようですが?」


 僕がそう言うと、オウスケの苦笑いがさらに苦いものになる。


 もう「笑い」とつけていいのか微妙な感じの表情だ。


「ほんとにな。

 本当にこんなの止めなきゃダメだっていうのは分かってるんだけどさ……。

 性癖は抑えられないというかなんというか……」


 そういうオウスケの顔は辛そうにすら見える。


 本当に止めようとしても止められなかったんだろう。


「……分かりました、そういうことなら仕方ありません。

 傷、治すだけ治しましょうか?」


「あー、いいよ。

 変に疑われても面倒だしな」


 そう言うとオウスケはまたにこやかな笑顔を浮かべる。


「まあ、こんな感じのゲス野郎だけどさ、ハルトと友だちになりたいってのは本気なんだ。

 レオンに付いておいて何言ってんだって感じだけどさ、出来るだけ嫌われないようにするから、たまに話しくらいはしてくれよ」


 人懐っこく笑いかけてくる様子にほだされそうになって、苦笑いが浮かぶ。


 同時に「嫌われないようにする」と聞いてふと思い当たったことがあった。


「あの……もしかして、シャルの話……」


「ん?ああ、うん、ジーナさん経由で伝わるといいなって。

 とりあえず役立ったみたいで良かったよ」


 そう言って本当に嬉しそうに笑うオウスケ。


 …………もう決定的だな。


 僕この人嫌いになれないや。


「……まあ、そのうちこっそりとお茶でも飲みましょう」


「お?おおっ!

 そんときはタメ口で構わねえからなっ!」

 

 オウスケはそう言うと、もう一度本当に嬉しそうに顔中で笑った。


 


「ここらはひと目もないから気が向いたらいつでも来てくれな」


「オウスケが期待している話が出来るかわかんないけどね」


 玄関先まで見送りに来てくれたオウスケにそう返す。


 いや、本当にオウスケの期待しているような話が出来る気がしない。


 それでも、ニコニコ嬉しそうに笑っているから……まあいいか。


「それじゃ、交渉決裂ということで残念だけど、これで失礼するね」


 別れの挨拶をする僕をよそに、オウスケはユーキくんをじっと見つめてる。


 「知り合い?」とユーキくんに目で問うけど、ユーキくんは首を横に振っている。


 たまに目を擦ったりして不思議そうにユーキくんを見ていたオウスケが、不思議そうな顔のままこちらに向き直る。


「……えっと……あの子……女の子?」


 何言ってんだ?この人。


「見ての通り男の子だけど?」


 僕の返事を聞いたオウスケは、とうとう腕まで組んで考え込み始めてしまった。


「…………まあ、そういう形もあるってことか。

 世界は広い」


 色々と変な人だけど、今度のが一番何を言っているのか分からない。


 まあ、本人は納得したようなのでこれ以上構わないでおこう。

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