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22話 首輪

 楽しい遊びと昼食の後。


 このまま午後も遊んでいたくなっちゃうけど、そうもいかない。


 村長さんとの面会の予約も取っちゃったし、そもそもあんまり時間をあけるわけにもいかないし、ゴブリンの巣制圧の報告にいかないと。


 問題はリンをどうするかだなぁ……。


 …………仮に、リンを今後村に連れていくとしたら今のうちに話をしておくほうがいいだろう。


 ただ、このまま孤児院から出さないというのならその限りではない。


 …………どうしよう。


 ノゾミちゃんとアリスちゃんと楽しそうに昼食の片付けをしているリンを見て…………うん、決めた。


「リン」


「ハイデス、王」


 リンに呼びかけるとすぐに駆け寄ってくる。


 昼食の片付けを突然放り出したので、ノゾミちゃんたちは苦笑しているけど……そこら辺は段々と考えられるようになってくれるといいな。


 ……いや、僕が縛り付けすぎているのか?


 …………それこそ僕がちょっと考えておこう。


 それはともかく、まずは直近の問題からだ。


「リン、これから村に行くけど、リンにもついてきてほしい」


「ハイデス」


 僕の言葉にニッコリとうなずくリン。


「……ゴブリン討伐の報告をするから、リンには嫌な話になると思う。

 我慢できる?」


「……ハイデス」


 続く僕の言葉に、リンは真剣な顔になってしっかりと頷く。


「イクサ シマツ 王 シゴト、トウゼンデス」


 まだ小さいと言っても、仮にも一つの巣の主。


 そういう覚悟はすでに出来ているみたいだ。


 僕に向かって少し悲しそうな笑顔を向けるリンにどうしていいか分からず……。


 思いついたまま抱きしめた。




 昼食の片付けを済ませ、みんなに村長の家に報告に行くと告げて準備をしてもらう。


 僕はリンと一緒に部屋に戻って……悩んでいた。


 僕の手には動物用の首輪がある。


 これをリンにつけるべきかどうか……。


 もちろん、僕の言う事を聞いて大人しくしているリンにこれを付ける必要はない。


 ……でも、それが分かるのは僕の家族だけだ。


 なんの枷もないハーフゴブリンに村人たちは恐怖や嫌悪を感じるのは間違いない。


 枷があったとしてもそれは変わらないだろうけど、有ると無いとでは大違いだ。


 …………頼むしか無いか……。


 僕が言えばどんなに屈辱であったとしても従ってしまうと確信しているのが辛い。


 いっそのこと嫌なことは嫌というように言うか……?


 ………………でも、これは人間とゴブリンという殺し殺されるのが『常識』な間柄では、必要なことだ。


「リン」


「ハイデス」


 いつも通り笑顔で返事をするリンに首輪を差し出す。


「村に行くときはリンに首輪をつける。

 いいね?」


「ハイデス。

 メス カセ ツケル トウゼン デス」


 笑顔を崩すことなく頷くリン。


 メスというのは……多分捕まえた人間の女のことだろう。


 笑顔のまま少し顎を上げてさらけ出されたリンの首に手を伸ばす。


 成人男性以上の膂力を誇っている割にリンの首は細く、簡単に折れてしまいそうなくらい弱々しく見える。


 伸ばした手にかかる人間ではありえないリンの真っ赤な髪が少しくすぐったい。


 髪をよけて、その細い首に首輪をかけるとベルトを調節して締める。


「ンッ……」


「……大丈夫?苦しい?」


 少し漏れたリンの声に苦しかったのかと少し慌てるけど、そういうわけではなかったようだ。


「ダイジョブデス。

 スコシ クスグル デス」


 そっか、なら良かった。


 リンに無事首輪をかけられたので、少し離れて眺めてみる。


 肩くらいまでの真っ赤なサラサラの髪をした、緑がかった褐色の肌を持つ明らかに人間ではない女の子。


 その顔は耳が尖り、少し牙も出ているけれど……整った、十分に美しいと言っていい作りをしている。


 彼女の母親は美女を好むゴブリンが連れ去った女性なのだから、その母親の形質が強く出ているリンも美少女なのは当然なのかもしれない。


 そんなリンの首には、今僕がつけた首輪がはまっている。


 …………。


 …………あれ、僕今とんでもないことをしているのでは?


 いや、とんでもないことをする覚悟で首輪はめたんだけどさ。


 想定していたとんでもさとは別方向のとんでもないことやっちゃってない?


 突然アタフタしだした僕に不思議そうな顔をするリンに…………ちょっとドキドキした。

 



「せんせえなにしてるのっ!?」


 出発する準備が整ったみんなと合流したときのノゾミちゃんの第一声がそれだった。


 他のみんなも……ユーキくんまで驚いた顔をしている。


 ユ、ユーキくんだけは事情を察してくれるものと思ってたんだけど……。


 今の僕は先程の状況からさらにレベルアップして、リンの首輪から伸びた鎖を握っているのだからちょっと引き気味のみんなの表情も納得だ。


「せんせえっ!リンちゃんに酷いことしちゃダメでしょっ!!外しなさいっ!!」


 …………ノゾミちゃんに叱られた……。


 やばい、これ結構ダメージ来る……。


「ノゾミ、コレ ヒドイ チガウ デス。

 コレ 王、アタシ イキル イイ アカシ。

 コレ アタシ 王、モチモノ アカシ」


 怒るノゾミちゃんにリンが事情を説明してくれる。


「ヒドイコト チガウ デス。

 ノゾミ アンシン スルデス」


「うー……リンちゃん、ほんと?」


「ホントデス」


 少し嬉しそうな笑顔で僕がつけた首輪を撫でながら言うリンを見て、一応ノゾミちゃんも納得してくれたようだ。


「ということで、村の人に安心してもらうために、リンが村に行くときは首輪をしてもらうことにしたから。

 ……みんなも嫌だと思うけど、我慢してほしい」


 リンと僕の説明を聞いて他のみんなも渋々という様子だけど納得してくれた。


「先生……首輪ってまだあるんですか?」


「ん?うん、まだいくつかあるけど。

 どうしたの?ユーキくん?」


「……なんでもないです、ご主人さま」


 …………ユーキくん?




 準備を整えて村への道を歩いているけど……。


 歩くのにあわせてチャラチャラとなる鎖の先にある首輪にみんなの視線が集まっている。


 …………若干一名、視線に羨ましさが混じっている気がするけど気のせいだと信じる。


 しかし、なんにせよ気になるよねぇ……。


 僕自身、鎖を引いててちょっと気まずい。


 リンもみんなの視線が集まって恥ずかしそうにしてる。


 村に着くまでの間だけでも外すか……?


 でも、どこに人の目があるかわからないからなぁ。


 まだ村の中心部とは離れているので人家はないけど、道の周りには畑はあるし、チラホラと農作業用の小屋も見える。


 慣れていくしかないなぁ……。


 と諦めながら慣れてしまうのもどうだろうと思った。




 村に近づくにつれ人影も増えて、それに合わせて視線を集める数も増えてきた。


 ハーフゴブリンというのは珍しい存在ではあるのだけれど、その珍しさ故に人の口に上ることは多く、意外と存在が知れ渡っている。


 村人たちの視線には、恐怖と嫌悪と……それらと同じくらいの好奇心が混じっていた。

 リンの容姿が人に近い、それもかなり整ったもののせいか思っていた以上に拒否感は感じなかった。


 まだこの村にゴブリンによる実質的な被害がほとんど出ていないのも良かったのかもしれない。


 しばらく村人の目にさらされながら歩いて、少し気が抜けかけていた頃。


 突然リンに向かって飛んできた石を素手のまま叩き落とす。


 軽く痺れる手に顔をしかめながら石の飛んできた方を見ると、周りの村人が驚いたように見つめている一人の男がいた。


「けっ!メスゴブリンがっ!!楽に死ねると思うなよっ!」


 男は唾を吐き捨ててそう言うと、人混みの中に消えていく。


 あれは……レオンの取り巻きの親の一人だったはず。


 この村で数少ないゴブリンによって実質的な被害を被った人の身内の一人。


 確か……一番重い、指を数本なくす怪我を負った取り巻きの親だったと思う。


 その取り巻きは今後一生不自由な思いをすることになるのだろう。


 取り巻きの父親の恨みの籠もった目を見て、「面倒なことにならないといいけど」と願った。


 


「…………」


 男の去っていった先を目で追っていた僕をリンが泣きそうな顔で見つめながらなにかをいいたそうに口をパクパクしている。


 リンには、そして子供たちにも村の中ではリンと喋っちゃいけないと伝えてある。


 だから、声に出せない言葉で必死に僕を心配してくれてるんだろう。


 他の子供達もちょっと腫れた右手を心配そうに見ている。


「あー、大丈夫大丈夫、こんなの大した怪我じゃないから。

 なんなら魔法で治したって……」


 笑って言いながら痛くないとアピールするようにヒラヒラ振っていた僕の手をリンが両手で優しく包み込むように握ると腫れているところをペロペロ舐めだした。


 …………いや、心配してくれて嬉しいし、気持ちいいんだけどね。


 村人に見られてて恥ずかしいです。

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