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2話 女王

 抱っこ大会が終わって、次の日。


 今日はどうしたものか少し悩む。


 本当なら食材や日用品の仕入れ、なにより子供たちの友人づくりもあるので、いい加減村長宅に挨拶に行こうと思ってたんだけど……。


 ただでさえ行きづらいのに、昨日あんな事があったのでさらに行きづらい。


 今の時期、村長は日中は家にいないだろうけど、レオンの方は予想がつかないからなぁ。


 村長宅で鉢合わせとかしたら最悪だ。


 …………。


 うん、とりあえず一日置こう。


 単なる先送りでしか無いことは分かっていたけど、これからやんなきゃいけないことがイヤすぎて思わず日和ってしまった。


 結果としてそれが良くなかったのかもしれない。


 本当にあの一家とは関われば関わるほど面倒なな方向に話が流れていく。


 


 翌日、覚悟を決めてみんなを連れて村長宅に向かうことにした。


「今日はご挨拶するだけだから、みんな大人しくしているようにね。

 イヤなおばさんだから、変なこと言ってくるかもしれないけど、ぜーんぶ忘れちゃっていいからね」


 孤児院を出る前にみんなにしっかりと言い含めておく。


 この村において村長の奥さんは相当な権力を持っていて、この人に嫌われると村八分状態にされてしまう。


 先代村長の娘さんで、婿養子である村長さんも歯向かうことの出来ないある意味この村の絶対的権力者だ。


 『前』は僕がこの奥さんに気に入られていたので、村長さんやレオンに孤児院ごと目の敵にされていても子供たちはほとんど不自由なく過ごすことが出来ていた。


 今回も基本的には大丈夫だろうけど、なにかの拍子に子供たちの誰かが決定的に嫌われることでもあれば大変なので、よく言い聞かせておく。


「今日だけはお願いだから、ただニコニコと笑っててね。

 こんなお願いしちゃって申し訳ないけど、今日だけはお願いね」


 今日さえ、初対面さえ乗り越えればあとは僕がなんとかしてみせる。


「せんせえっ!わかりましたっ!」


「……そんなに面倒な人なんですか?」


 元気に返事をしてくれるノゾミちゃんの横でユーキくんが渋い表情をしている。


 その後ろにいるアリスちゃんは不安げだ。


「うーん……なんていうか……わがままなお嬢様がそのままおっきくなっちゃったような人かなぁ……」


 以前からの付き合いで人となりを知っているシャルさんは僕の評価を聞いて苦笑している。


「うわぁ……。

 分かりました、出来るだけ『良い子』でいます」


「ありがとう。

 このお礼は必ずするからさ。

 本当にごめんね」


 …………本当に気が重いなぁ。



 みんなにきれいに洗ってあるけど、あまり華美すぎない……むしろ少しボロっちい服を着せて村長宅に向かう。


 僕たち……に限らないけど、他人が自分よりいい格好をしていると不機嫌になるから本当にめんどくさい。


 その中で僕だけは、できるだけ貴族の子女らしく華やかな服を着ている。


 『前』の事があって良いとは言えない印象しかない服だけど、ノゾミちゃんがかっこいいと目を輝かせてくれたのだけはちょっと嬉しかった。


 村長宅に挨拶に向かっているけど、今、村長は仕事で不在のはずだ。


 奥さんにしか挨拶しないことになるけど、村長さんにはどうやっても嫌われることが分かっているのでこの際無視でいい。


 この村では村長さんに嫌われても、奥さんのご機嫌を取っておけば平穏に暮らせるのだ。




 村長宅について、とりあえず最後の深呼吸。


 どーか、レオンはいませんように。


 軽くノックをしたあと、ドアを開ける。


「失礼します、村長さんはご在宅ですか?」


 居ないことは分かっていたけど、一応型通りの声をかける。


 幸い村長さんだけでなくレオンも家にはいないようだ。


「失礼しますっ!村長さんにご挨拶に参りましたっ!

 どなたかいらっしゃいますかあっ!」

 

 誰も出てこないので、もう一度今度は少し大きな声で奥に向かって呼びかける。


 奥さんまでいないってことはないはずなんだけど……あまりに誰も出てこないのでちょっと不安になってきた。


 子供たちの顔にも不安が浮かんできて、最後にもう一度呼びかけてから帰ろうかと思った頃。


「なによ?うちの人なら畑に行ってていないわよ」


 奥の部屋から奥さんがネグリジェ姿で出てきた。


 そして、棚からワインを取り出すと一人長椅子にもたれかかるように座ってワインを飲みだす。


 いくら突然訪ねてきた客相手とは言え、あまりにも非礼な態度に子供たちは戸惑ってしまっているけど、僕は心の中で苦笑してしまっていた。


 当然な話だけど、変わんないなぁ。


 こんな態度だけどこの人に別になにか含むところがあるわけではない。


 自分はいつも誰かにチヤホヤされる立場だったため、単純に『自分が人をもてなす』という思考が皆無なのだ。


 席も勧められてないけど、もてなす気もない代わりに別に悪意があるわけでもないので、このまま立ったまま話を続ける。


「それは失礼しました。

 では、ひとまず奥様にご挨拶をさせてください」


 愛想笑いのまま宮廷儀礼でお辞儀をする。


「先日はきちんとしたご挨拶も出来ずに申し訳ありませんでした。

 僕はラインハルト・フォン・ヴァイシュゲールと申します。

 村外れにある屋敷で孤児院を開かさせていただきましたのでそのご挨拶に伺いました」


 僕の横で緊張した笑顔を浮かべている子供たちの方を少し向いて手で示す。


 ……ユーキくんだけは完璧に元気で素直な子供の笑顔をしていた。


 なんなんだろう、この勇者は。


「この子達は孤児院で預かっている子供たちです。

 ほら、みんな奥様にご挨拶して」


「「「「「はじめましてっ!よろしくお願いしますっ!」」」」」


 打ち合わせ通り元気に頭を下げる子供たち。


 その様子を奥さんは値踏みするように見ている。


「この村の一員と思っていただけるよう誠心誠意努力いたしますので、何卒よろしくお願いいたします」


 そのまま頭を下げ続ける僕たちに、奥さんの軽く酔った浮ついた声がかかる。


「ふうん、レオンに聞いていたのと違って礼儀の分かってる子じゃない」


 奥さんの言葉を聞いて、一瞬心臓が跳ねた。

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