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3話 ゲームの世界

 でも、まあ、宙空に浮かぶ僕はその緊張感あふれる様子を諦め混じりののんきなとも言える視線で眺めていた。


 だってこれイベント戦闘だし。


 ユーキくんの必死の抵抗で動きが鈍っているとはいえ、ユーキくんが乗っ取られるところを見たパーティーメンバーは攻めきることが出来ない。


 それでも、以前と比べ格段に成長しているパーティーメンバーは本調子でない『不死騎士』相手に優位に戦闘を進め……。


「ぐあっ!!」


 僕の教え子の一人、戦士のクライブくんに頭を殴られたユーキくんの口から短い叫び声が上がる。


「よしっ!これでっ!」


 人間であれば間違いなく気絶している感触にクライブくんが快哉の声を上げ……そのクライブくんに向かって『不死騎士』の剣が伸びる。


 宿主が死んでいても関係のない『不死騎士』が失神するなんてことはない。


 その事を知らずに一瞬気を抜いてしまったクライブくんに向かって『魂喰らい』の剣先が迫り……。


「かふっ!」

 

 横合いからクライブくんを突き飛ばした少女、ついさっきまで僕にとっては見知らぬ少女だったこの国の王女にしてパーティーのサブヒーラーであるエルディアナ王女、通称エルの胸を貫く。


「エルっ!!」


「エルさんっ!!」


「殿下っ!!」


 それを見て口々に悲鳴を上げるパーティーメンバーの声ももう耳に入っていない様子のエル王女が、その血まみれの手をユーキくんの頬に伸ばす。


「ユーキさん……あんまりおいたしちゃダメだって言ったじゃないですか」


 そしてそのまま、呆然と動かなくなった『不死騎士』に顔を寄せ、ゆっくりと口づけをする。


 その瞬間、エル王女の体から眩いばかりの光が放たれ……剣に吸い込まれていく。


 戦闘エリアである古い神殿をまばゆく照らしていた光が収まると、そこには『肉喰らい』を着たままエル王女を抱きしめて涙を流すユーキくんと、その傍らに転がる禍々しいオーラの消え去った『魂喰らい』があった。


 その後は、エル王女の国葬を済ませ、僕=『不死騎士』に捕まっていた僕の教え子にしてユーキくんの幼馴染のヒーラー、アリスちゃんを加入させて魔王討伐に赴くことになる。


 エル王女に浄化され全盛期の力を失ったとはいえ強力な魔剣と魔鎧を身に着けたユーキくんに率いられた一行は、その『魂喰らい』の能力で魂のみの存在である魔王を討伐し、世界に平和をもたらしました。


 めでたしめでたし。


 ……というのが今後の流れである。


 シナリオ通りなら。


 訳の分からない考えが頭に浮かんできて混乱しっぱなしの僕は、ふよふよと宙に浮きながら勇者パーティーを眺め続けていた。




 唐突だけど、自己紹介をしたいと思う。


 僕の名前はラインハルト・フォン・ヴァイシュゲール、22歳……いや、『不死騎士』になっている間に年月が経ってるから23か24かな?


 仰々しい名前の通り、一応貴族の生まれだ。


 だけど魔王軍侵攻の影響で家は没落して血の繋がった家族は誰もいないし、財産と言えるものも今は孤児院となっていた小さい屋敷ひとつなので、普段は姓なしでハルトと名乗っている。


 色々あって僕が面倒見ていた孤児たちと孤児院を焼け出され旅に出た結果、更に色々あって『不死騎士』に殺された挙げ句、最終的に僕の大事な家族の一人であるユーキくんに介錯をさせる形になってしまった。


 そして、死んだ――はずの――瞬間、僕の頭の中に意味の分からない……知識?それとも意識?なんと言っていいのか分からないものが湧き上がってきた。


 その結果、僕はこの世界が『コンピュータゲームの世界』であると認識している。


 今まで20年以上生きてきて『コンピュータゲーム』なんて概念に触れたことはなかったけど、今はそう認識してしまっている。


『異世界転移』や『異世界転生』なんて言う単語も頭に湧いてきていたけど、それでもなぜかここはゲームの世界だと僕は思う。


 別に前世の記憶なんかが生えてきてもいないので、本当にそれが事実なのかそれとも単なる僕の妄想なんだか分からないけど、『僕はそう認識してしまった』。


 そんなバッカなー、とか考えてみても覆せない。


 今まで頭の片隅にもなかった知識たちが『ここはゲームの世界なんだ』と全力で訴えてくる。


 ちなみに『タイトル』についての知識はどこにもなかった。


 自分でも頭がおかしくなったのだとしか思えないけど、とりあえず死んだはずなのに現世にいるこの状況は受け入れるしかない。


 どこかに同じ境遇の人がいればいいんだけど、どうやら少なくともここには僕しかいないようだ。


 それとも姿が見えないだけなんだろうか?


「あの?誰かいませんかー?」


 何度か周りに向けて叫んでるけど、誰からの返事もない。


 誰もいないか、姿をあらわす気はないかのどちらかみたいだ。


 ここでフヨフヨ浮きながら考え事をしていても仕方ないので、とりあえずユーキくんたちに近づく。


 「エル……ごめん……僕が弱かったせいで……ごめん……」


 エル王女の亡骸を抱きしめながら泣き続けるユーキくんの姿に胸が締め付けられる思いがして、思わず抱きしめようとしてしまう。


 スカッと身体がすり抜けた。


 どうやら生きてる人間に干渉することは出来ないみたいだ。


「…………今、誰かが慰めてくれた気がした……エル……君なのかい?」


 ユーキくんが少し驚いた様子でエル王女の顔を見つめながらそんなことを呟いている。


 さっきの発言訂正。どうやら何らかの干渉は出来ているみたいだ。


 とりあえず、慰めと検証を兼ねてユーキくんの頭のあたりを優しく撫でる。


「…………エル……ありがとう。

 うん、ボクがんばるよ……」


 やっぱりスカスカすり抜けはするけど何らかのものは伝わっているみたいだ。


 とりあえずユーキくん、エル王女じゃなくってごめん……。


 そういえば僕の亡骸はどうなってるんだろう?


 何故か湧いてきている知識からエル王女とユーキくんが恋仲なのは分かっているので、そっち優先なのは分かるんだけど、誰か一人くらい僕の亡骸のこと気にしてくれないかな?


 ちょっと寂しくなりながらあたりを見回すと、エル王女の亡骸を抱きしめるユーキくんと、それを囲んでいるパーテイーメンバーの他に人影はなかった。


 どうやら『不死騎士』の素体となった人間は塵も残さず消えるみたいだ。


「先生……そしてエル。

 僕は必ず魔王を倒して世界に平和を取り戻します」


 エル王女の亡骸を抱きかかえたまま立ち上がったユーキくんは、決意のこもった目でそう宣言するのだった。




 そして、その後シナリオ通りユーキくんたちは魔王を討伐して世界に平和をもたらした。


 やはりここはゲームの世界ということで良さそうだ。


 僕の『知って』いる『シナリオ』通りに話が進んだことからも、その思いが強くなる。


 ということは……。


 僕の頭の中に湧いてきた知識の中にはこのゲームの『続編』に関する知識もあった。


 その続編で『前作』勇者のユーキくんは魔王の魂を取り込んだ『魂喰らい』に徐々に侵食を受け、唯一それを浄化できる存在であったエル王女を失っているユーキくんに抗うすべはなく……。


 魔王と化し続編の勇者に討伐されることになる。

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