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27話 獣

「…………なんとお詫びをしていいものか……」


 浅く切り傷が残ったままのアルバさんに深く深く頭を下げる。


 他の護衛の人達も、深くはないものの傷だらけだ。


 ある程度は治したんだけど、僕も子供たちも魔力が尽きてしまったので完治させられていない。


「いやいや、これくらいかすり傷でさぁ。

 気にしねえでくだせえ」


 平謝りする僕にアルバさんも護衛さんたちも笑いながら手を振ってくれる。


「いやぁ、それよりも結局傷の一つもつけられなかったのが悔しいですな。

 完敗でさぁ」


 アルバさんはそう言ってくれるけど、結局途中からは魔法も使って全力で戦ってしまっていたし、剣だけで戦おうと思っていた僕としては「やっちゃったぁ」という感じである。


 でも、すごい楽しかった。


 全力で剣をふるい魔法を放つたびに楽しくて仕方なくなった。


 …………まさか、子供の頃の僕にこんな一面があったとは。


 10年後、本格的に戦いに身を投じる頃には、歳を重ねていたせいかそんな傾向は一切なかったので自分で驚いた。


「まあ、また明日遊びましょうや」


「はいっ!!」


 笑顔でそういうアルバさんに、思わず元気にうなずいてしまった。




 アルバさんとの?立ち会いが終わって、そのまま庭でみんなで輪を作って遅めの朝食あるいは早めの昼食を摂った。


 はじめは食事は汗を流してからにするつもりだったんだけど、全身傷だらけになってしまったアルバさんを含めた護衛さんたちは今日はお風呂に入れないので、先にみんなと一緒にご飯を食べることにした。


 シャルロッテさんと子供たちが作ってくれたご飯は、昨日の残り物をパンで挟んだだけのものだったけど、食べやすいしすごく美味しい。


「いやあ、それにしても閣下のあの勇ましいお姿。

 思い出すだけで興奮で年甲斐もなく心が沸き立ってまいります」


 少し興奮した様子のミハイルさんが手に持ったパンを軽く振り回している。


 具材が飛んだらもったいないから落ち着いて。


「いえ、お恥ずかしいところをお見せして申し訳ありませんでした」


「いやいや、恥ずかしいなどと、そんな……。

 あの猛々しさは見るものすべてを魅了するものでした」


 相変わらずミハイルさんは大げさだなぁ。


 正直、全てが終わって正気に戻ったあと、「やらかした……」と自己嫌悪に陥るほどの暴れっぷりだった。


 暴れっぷりなどという言葉が可愛らしく感じるくらい、なりふり構わぬ魔物のような獰猛な戦いっぷりを思い出すだけで…………恥ずかしくて死にそう。


 とりあえず、子供たちに引かれたかも……と落ち込んでいたのが取り越し苦労だったのだけは良かった。


 それどころか……。


「あ、あの……か、閣下……パ、パンのおかわりはいかがですか?」


「先生、飲み物もありますよ?」


「せんせえー、干し葡萄だよ。

 あーん♪」


 シャルロッテさんは密着するくらい体を寄せて給仕をしてくれるし、ユーキくんはもはやもたれかかってるし、ノゾミちゃんは膝に寝転んで僕の口に干し葡萄を放り込んでくる。


 …………とりあえず汗臭いと思うのであんまり近づかないでほしい。


 なぜか『前』含めて今までになかったくらいモテモテだ。


 アリスちゃんは僕にかかりっきりな三人の世話をしているけど、「かっこよかったです」と言ってくれた。

 

「いやぁ、閣下は正統剣術が基盤となってるからですかね?どんな野蛮なことをやっても、根っこのところに品格のようなものがあるんですよ。

 そうですなぁ……気高い餓狼と言った感じですか」


 …………アルバさんまでべた褒めで照れるなんてもんじゃない。


「うんっ♪せんせえかっこよかったよ♪」


「はい、見とれちゃいました」

 

 ノゾミちゃんとアリスちゃんまでそうなこと言うし。


「あ、あの……も、物語の勇者様みたいでした……」


 シャルロッテさんはそんなこと言いながらモジモジしだすし。


「ご主人さま……すごく強くて……かっこよくて…………」


 ユーキくんはうるんだ目をしてそっと頬を肩に乗せてくるし……。


「いやあ、できれば吟遊詩人を連れてきて歌の一つでも作らせたいところでした」


 ミハイルさんは楽しそうにそんなことまで言ってくる。


「か、勘弁してください……」


 楽しくなっちゃってテンション上がって大暴走した黒歴史をそういうふうに言われたら……。

 

 本当に恥ずかしくて死ぬ……。




 みんなが楽しそうに僕の戦いぶりを話しながらの食事という、僕にとって拷問のような時間のあと。


 なんとはなしに各々がバラけだしてきて、お開きという雰囲気になってきた。


 さてと、それじゃそろそろ汗を流してこようかな、と立ち上がろうとしたところで、ミハイルさんに呼び止められた。


「閣下……少しお時間よろしいでしょうか?」


「はい、もちろんです」

 

 なにか話があるのだろう真面目な雰囲気に、気を引き締め直す。


 子供たちは片付けで屋敷に入っているし、アルバさんたちも各々思い思いのところで休みを取っている。


 外ではあるけど、誰も……シャルロッテさん以外誰も近くにいないタイミング。


 内密の話なのだろう。


「……少し、歩きますか?」


「はい、お供させていただきます」


 念のためと、歩き出すけどやっぱりシャルロッテさんもついてくる。


 彼女も関わっている話か……。


 並んで歩く僕とミハイルさんの間で一歩下がったシャルロッテさん。


 そんな形で歩くことしばし、黙って歩いていたミハイルさんが口を開いた。


「…………閣下にお願いしたいことがあります」


「お願い、ですか?」


「はい。シャルロッテを閣下の孤児院に預けたいのです」


 ……実のところ、ミハイルさんから「話がある」と言われた時点で予想はしていた。


 『孤児院』という言葉に反応を示していたミハイルさん。


 シャルロッテさんの身の上話からうかがえる現状。


 何より決定的な、ミハイルさんの『村長にシャルロッテを預けるつもりだった』という言葉。


 そういう話が来るんじゃないかなぁ、という気はしていた。


「理由をお聞きしても?」


「はい、当然お話させていただきます」


 僕の言葉にうなずいたあと、一度ちらりとシャルロッテさんのことを見るミハイルさん。


「まず、シャルロッテの親の話になるのですが……父親は私、そして母親は……私の幼馴染で、妻ではない女性です」


 ミハイルさんの言葉を聞いて俯いてしまうシャルロッテさん。


 まあ、そういう話になるよねえ。

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