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2話 勝ち戦

 眼の前に5人の男女……いや、少年少女が倒れている。


 全員もはや身動きがとれないほどに傷ついているようだが、あるものは呆然とした表情で、あるものは絶望したような表情で、あるものは怒りをあらわにした表情でこちらを見ている。


 僕は彼等を守らなければならない。


 ……いや、俺は奴らを殺さなければならない。


 私は人間を葬らねばならない。


 アタシは奴らが憎くてしょうがない。


 ワシは世界を滅ぼさなくてはならない。


 …………。


 様々な思考が津波のように押し寄せてきて、僕のちっぽけな意識など吹き飛ばされてしまいそうだ。


 もはや彼等が誰なのか、僕が誰なのかすら分からない。


 ただ守らなければならない事だけは分かっている。


 いや………………殺さなければならないんだったか?


 僕……どころかこの時代のすべての人が知らなかったはずの魔法を構築し励起し彼等に放つ。


「《物質転移》」


 この鎧に身を包んでいる以上、自傷行為すら意味を成さない。


 ならば彼等を飛ばせばいい。


 なんのために彼等を転移させたのかも分からなくなった頭で、フルフェイスの兜の隙間から彼等が消えた空間をただ眺め続けていた。




――――――


 


 眼の前の少年、勇者ユーキの渾身の一撃が兜に当たり、自爆魔法によって出来ていたヒビに致命的な衝撃が走り……『不死騎士』の兜が割れた。


「先生っ!!」


 ユーキくんの叫び声を聞いた瞬間、僕の意識が戻る。


 だがこれも一瞬のことだということが、再び津波のように押し寄せてきている悪意に意識が消し飛ばされそうな感覚で分かる。


「ユーキくんっ!今のうちに僕の首をっ!!」


 兜が無くなりむき出しとなった頭になら《全防御》の影響は及ばない。


 ここまで成長したユーキくんなら、剣の一振りで僕の首をはねることができるはずだ。


「そ、そんな……出来ません……」


 そりゃそうだ。


 僕を助けるために来たと言っていた彼にそんなこと出来るはずがない。


 しかし、どちらにせよ。


「ユーキくん、落ち着いて聞いてね」


 泣きそうになっているユーキくんに出来る限り優しく笑いかけながら、残酷な事実を告げる。


「どうせ僕は死んでいる」


 僕の体は自爆をした際にもう死んでいる。


 爆発に引きちぎられた身体がなぜここまで再生しているのかは分からないけど、心臓は止まっているし当然、血液は循環していない。


 実のところ呼吸すらしていないのでどうやって声を出しているのか自分でもよく分からない。


「僕が意識を保っていられるのもこの一瞬だけだ」


 頭の中には絶え間ない怨嗟の声がこだまし、意識を保っているだけで精一杯だ。


 もうすでに僕がなんで目の前の少年にこんな話をしているのかも分からなくなっている。


「だから、これ以上君たちを苦しめる前に終わらせてくれないかな?」


「先生……」


 眼の前で滂沱のような涙を流す少年に剣を振り上げようとするのを必死で抑える。


 なぜそんなことをしているのか分からないけど、しなければならないことなのだけは分かる。


 なにかもっと言わなければならないこと、言いたいことがあった気がするけど、もう分からないのでただ黙って目を閉じた。


 戦闘中になぜこんな愚行を犯すのか自分でも分からない。


 いや?本当になにをやっているんだ?


 眼の前の勇者を殺さねば。


 そう思った瞬間、首になにかが触れる感触がして…………僕の意識は途絶えた。



 

 ――――――




 ユーキくんにとどめを刺された僕の体から漆黒の鎧が弾け飛び、ユーキくんの身体にまとわりついていく。


「なっ!?何だこれっ!?」


 突然のことに慌てるユーキくんだけど、本人の意志を無視して漆黒の全身鎧に身を包んだ体は落ちている大ぶりの剣を拾い上げた。


 こんな事態になってようやく気づいたけど、『不死騎士』にとっては《全防御》の鎧よりこちらの剣のほうが本体と言える。


《憑依》というすでに遺失した魔法の付与された剣、それに宿る幾万もの怨念が『不死騎士』の正体だ。


 それに抗い続けることはいかに『勇者』と呼ばれたユーキくんの意志力でも不可能だ。


 もうすでにユーキくんの意識は虚ろとなり、体の動きは剣と鎧に支配されている。


 自分を殺した人間の体を新たな宿主とし、死体であっても修復し操る魔鎧『肉喰らい』。


 殺したものの怨念のみを取り込み、手にしたものの意思を侵食し乗っ取る魔剣『魂喰らい』。


 それらが『不死騎士』の正体だった。


 対『不死騎士』の2連戦。


 それもパーティーの要である勇者ユーキを欠いての連戦。


 絶体絶命のピンチにパーティーメンバーの顔に緊張とほんの少しの絶望が宿った。

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