表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
110/117

36話 精霊来たけど……

 とりあえずラファちゃんにもアリスちゃんに目の中に帰ってもらったけど……。


「大丈夫?なにか違和感とか無い?」


「んー…………はい、なにも変わらないと思います」


 あたりを見回していたアリスちゃんがそう言ってうなずく。


 ラファちゃん、自分で言った通り大人しくしているようだ。


「でも、油断はできないからもし少しでも変なことになったら言ってね」


「はい、分かりました、先生」


 素直にうなずいてくれたアリスちゃんの頭を撫でる。


「とにかく、お疲れさまでした。アリスちゃん」


 そのまま嬉しそうにしばらく撫でられた後、アリスちゃんはみんなのところに戻っていった。


 さて、そうなると次は…………。


「ノゾミやりたいですっ!」


 どうしようか迷っていると、ノゾミちゃんが満面の笑顔で高々と元気よく手を上げた。


 ノゾミちゃんか。


 残りの三人で一番心配がないのはシャルなんだけど……。


 ノゾミちゃんの適性は、


 【魔法適性 火:B 水:- 土:- 風:B 聖:B 邪:-】


 となっていて、正直、火、風、光のどの精霊が来るのか分からない。


 それについてはシャルも同じ話なんだけど、軒並みC適性のシャルと違ってノゾミちゃんの適性はBと高い。


 今まで同じB適性のユーキくんとアリスちゃんの場合、中位以上の精霊という厄介なものが来てしまったのでちょっと心配だ。


 …………でも、考えようによっては心配な方から先に済ませてしまうのも手か。


 ちなみに、リンは真剣に初手で《精霊送還》の使用が視野に入るので一番最後だ。


 もう一度ノゾミちゃんの顔を見てみるけど、やる気に溢れた目がランランと輝いている。


 ユーキくんとアリスちゃんに友達?が増えたのを見て楽しくなってきちゃったのだろう。


 ……うん、ここは思い切ってやる気のある子からやってみよう。


「それじゃ、ノゾミちゃんやってみよっか」


「はいっ!」


 元気よく、嬉しそうに返事をするノゾミちゃんを見て思う。


 今度こそ変な精霊来ませんように……。


 三度目の正直を信じよう。




 前の二人と同じく、ノゾミちゃんを後ろから抱えるようにして《精霊召喚》の魔法を教える。


「…………どう?わかった?」


「はいっ!分かりましたっ!」


 いっさいの迷いの無い即答だった。


 相変わらずノゾミちゃんは魔法を覚えるのが異様なほど早い。


 相当魔力との相性がいいんだと思う。


「それじゃ、やってみよっか?

 呪文はゆっくりで大丈夫だからね」


 安心させるように微笑みかけてから、また『いい精霊が来ますように』と祈りを込めてノゾミちゃんの頭にキスをする。


 …………ま、前の二人もいい精霊はいい精霊だし、祈りは通じているはずだ。


「えっと……わが魔力をかてに……せーれーよ、つどえっ!《精霊召喚》っ!」


 魔法の構築も早いノゾミちゃんの《精霊召喚》があっという間に完成する。


 そして、ノゾミちゃんの呪文に合わせて《精霊召喚》が励起される。

 

 …………。


 ……される……はずなんだけど。


 あれ?精霊来ない。


 精霊にとって『こっちの世界』での距離は関係ないみたいなので、《精霊召喚》が届く距離に精霊がいなかったとかそういう事はないはずなんだけど……。


「えっと、もしかして、ノゾミちゃん魔法失敗した?」


 ノゾミちゃんは新しく教えた魔法も一瞬で完璧に習得してしまうのでまったく考えていなかったんだけど、初めて使う魔法だしそりゃ失敗もあり得る。


「んーん、成功したと思うよー?」


 でも、ノゾミちゃん自身は魔法が成功した手応えを感じているらしい。


 んー?なんだろ?もう一回やっちゃっていいのかな?


 一日に二度以上精霊を呼ぶのは精霊の機嫌を損ねるからやめたほうがいいと言われているんだけど……。


 来なかったケースっていうのは初めてだからどうしていいのか分からない。


「あ、来たよ」


 初めての事態に困惑しているとノゾミちゃんのちょっとホッとしたような可愛い声が聞こえた。


 見てみればノゾミちゃんの前に光が集まり始めている。


 良かった、単なるタイムラグかなんかだったみたいだ。


 しかも、来てくれたのは光の精霊みたいだ。


 二重の意味で安心している僕の頬を風が撫でた。


 ブリーゼ?


 ブリーゼがなにか教えようとしているようで、ノゾミちゃんの方を指さしている。


 …………ノゾミちゃんの左後ろに風が集まり始めている。


 気づけば右後ろには火が集まり始めていた。


 三体同時召喚とかあるのっ!?


 無作為に『誰か来てー』と呼んでいるだけだから来るのが一体だけじゃない時もあるのかもしれないけど……こんなの聞いたことがない。


 驚いている僕の前で三体の精霊がほぼ同時に顕現する。


 アリスちゃんの前にいるのは大人の……20代くらいの少しふくよかないかにも優しげな風貌をした女性の光の精霊。


 四枚二対の翼を持った上位精霊で、ほとんど体が透けていないくらいの『濃さ』で顕現している。


 そして右後ろにはノゾミちゃんと同じくらいの年に見えるやんちゃそうな風貌をした男の子の姿をした火の精霊がいる。


 こちらも四枚二対の翼を持った上位精霊で、体の色もかなり濃い。


 そして、左後ろには風の精霊が顕現していて、同時に顕現した火の精霊に睨みつけられていた。


 風の精霊もノゾミちゃんと同じくらいの年かほんの少しだけ大きいくらいの女の子の見た目をしている。


 少し気弱そうな印象に見えるのは相性の悪い火の精霊に怯えているせいだろうか?


 風の精霊は六枚三対の翼を持ったポチちゃんと同格の精霊で、しかもポチちゃんよりさらに濃く顕現していて自らの纏う風で髪が常にフワフワ揺れていなければ有翼人の子供と言われても分からない。


 ここまではっきりと顕現している精霊って初めて見た。


 小さな見た目でもたぶん三体の中で一番強い風の精霊だけど、火の精霊に対する苦手意識は変わらないのか睨みつけてくる火の精霊から怯えるように目をそらしていた。


 ……と思ったら、我慢できなくなったのか僕の方に駆け寄ってきて、後ろに隠れた。


 それを見ていた光の精霊が火の精霊の方を見る。


 光の精霊はニコニコと笑っているだけなのに、火の精霊はシュンっとうつむいてしまった。


 叱られたかなんかしたんだろうか?


「えっと、せんせえ、どーすればいいのー?」


 ほんと、どうすればいいんだろうね?


 とりあえず、また火の上位精霊は出てくるわ、同属性とは言え自分より格上の……かけ離れてるくらい格上の風の上位精霊は出てくるしで必死で自分の存在感を消そうとしているブリーゼに『帰っていいよ』と伝えた。


 いてくれてありがとう、すごい心強かったよ。


 僕の精霊がブリーゼたちで良かった。




 まず、複数の精霊と契約すること、これ自体は問題ない。


 僕自身、火・水・土・風と四体の精霊と契約をかわしている。


 それこそ本職の精霊使いだと火属性だけで何体かの精霊と契約していたり、すごい人だと何十体もの精霊と契約していたりする大ベテランもいる。


 《精霊召喚》には一体につき一日一回という縛りがあるので、数多くの精霊と契約しているのはそれだけでアドバンテージになる。


 問題点はいかにして精霊との関係性を保つかで、契約だけしてそのまま放置とかするとどんどん関係性が悪くなってくる。


 不思議なことに関係の悪い精霊がいると、他の精霊との関係も悪くなりがちなので「呼ばなくなった精霊は怒らせてしまったとしてもきちんと契約解除するように」と『前』のパーティーメンバーだった精霊使いさんに教えてもらった。


 どうやら精霊同士での何らかの情報網があるらしい。


 他にも実用面での問題もあるんだけど、一応、今回来てくれた三体の精霊と契約すること自体は問題ない。


 無いんだけど…………複数『同時』での契約なんて出来るの?


 前例をまったく聞いたことがないので全然分からない。


 なんにしてもとりあえずは『話し』を聞いてみるしか無いか……。


「ノゾミちゃん、精霊さんたちと意思疎通……話しは出来そう?」


「うん、今も光のおねーさんが火の子叱ってるの分かるからたぶんだいじょーぶ」


 そう言って嬉しそうにVサインをする。


 アリスちゃんも意思疎通できていたし、中位以上の精霊とは契約前から意思疎通可能と考えて良さそうだ。


 と言うか、やっぱり叱られてたのか……。


 自分以外に向けられた意志も感じ取ることが出来るんだな。


 僕には分からないけど、召喚者だからかノゾミちゃんが特別なのか……。


 様子を見る限り他の子達も光の精霊がなにを言っているのかは聞こえていないみたいだ。


「えっと、叱ってるって怖い感じ?」


「んーと……優しく怖くてせんせえが怒ってる時みたいな感じ」


 え?僕そんな?


 怒る時は結構厳しく叱ってたつもりだったんだけど。


 いや、そもそもノゾミちゃんはしっかりし過ぎてるくらいしっかりした子だから叱ることなんて滅多にないけどさ。


 覚えている限りでまともに叱ったのなんて、一人で包丁を触ろうとしてたときくらいだ。


 その時はたまたまみんな忙しそうにしてたから代わりにご飯作ってくれようとしたんだけど、まだ危ないから一人で刃物は触っちゃだめ。


「えっと、怖くないなら光の精霊さんから話してみる?」


 強さから考えれば僕の後ろに隠れてプルプルしている風の精霊なんだけど、強すぎて対価が怖い。


 火の精霊は気性が心配だし、ここはやっぱり光の精霊から話をするのが一番安心だと思う。


「うんっ!やってみるっ!」


 笑顔で言うノゾミちゃんの頭を優しく撫でた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ