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33話 精霊

「あ、あの……それってボクたちに出来るんでしょうか……」


 僕の説明を聞いたユーキくんは不安そうな顔をしている。


 チラチラとノゾミちゃんのことを横目で見ているし、一番年下のノゾミちゃんのことが心配なんだろう。


 僕としてもノゾミちゃんどころか、ユーキくんとアリスちゃんにとってもまだまだ早いと思っている。


 だけど村の状況がきな臭くなってしまった以上、外付けでもある程度の自衛力を身に着けてもらっておいたほうがいいと考えた。


 出来る限りは僕がみんなのことを守るつもりだけど、相手は狡猾な冒険者崩れだ。


 何らかの手を使われて引き離されないとも限らない。


「さっき言った通り魔法自体は問題なく覚えられると思うよ。

 契約も基本的には問題ないと思う。

 ただ、たまに乱暴な精霊が召喚されたりするから……」


 《精霊召喚》の魔法自体には特定の精霊を召喚する効果はない。


 《精霊召喚》だけでは周囲に『精霊を呼んでるよー』っていう合図を送るだけで、それに気づいた精霊が勝手に寄ってくると言うだけだ。


 そこに僕で言えばブリーゼのような契約した精霊の情報を組み込むことで『ブリーゼを呼んでるよー』という特定の精霊を呼び出す魔法になる。


 だから契約した精霊の情報のない《精霊召喚》ではどんな精霊が来るのか分からない。


 もし話が通じないような乱暴な精霊がきたりしたらとんでもないことになりかねない。


 僕の説明を聞いた子どもたちの顔が不安で曇る。


 ユーキくんなんかはさらに『そんな危ないことをしてでも自衛力を身に付けなきゃいけない状況』という事にまで思い当たったようで、もはや厳しい表情をしているとすら言える。


「い、いや、危ないって言っても注意すればそこまで危ない話ではないから」


 基本的には召喚者の性格……魔力の性質にあった精霊が来るし、そもそもまだそれほどみんなの魔力が高くないので僕の手に負えないようなのは来ないはずだ。


 最悪でも全力で《精霊送還》の魔法を使えば帰ってもらうことは出来る。


 そうなると精霊を怒らせることになるので、しばらく呼ぶことはできなくなっちゃうけど致命的な被害が出たりすることはない。


 子どもたちが不安そうに顔を見合わせている中、ユーキくんが高く手を挙げる。


「ボ、ボクやってみますっ!」


 流石は勇者と言うか、こういう時にいつも一番に手を上げてくれるのはユーキくんだ。


 ユーキくんについては少し不安があったんだけど……こうなったら仕方ない。


 ある意味一番初めのほうが対処がしやすいと考えよう。


 精霊を召喚する場合、使用者の魔力の性質によって召喚されやすい精霊が決まる。


 魔力の性質とはつまり僕がステータス上で見ている魔法の適性のことなんだけど……。


 ユーキくんの適性は


 【魔法適性 火:B 水:- 土:- 風:- 聖:C 邪:-】


 と火が高い。


 火の精霊は火のイメージ通り気性が激しいのが多いから契約が難しくなる場合が多い。


 どこかのんきな僕のブリーゼみたいに、使用者と似た性格の精霊が来ることが多いからユーキくんならそう心配はいらないとは思うんだけど……。


「…………どう?構築式はわかった?」


 ちょっと不安に思いながら、ユーキくんを抱えるように一緒に触媒の小さな銀の杖を持って《精霊召喚》を教える。


「……はい……大丈夫だと思います」


 ユーキくん、初回だけは覚え早いんだよなー。


 魔法の性質的に『とりあえず練習』という訳にはいかないからここからはぶっつけ本番だ。


「それじゃ、《精霊召喚》を使ってみて。

 大丈夫、なにがあってもフォローするからあんまり緊張しないでね」


 …………ちょっと悩んだ後、ユーキくんの頭にキスをしてから離れる。


 どうか変なのが来ませんように……。


「……我が魔力を糧に、精霊よ、集え……《精霊召喚》」


 ユーキくんが呪文を唱え終わると、ちゃんと《精霊召喚》が励起してユーキくんの前にどこからともなく火が現れ固まり始める。


 予想通り火の精霊がやってきた。


 さあ、ここからはどんな精霊が現れるか運次第だ。


 どうか気難しいのは来ませんようにっ!


 出来れば『前』のときの精霊来てくださいっ!


 『前』にユーキくんと契約していた火の精霊は常に笑顔を絶やさない明るくて優しい精霊だった。


 彼のことを思い浮かべて祈りながら火の精霊が顕現しきるのを待つ。


 集まった火が徐々に人の体を作りはじめ……ユーキくんと同い年くらいの火の精霊が顕現した。


 …………なんかすごいの来ちゃった。


 見た目の年齢はその精霊の精神性を表している。


 ユーキくんと同じくらいの子供の姿をしているということは、見たままの年ということは当然無いけど精霊としてはまだだいぶ若いということだ。


 そして、身体の色の濃さはどれだけはっきりとこの世界に顕現しているか、つまりどれだけ強いかという目安になる。


 ユーキくんの呼び出した精霊の女の子はほとんど透けていないくらい濃い肌の色と燃えるような赤い髪をしていた。


 最後に精霊としての格が翼として現れる。


 ブリーゼのような下位精霊は翼がないけど、中位になると二枚一対の翼が生える。


 そして上位になると四枚二対になってどんどん格が上がるごとに翼が増えていくんだけど……。


 なんか呼び出した子、六枚三対の翼があった。


 上位精霊どころか、上位精霊のうちでも上位の精霊だ……。


 火の精霊と相性の悪い風の下位精霊のブリーゼなんて彼女の姿を見ただけで僕の後ろに隠れて小さくなっている。


 これはマズイ。


 戦力になるくらいには強い精霊が来てほしいと思っていたけど、これは強すぎる。


 とてもまともに制御できる存在じゃない。


 気性の荒い火の精霊、まだ成熟していないと思われる精神性、格が上がるに合わせて上がる気位。


 そしてなによりも僕では太刀打ちも出来ないほどの強力な魔力。


 このレベルの精霊だと下手に声をかけるだけで不遜と取られかねない。


 流石にこんなのが来るとか想定外もいいところだ。


 これは全力でお帰りいただくコースしかない。


 慌てて《精霊送還》を頭の中で構築する。


 間に合ってくれっ!


 焦る僕の前で火の精霊はユーキくんに向かって一歩踏み出し……。


 そのまま忠誠を誓った騎士のように膝をついた。


 …………へ?


「えっと、先生、この後ってどうすればいいんてしょうか?」


 呼び出した精霊に合わせて契約の方法を説明するつもりだったから、この先のことを聞いていないユーキくんがちょっと戸惑った様子でこちらをみる。


「え、えっと、とりあえず帰っていただくからそのままちょっとまってて……」


 精霊がなにを考えているのか分からないけど、大人しくしてくれている間にお帰りいただくしか無い。


「え?でも、なんかご主人さまにお仕えしたいって言ってるんですけど……」


 はい?


「え?なに?その子と意思疎通できるの?」


「え?はい」


 呆然としている僕に、ユーキくんは普通にうなずく。


 えー、僕ブリーゼの言ってることなんとなくしか分かんないよー?


 そ、それはともかく、もうユーキくんを主人として『お仕えしたい』と言ってくれてるってことは契約してくれる気があるということだ。


 ……でも、このレベルの精霊と契約するとかどれだけの対価が必要になるか……。


 契約を結ぶには当然『対価』が必要になる。


 僕の場合はブリーゼに魔力をあげることを対価にしているんだけど、当然精霊が強力になればなるほど要求してくる対価は重いものになる。


 伝説には12枚6対の翼を持つ上位精霊と命を対価に一時の契約を結んだものもいたと言われている。


 強力な戦力はほしいけど、流石にそんな対価をユーキくんに負わせることは出来ない。


「え、えっと、火の精霊さんはなにがほしいって言ってる?

 と言うか、そういうことも意思疎通できる?」


「聞いてみますね。

 …………指が一本ほしいって言ってます」


 このクラスの精霊と指一本で契約……。


 ユーキくんは嫌そうな顔して精霊のことを見ているけど、これはありえないほどの破格の条件だ。


「えっとね、この場合の『指がほしい』っていうのは、肉体的に指がほしいって意味じゃなくって指に住ませてほしい的な意味でね?」


「……それって具体的にどうなるんでしょう?

 指が動かなくなるとかですか?」


「ううん、そんなことはない……はず。

 僕も腕をあげた人の例しか自分の目では見たことないけど、その人は普通に腕動かしてたよ。

 その代わり精霊にあげた腕……左腕には精霊が嫌がるからって装飾品とかそう言うのは一切つけてなかったな」


 『前』一時的にパーティーをくんでいたその女性は服すら左腕の袖は切り取っていた。


「…………左手の薬指以外ならいいですけどぉ」


 ユーキくんはすごーい嫌そうにしているけど、上位精霊クラスとの契約が指一本で済むって本当に破格の条件なんだよ?


「あ、この精霊、小指一本でいいって言ってます」


 ほ、本当に物分りのいい?精霊さんだなぁ……。


「え、えっと、ユーキくんはその条件でいい?」


「…………この子、役に立ちそうですか?」


 え、『役に立つ』とかいうのが不遜になるくらいすごい子です。


 とりあえずユーキくんを変に緊張させてもいけないので、ただうなずくだけにしておく。


「それなら契約します」


 そう言ったユーキくんが左手の小指を精霊に差し出すと、精霊が契約の証のように小指にキスをする。


 その途端、ユーキくんの小指の爪が真っ赤に染まった。


 これで契約完了だ。


 色々びっくりしたし緊張したけど、無事終わってよかった。


「あとはその子に名前をつけてあげてね。

 たぶんこれからずっと役に立ってくれると思うから、そのつもりでね」


 普通、契約者が成長したりしたら新しい精霊と契約し直すものだけど、この子以上の子はなかなかいないと思う。


「…………それじゃ、ポチで」


 はい?


「え?なんて?」


「ポチです」


「まってっ!この子一生モノだからっ!!

 絶対すごい役に立つからっ!!!」


「…………ポチです」


 え?なに?ユーキくんこの子のこと嫌いなの?


 なんかすごい不機嫌そうに精霊……ポチちゃんのことを見てる。


「…………ボクのほうが絶対役たつもん……」


「え?なに?」


「なんでも無いです……」


 と、突然抱きついてきたけどどうしたんだろう?


 …………反対側からポチちゃんも僕に抱きついてきているし……。


 君の契約相手、ユーキくんだよ?


 ブリーゼが怖がるから離れてほしい。

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