32話 召喚
「おはようございます、ご主人さま」
顔に柔らかい感触を感じた気がして目を覚ましたら、ユーキくん……ユーキが幸せそうに微笑んで僕の顔を見ていた。
「お、おはよう……ユーキ」
「くぅん♡」
一瞬で感極まってしまったらしいユーキが落ち着くまで撫で回した。
二人でじゃれ合っているうちにいい加減起きる時間になったので身体を起こすと、ユーキがこちらに首を見せて来た。
リンたちの首輪と違ってユーキの首輪の留め具は小さい分鍵を仕込むなんて言う複雑なことは出来なくて、単純な留め具だから自分で簡単に外せる。
それでもユーキは僕に外してほしいようなので、首に手を回して少しだけ首輪を撫でた後、パチンと留め具を外す。
「はい……ユーキくん」
ちょっと迷った後、いつも通り『くん』付けで呼んで首輪を手渡す。
なんとなくそっちのほうが二人でイタズラをしている感があっていい気がした。
「ありがとうございます、先生」
嬉しそうに僕から首輪を受け取ったユーキくんは器用に元の腕輪状態に戻すと、腕につける。
「あ、あの、ボク先に顔洗ってきます」
そして恥ずかしそうにパッと寝巻き代わりの貫頭衣をかぶると足早に部屋を出ていった。
…………リンに許可を貰わないといけないことが増えてしまった。
軽く身だしなみを整えて広間に向かうと、すでに年少組の二人以外は起きていた。
そして、リンとギルゥさんを見てキャイキャイやっている。
「おはよう、みんな」
朝の挨拶をする僕に、みんな口々に返事をしてくれる。
「先生っ!リンちゃんたちの新しい首輪すごい可愛いですっ!!」
そして、シャルが興奮した様子でリンたちの首輪を見ている。
恥ずかしいのも忘れるくらいだから結構な大興奮だ。
見られている方のリンとギルゥさんも恥ずかしそうにしている。
「いいなー。
リンちゃんたち良いなぁ……」
い、いや、そんなに羨ましそうにしなくても……。
たしかに可愛いけど、結局は首輪だよ?
も、もしかしてシャルも首輪したいんだろうか?
そんな事になったらうちの子達のほとんどが首輪付きということになってしまう。
…………考えてみたら、もうすでに半分は首輪付きなのか……。
「シャ、シャルには別の用意してあるから」
いつの間にか孤児院がいかがわしいことになりかけている気がして慌てて隠していたプレゼントのことを打ち明けた。
「え、えっ!?ほ、ほんとですか……?」
「う、うん……ま、また後で渡すね」
自分にもプレゼントがあると聞いたシャルが恥ずかしがっているけど、僕も恥ずかしい。
指輪を渡すのは首輪を渡すより恥ずかしい気がする……。
「え、えっ……ど、どんな首輪なんだろう……」
だからなんでそんなに首輪に興味津々なのっ!?
シャルにも首輪あげたほうがいいのかなぁ……?
でも、シャルの場合ユーキくんの場合と違って切羽詰まった感じじゃないしなぁ。
単に可愛いものがほしいだけに近いものを感じる。
…………そしてどことなく邪なものが混じっている気もする。
「あっ、ユーキくんも可愛いのしてますっ!」
シャルが今度はユーキくんの腕輪に気づいたみたいだ。
「うわぁ……この腕輪も先生のプレゼントですか?」
「う、うん……そう……」
『腕輪』をしげしげと見られているユーキくんが恥ずかしそうにシャルに答えながらこちらをチラチラ見ている。
「カワイデス」
リンとギルゥさんまで『腕輪』を見始めてしまったけど、その正体についてはバレていないようだ。
「いいなぁ、みんないいなぁ……」
この中で一人だけプレゼントを貰っていないシャルが羨ましがってしまっている。
「せ、先生……わ、わたし……う、羨ましいです……」
とうとう恥ずかしそうにだけどはっきりと羨ましいとまで言われてしまった。
う、うぅ……。
どちらかと言えば引っ込み思案なシャルがここまで言うってことは本当に羨ましいんだろうけど、さすがに指輪をみんなの前で贈る度胸は僕にはない。
「く、首輪じゃないけどシャルのもちゃんと用意してあるからっ!
こ、今度二人っきりのときに渡すから……」
「ふ、二人きりの時……」
渡す予告をされてようやくシャルも安心したのか、恥ずかしそうに静かになった。
「首輪じゃない贈り物…………二人っきりで贈り物……」
今はプレゼントがなにか想像しているみたいだ。
「…………だ、だめですぅ♡そ、その『贈り物』は、ま、まだ早いですぅ♡」
…………シャル?
仕事を始めたギルゥさんを除いての四人で軽く朝の運動。
水を浴びて汗を流して、家に戻った頃には年少組の二人も起きてきたのでそのまま朝ごはん。
朝ごはんの前にネーニャさんたちを迎えに行こうかちょっと迷うけど、今日はご両親もいるって言ってたし大丈夫だろう。
他の子たちのことも気になるけど、村長さんとの約束で家なんかは聞けなかったから、村長さんがしっかりと冒険者崩れたちを牽制してくれていると願うしか無い。
……酷い扱いをされていた二人については『農奴』という情報だけはあるので後で少し当たってみよう。
後の二人についてはほとんどお手上げ状態だ。
特にレオンの知人だった子については顔すらはっきり見ていない。
クスリを使われていた方の子だけでも状況を確認しておきたい。
…………なにか考えてみよう。
朝ごはんを食べたあとはいつも通り勉強の時間なんだけど……。
「今日はちょっと危ないことをするので、お外でやります」
僕の言葉を聞いた子どもたちの顔が緊張で引き締まる。
ノゾミちゃんまで真面目な顔になっているんだから、本当にしっかりした子たちだ。
「とりあえずはやってみせるから、見ててね」
意識を集中して魔力を編み上げて魔法を構築し、呪文を発して励起する。
「《風霊召喚》」
魔法が完成すると、周囲から風が吹き付けるように集まってきて……いつの間にか小さな妖精が僕の顔の前にいた。
「みんなも見たことあるよね?
これが《風霊召喚》……《精霊召喚》の魔法だよ」
みんなによく見せるために妖精を僕の前に並んで座るみんなのもとに行かせて挨拶させる。
妖精は一人ひとりにちょこんと頭を下げて挨拶すると、最後はノゾミちゃんの頭の上に落ち着いた。
ノゾミちゃんは今の時点で僕と同じくらい風魔法との相性がいいので居心地がいいのかもしれない。
妖精に頭の上に乗られたノゾミちゃんは、嬉しいと緊張が混ざりあった顔で固まっている。
「ということで、今日はみんなに精霊と契約してもらいます」
僕の言葉を聞いたみんなの顔が興奮で輝いた。
「先生、契約ってどうやってするんですか?」
手を上げたユーキくんが不思議そうな顔で聞いてくる。
「うん、それが今日の本題。
とりあえず《精霊召喚》の魔法自体はみんなならすぐに覚えられると思うよ」
「ま、魔法『自体は』……ですか?」
「うん、シャル、問題はそこでね。
《精霊召喚》って言葉通り精霊を召喚する魔法でしか無いんだよね」
みんなよく分からないという顔をしたまま僕の話を聞いている。
「とりあえず、見せたほうが早いと思うからちょっと見ててね」
みんなに一言前置きを言った後で風の妖精に声をかける。
「ブリーゼ、こっちに来て元の姿に」
僕に呼ばれた妖精がノゾミちゃんの頭から僕の横に来て……一瞬の突風の後、少しだけ緑に色づいた透明な女の子になる。
フワフワとした長い髪が自らのまとっている風で舞っている僕くらいの年の可愛い女の子だ。
突然現れた女の子にみんなが目を丸くして驚いている。
「これが僕の契約している風の下位精霊の本当の……というか一番楽な姿。
流石にこの姿のままだと目立つから普段は小さい妖精みたいな姿になってもらってるんだ」
さらに言えば本当に楽な姿だと風に戻っちゃうんだけど、そうなるとただの自然現象になっちゃうからそれは帰ってもらうのと同義だ。
「この子……ブリーゼとは僕が魔力をあげることを対価に僕の言う事を聞いてくれるっていう契約を交わしているんだよ」
そう言っている間にもブリーゼは僕に抱きついて魔力を吸っている。
風が肌を撫でてちょっとこそばゆいけど我慢だ。
「そして、話は元に戻るけど、《精霊召喚》の魔法はブリーゼみたいな精霊を呼び出すことまでしかしてくれない。
ということで、今日は精霊と契約を結ぶのが本題です」
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不具合情報:
・不具合内容:一部地域における召喚システム周りにおいて、予期せぬステータス値を持つ対象が召喚される場合がある。
現在、上記不具合の発生を確認しております。
鋭意原因究明中でございますが、該当対象は本来想定していない行動を取るおそれがございますので、該当地域においては召喚システムの使用を控えていただきますようお願いいたします。
該当地域の方にはご不便をおかけいたしますことを心よりお詫びいたします。
今後も、当ゲームをよろしくお願いいたします。




