表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/117

29話 帰宅

 村長さんちから出て、少し進んだところで木立に身を隠し村長さんちに引き返す。


 ドアが見えるところに戻ったときには、すでに村長さんが家から出てくるところだった。


 一日置けば被害者が……村長さんの損が増えかねないことだからか、動きが早い。


 危うく行き違いになりところだった。


 周りを気にする余裕もない様子の村長さんの後をつけると、たどり着いたのは案の定レオンのたまり場だった。


 村長さんがたまり場に入って少ししたあと……。

 

「お前は一体何を考えているんだっ!!!???」


 まるで悲鳴のような村長さんの叫び声が漏れ聞こえてきた。


 漏れ聞こえてきたのはそれだけで、その後はなにか言い合いをしているような気配しか伺えない。


 どんな話になっているのか確認したいところだけど、立て続けの異常事態に冒険者崩れ共も警戒しているだろうから無理をするのは止めておこう。


 しばらく言い合いを続けていた村長さんが、四人の女の人を連れてたまり場から出てくる。


 今日の被害者たちだったのだろう。


 うち三人は乱れた服装のままおぼつかない足取りでぼんやりと歩いている。


 …………その中の一人なんて僕より年下にすら見える。


 他の子達もとてもじゃないけど、商売で来ているといった感じではない。


 特に、ぼんやりとしている女の子たちは酷い有様で色々と『治療』をしたくなるけど、村長さんに保護された今となってはそういうわけにもいかない。


 ………………。


 ……本当にいかないか?


 今僕がここで顔を出しても、せいぜい手の内の何枚かを晒すだけだ。


 彼女たちの『傷』と比べるものじゃない。


 覚悟を決めて隠れていた木立から出ていく。


「村長さん」


「うぉっ!?…………な、なんだ貴様か。

 つけてきていたのか?」


「いえ、僕も念のためたまり場を確認しようと思っていただけです」


 信じるかは置いといて、素直につけていたという必要もないだろう。


「…………どうだかな。

 とにかく、これは村の問題だ、部外者は黙っててもらおうか」


 被害者のことを知られてこれ以上弱味を増やしたくないという考えもあるのかもしれない。


 村長が足早に女の子たちを連れて去ろうとするので、その後ろ姿に声をかける。


「僕は彼女たちを『治療』することが出来ます」


 ここで押し問答をしていても仕方ないので、初手で手札を晒していく。


「ここで彼女たちの『被害』を少しでも減らしておいたほうが、後々の話も少しは楽になると思いますが?」


 僕の言葉に足を止めて振り返った村長さんに、分かりやすい『利』を見せる。


「もちろん、彼女たちの為にも僕の方からこの件を広めるつもりはありません。

 彼女たちの素性を詮索しないことも約束します」


 考え込んでいた村長さんだけど、これがトドメになったのか重かった口を開く。


「…………分かった、お前が治療することを許可しよう」


 いいざまはムカつくけど、村長さんなりの最大限の譲歩だと思おう。


「感謝します」


 村長さんに頭を下げると、女の人達を連れて村長さん宅に急いだ。




 村長さんちに四人を連れて行き、とくに酷いことになっている三人を客間に寝かせると治療を始める。


 そのうちの二人は行為の時に出来たとは思えないほど酷い怪我をしていた。


 一番小さい子に至っては、指の骨が折れている。


 抵抗した際に出来たものなのかもしれない。


 二人共クスリのせいであまり痛みを感じていない様子なのが良かったのかどうか……。


「……その二人は農奴の娘だな」


 僕が変なことをしないか監視すると言ってついてきていた村長さんが教えてくれた。


 酷い扱いをしても、最悪いなくなってもそれほど騒げない相手ということか。


 奴らがなにを考えていたか想像できてしまい、反吐が出そうになる。


 僕のことが映っているのかどうかわからない目に見つめられながら、三人にネーニャさんと同じ『治療』を施す。


 これで表面上の被害は消えたはずだ。


 あとはクスリの効果が切れるのを待つだけ。


「もう一人は?」


「…………あいつはレオンの知り合いという事だからそのまま帰した」


 あっちは一応合意の上だったのか……。


 良かったと言うかなんというか。


 今日の被害者は三人、昨日はネーニャさん+α、そしてその前は……?


「……なんとかしてください」


 渋い顔をしている村長さんを見つめながら言う。


「………………分かっておる」


 村長さんは僕から目をそらしてそう言った。




 家に帰り着いたときにはもうすっかり遅くなっていた。


 夕飯の時間が過ぎているどころか、年少組は寝ている時間だ。


「た、ただいまー」


 年少組を起こさないように小さく声をかけて家の中に入る。


「あー、せんせぇおかえりなしゃいー」


 入ってすぐの広間で完全に寝ぼけた声のノゾミちゃんに出迎えられた。


「え?ノ、ノゾミちゃん?なんで起きてるの?」


 年少組でもユーキくんとアリスちゃんは起きていることがあっても、ノゾミちゃんは絶対に寝ている時間なのに。


 実際、ノゾミちゃんはもうほとんど寝ているような危ない足取りでトテトテと歩いてくるので、慌てて抱き上げた。


「先生におやすみ言うまで起きてるって聞かなくって」


 その様子を見ていたユーキくんが苦笑いで言う。


 ユーキくんもアリスちゃんもノゾミちゃんに付き合って起きていたらしくて、広間のテーブルにはギルゥさんまで含めた全員が揃っていた。


「せんせぇ、おつかれしゃまでしたぁー」


 驚いている僕を、完全に夢の中にいる声のノゾミちゃんがねぎらってくれる。


 涙出そう。


 今日は色々嫌なもの見てきたからみんなの笑顔が心に染みる。


「せんせぇー、おやすみのちゅー」


「うん、おやすみ。

 遅くまで待っててくれてありがとうね」


 ノゾミちゃんのサラサラの髪をかきあげて、いつも以上に心を込めておでこにキスをする。


「うへへー♡」


 嬉しそうに笑ったノゾミちゃんが、おやすみのキスを返してくれるために顔を寄せてくる。


「おかえしー♡」


 そしてそのまま……普通にキスされた。


「ノ、ノゾミちゃんっ!?」


「せんせぇ、おやしゅみなしゃーい……」


 ノゾミちゃんは僕の腕から降りると、寝ぼけた様子のまま何事もなかったようにアリスちゃんの部屋に入っていく。


 慌ててみんなに言い訳をしようとみんなの方を見ると、みんな微笑ましい光景を見たというふうな感じに笑ってみてた。


 そ、そうだよ、別に焦るような話じゃない。


 朝、ノゾミちゃんに『内緒』とか普段は言わないこと言われてたから、ちょっと焦ってしまった。


「そ、それじゃ、僕はお風呂入ってくるからみんなは先に寝なね」


『はーい』


 返事をしたみんなが僕の前に列を作る。


 …………そっか、いつもは流れで寝る人からやってたけど、いっぺんにしようとすると列ができるのか……。


 おやすみのキス待ちの列という不思議なものを見てしまった。


 今日くらい……とちょっと思ったけど、まあこういうルーチンを崩すのが気持ち悪いというのも分かる。


「それじゃアリスちゃん、おやすみ」


 アリスちゃんの触り心地のいい髪を持ち上げて、また心を込めておでこにキスをする。


 そして、お返しを待って腰をかがめるけど……。


 ん?なんかアリスちゃんがもじもじしてお返しをしてこない。


「あの……私も口の方がいい?」


「え゛っ!?」


 恥ずかしそうにそう言われて心臓が飛び出るほど驚いた。


 ふ、深い意味はないんだろうけど、そう言うのはユーキくんに取っといたほうがいいと思う……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ