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1話 負け戦

「なっ!?」


 数合の打ち合いの後、左腕を犠牲にして無理やり作った隙。


 がら空きになった全身鎧の隙間に突き刺したはずの剣先も、何故か弾かれてしまう。


 《全防御》。


 眼の前の敵、『不死騎士』が身に纏っている、邪神が作り出したと言われている漆黒の全身鎧。


 それが宿している付与魔法の名だ。


 その言葉の通り、すべての攻撃を完全に防ぐという常識ハズレの魔法。


 それを付与された神話級の鎧を身に纏った相手に僕は完全に攻めあぐねている。


「ぐふっ!!」


『不死騎士』の剣が僕の左脇腹をとらえた。


 胴鎧に当てることでなんとか致命傷は防いだけど、衝撃に息が詰まる。


 左手が使えなくなったことで出来た隙を『不死騎士』は的確に攻めてくる。


 絶望的なことに装備の質だけでなく、剣の腕に関しても『不死騎士』の方が僕より数段上だ。


 先程の決死の特攻が失敗した時点で僕の負けはすでに確定している。


 左腕は断ち切られこそしなかったものの、腱が断たれたのか力が一切入らない。


 それでも、僕の後ろに倒れている子達のために諦める訳にはいかない。


 右手一本でなんとか打ち合いを続けること数合。


「……つっ!?」


 切り裂かれた左腕から流れ続ける血に意識が揺らいだところで、『不死騎士』の剣が僕の剣を巻き上げ飛ばした。


 すぐには手が届かないほど遠くに飛ばされる僕の愛剣。


 大丈夫、まだサブウェポンとして持っている小剣がある。


 メインウェポンの魔剣と違って昔教え子たちから送られた何の変哲もない小剣だけど、彼らを守って戦う戦いにはふさわしいとすら思える。


 そんなただの強がりでしかない理屈を捏ね上げて士気を保つ。


 まだ戦える。


カラン。


 その乾いた音が耳に届いても状況が理解できなかった。


 小剣が手から滑り落ちた感覚に戦闘中だと言うのに思わず『不死騎士』から目をそらしてそちらを見てしまう。


 視線の先には床に転がる、柄が血に染まった小剣と……。


 親指が切り飛ばされてもはやまともに剣を握れなくなった、僕の右手があった。


 『不死騎士』はほとんど戦闘力の無くなった僕を一瞥すると、呆然と立ちすくむ僕の横を通り過ぎそのままゆっくりと歩き進んでいく。


 まとまらない思考のまま『不死騎士』の姿を目で追うと、その先に『不死騎士』の本来の目的である僕の教え子たちの倒れ伏す姿がある。


 守らなければ。


 その思いが頭に浮かんだ途端、混乱していた頭が落ち着いた。


 剣が持てなくなったくらいで動揺している場合じゃない。


 『不死騎士』が彼等のもとにたどり着くことだけはなんとか阻止しなければ。


 魔法。《全防御》を破れないのは戦闘中にイヤってほど思い知った。


 打撃。これも同じく《全防御》は破れない。


 関節技。


 …………体格が優位なうえに全身鎧を着込み、武器まで持った相手にどこまで有効かはわからないけどまずはこれか。


 ゆったりと歩みを進める『不死騎士』に全力で飛びつく。


 もうすでに僕のことは意識から外していたのかここまではうまく行った。


 そのまま『不死騎士』が対応に出る前に右腕を肘からへし折る。


 ボギリと鈍い音を立てて『不死騎士』の右腕がありえない方向に曲がる。


 よしっ、関節技はいける。


 そう思った瞬間、僕の左足に剣が突き刺さった。


 …………え?


 『不死騎士』が右手で握る剣が僕の左足に突き刺さっているのを見てもなにが起きているのか理解できなかった。


 一瞬思考が真っ白になった僕の目に、『不死騎士』が折れたはずの右腕で器用に剣を後ろ手に持ち直して僕の右足に突き刺す光景が入る。


 おいおい、骨折も意味ないのかよ……。


「ぐふっ……」


 呆然としている僕の体の中になにか熱いものが入り込んできた。


 視線をそちらに移すと、『不死騎士』の剣が背後から抱きついたままの僕の胴に深々と突き刺さっている。


 それを認識した瞬間、スウッと頭から血の気が引いた。


 胴から流れ出る血でそれが感覚的なものではなく物理的なものだと分かる。


 完全に致命傷。


 ならもうやれることはない。


 彼等を守れなかった無念さが嵐のように心を掻き乱すがもう諦めるしかない。


「《過剰励起》」


 魔法を制御しきれないほど同時に励起することによる、周囲を巻き込んだ魔力の暴走による爆破。


 事故でない場合、この際に励起する魔法はすべて防御魔法なのが基本だ。


 爆破の破壊力をすべて内側に閉じ込めるために。


 いわゆる自爆魔法。


 とはいえ魔法である以上《全防御》を破れるかは分からない。


 せめて気絶だけでもしてくれれば……。


 周囲の防御魔法に閉じ込められ荒れ狂う衝撃に体と意識を吹き散らされる瞬間、倒れながらもなんとかこちらを見ている教え子たちの姿が目に入った。


 どうか、彼等に幸多からんことを。

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