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脅し

 フランソル国の代表も一度拠点に戻り、改めて捜索の班決めをすることになったので今日は帰ったそうで、セシリアは青服に呼ばれて再度ガルシアの執務室の部屋へと足を向けた。


 セシリアに絡んできたあの男は捜索隊の副隊長で、同役職の者は複数人いるので、彼は滞在先の後方の事務作業に就くことになったとガルシアは告げた。


 その上で、今回の業務をどうするか尋ねてきた。


 辞退してもいいとは言ってくれたが、先方も騒動の根源を外す譲歩をしてくれたのだ。


 一度は引き受けた仕事だし、セシリアが辞退すればレザイーに負担がかかるのも申し訳ない。


「私は大丈夫です。やります」


 それを聞いてガルシアはほっとしたようで、目元を少し緩めた。


「引き続きゴジャックさんには私が同行しますので、何かあったり言われたらすぐに教えてください」

 ホルスターのある辺りを青服の上からぽんぽん叩く。


 頼もしいやら、おっかないやらで、セシリアは引き攣らせた笑顔でよろしくお願いしますと言った。


 レザイーを見るとにっこりと微笑んでいるので、先程のことで幻滅されたりはしていないようだと感じることができた。


「では、ここからはあなたのことについて少し伺いたいのですが」


 学術調査員の選定や招聘は中央省庁の仕事だが、左官などの職人や案内の子供達の採用はグレイディアスの行政官の仕事だ。


 現地採用職人に分類されているセシリアの身上について、中央の上級官吏であるガルシアが介入すべきことではないのだが、国家間での接触がある以上、念のために確認をしたいという。


 ここの責任者であると言っていたので、何か事が起きてから知らなかったでは済まされないから、それも当然だ。


 セシリアは理解を示し、聴取に応じることを認めた。


「私は席を外します」

 個人的なことにも話が及ぶと推量してか、レザイーは腰を上げた。


「いてくださっても構いませんよ。ご興味とお時間があるのでしたら」


 銃を携行したガルシアと二人きりというのも何となく怖いので、レザイーがいてくれると助かる。


「話したくないこともあると思いますが、できれば正直にお答えいただくと後々……」


「別に隠すことでもありません。私は海賊に攫われて人買いに売られてここに着きました。正式な移民ではありません」

 ガルシアの言葉を遮り、セシリアは被せて言った。


 レザイーは浮いた腰を下ろし、ガルシアは記録を残すためにペンを取った。



 フランソル国の義務教育期間は六歳から十四歳までで、セシリアは卒業と共に父の職場である貴族の屋敷で庭師として働くようになった。


 それから少しして母方の祖母が体を壊して、看病のために母は故郷のマルティーグと家を行ったり来たりしていた。


 だが、十六歳の時に祖母が他界し、セシリア達も祖父母が残した花屋を存続させるためにマルティーグに移り住むことになった。


 父の仕事で離れていたが、両親共にマルティーグの出身で顔見知りや昔馴染みもいるし、家族全員草木の扱いは慣れているので、事業継承は比較的容易なものだった。


 セシリアの特異能力もあり、潮風の影響を受けても長持ちしやすいように工夫しながら徐々に業績を伸ばしてゆき、十九歳の時には二号店を出店しようかと計画していた矢先だった。


「二号店は私が経営する予定でした」


 店舗候補の下見を両親と繰り返し、不動産屋からもらった図面を見てああでもないこうでもないと額を突き合わせて話していた。


「両親は、私には変な能力があるので、最悪の場合、結婚できなくても生活だけはしていけるように気遣ってくれたのだと思います」


 植物以外ではまったく役に立たない局所的能力の限界を憂慮していたのだろう。


 それに頼らず、生きて行けるように生花店経営の一端もセシリアに任せていた。


 普通の娘の幸せとは少し違うが、それはそれでささやかで幸せな家族の夢だった。


 反政府派の粛清が始まった頃で、マルティーグの港にも外国へ亡命する議員や貴族、商人を見かけるようになった。


「でも、そうなると海賊も横行するようになるんですよね。亡命する人達は持てる資産と一緒にきてますから」


 沖に出てから襲撃されたと聞いたこともあるし、宿で寝ているうちに強盗に遭ったと聞いたこともある。


 町の治安が悪くなり、警察も海兵もいるが蛮族制圧するまで手が回らないくらいになっていた。


 そんな時、折から強い風の吹く中で火事が起きた。火は瞬く間に延焼し、町は火の手に包まれた。


 セシリアも両親と共に風上に逃げようとしていた時に、何者かに頭を殴られて気を失った。


「気づいた時には、船室の檻の中でした」


 セシリアだけではなく、他に三人の若い女性がいた。


「海賊に攫われたんです。イスペリエ国に着いたら女衒に引き渡すと言われました」


 さらさらと音を立てていたガルシアのペンが止まり、レザイーの眉が中央に寄る。


「あ、でも大丈夫です。彼らも大事な商品には手を出したりしなかったし、色々《《交渉して》》この国に着くまで割と快適な環境を整えてもらいましたから」


 あることがきっかけで海賊に交渉する機会ができ、セシリアも剪定用の鋏とナイフを持っていたので、待遇改善しないなら全員刺して自分も死ぬと脅し、部屋は全員個室、料理は船長並みに質と皿数を増やしてもらった。


 船の上では逃げようもないし、ストレスでやせ細っては高く売れないだろうからと、好き勝手させることも嘆願した。


「話せばわかる人達で良かったと思います」



 どんな話し方をすれば海賊船で好き勝手できるようになるのだ、とガルシアもレザイーも思わなくはなかったが、その疑問は口から出ることはなかった。

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