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追憶の探偵  作者: 兎束作哉
第4章 追憶の探偵
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case17 幸せな走馬灯



「お前……が?」

「あ~その反応はびっくりしてる感じ? そういうこと?」



と、爆弾魔……高賀藤子は笑った。



(何で、こいつが? 意味がわからねえ……)



 思考が止りかけ、戦意が喪失しかけたとき、藤子の方から口を開いた。



「てっきりぃ~バレていたと思ったんですけど、思った以上に探偵さんがお馬鹿さんだったので、大丈夫でしたね。まっ、バレちゃったんでけど」



 そういうと藤子はきゃぴっと言った感じに笑う。馬鹿を演じているのか、それが素なのか分からないが、先ほどのキザと鼻につく喋り方の間ぐらいの口調だったのが一気に解けて本当に俺の知っている藤子の声で喋り方で言うものだから俺は、訳が分からないと首を横に振る。


 藤子の言った、バレていると思った。というのは、きっとあのことだろうと、ようやく戻ってきた思考がぐるりと考えを提示する。

 こいつがキツい香水をつけていた理由は、火薬の匂いを隠すためだったのだ。あの爆弾魔が使っていた爆弾は匂いが普段よりキツいらしく、染みこみやすいとか。それを気づかれないようにするために香水をつけていたのだと。

 ああ、もっと早く気づいていればよかったなと思った。だが、それだけじゃ証拠は不十分だろ。



「何で、こんなことをした。こんなの歴とした犯罪だろ!?」

「ん~何でって、綾子ちゃんのため?」



 そう藤子は悪気なさそうに言った。その発言にも意味が分からず、俺は聞き返す。綾子のため、だが綾子はそんなこと望んでいないはずだ。誰にも興味を示さないような、あの猫好きの少女がこんなことを望むはずないと、偏見と主観を混ぜつつ俺は思う。それに、綾子は命を大切にするような少女だ。それはきっと、母親の死や看護師になる為に色々見てきたからだろう。



「彼奴はそんなこと望んでいないだろ」

「は? 何で、探偵さんに分かるの? 綾子ちゃんのことをよく知っているのは藤子なの。なのに、私の綾子ちゃんを探偵さんが」

「言っている意味が分からない」



 いきなりキレだした藤子に俺は理解が出来ず反論する。

 すると、今度は藤子はニヤリと口角を上げた。



「まあ、いいや。その仕返しとして、探偵さんの恋人をドッカン出来たわけだし、そしてこれから探偵さんも藤子の爆弾でドッカンするわけだし……」

「俺は、犯行に及んだ理由を聞いているんだ」

「……だから、綾子ちゃんのため。うーん違うか、藤子のため」



と、彼女は満面の笑みで答えた。



「藤子ね、綾子ちゃんが大好きなの。綾子ちゃんが藤子を見てくれますようにってずっとずっとお願いしてるの。それでね、藤子考えたの、綾子ちゃんの周りから綾子ちゃんの大切な人を消しちゃえば、綾子ちゃんは私を見てくれるって! だから綾子ちゃんのお母さんも殺したし、綾子ちゃんの周りの人も一杯殺したの。綾子ちゃんから向けられる愛が欲しかったから!」



 そう、彼女は自分の願望を語った。

 それは俺には全く理解できないものだった。



(愛が欲しいから、見て欲しいから好きな人の大切な人を殺した? 意味が分かねえ)



 こんな奴に神津は殺されたっていうのか?

 そんな俺の心中を察したのか、藤子は「理解してくれなくて良いよ」と笑い、懐から手榴弾を取りだした。



「藤子の愛を理解してくれるのは綾子ちゃんだけで十分だから」



 そう言うと、藤子は手榴弾のピンを抜き、俺に向かって投げつけた。俺は、突然の事で逃げる体勢が取れず咄嗟に後ろに下がったが、その瞬間に手榴弾は大爆発を起こした。

 爆発の威力はそこまでだったが、かわりに俺は爆風に巻き込まれそのままコンクリートで出来た壁に打ち付けられた。



「凄いでしょ、藤子の爆弾。これ手作りなんだよ。一杯の愛が籠もってるの」



と、俺を上から見下ろし言う藤子。



「探偵さんが油断してくれたから上手くいっちゃった。探偵さん、藤子のこと撃てないでしょ?」



 目と鼻の先にある自分の拳銃に手を伸ばしたが、それをすかさず藤子に拾われる。

 藤子は俺の拳銃をジロジロと観察すると、その銃口を俺に向けた。



「でもね、藤子は撃てちゃうの。罪悪感とか感じないから」

「狂ってんな……」



 「命乞い?」などと、藤子は俺の言ったことにクスリと笑った。



 それから、俺の方へと歩み寄り俺の頬に触れる。藤子の手が冷たくて、火薬の匂いがし気持ち悪い。

 俺は睨み付けるが、藤子には効いていないようだ。藤子は俺の耳元に口を寄せると、色っぽい声で囁いた。



「感謝してよ、探偵さん。藤子が恋人の元に送ってあげるんだから」



 そう言って、藤子は俺に拳銃を構え直し、その引き金に指を掛けた。


 ああ、本当にダサいな――――



「最後に悪足掻きでもしてみる?」



と、藤子は馬鹿にしたように言った。


 俺は全身に力を入れたが身体が思うように動かなかった。先ほど強く壁に打ち付けられたためか、頭も背中も、全身が痛い。何とか肘をついて立ち上がろうとするが、何度力を入れてもその場で倒れてしまう。

 その間も、藤子はクスクス、あはは、と楽しそうに笑っていた。

 こんな奴に、本当に神津が殺されたのかと思うと悔しくて仕方がない。そして、そんな奴に勝てない、心の何処かで許してしまっている自分に嫌気がさした。



(何が仇をとるだよ……かっこ付けて……何も出来ていない……)



 こんなことなら二十面相の忠告を聞いておくべきだったと後悔した。俺は後悔ばかりしている。

 でも、結局俺が今動けていたとしても、爆弾魔の正体が藤子だと分かっていたとしても、俺は藤子の言うとおり彼女を撃てなかっただろう。



「それじゃあ、バイバーイ。探偵さん」



 パン――――ッ!


 そんな乾いたなんて耳元で銃声が聞えたと同時に胸が熱くなる。



「かはっ……ぁ……っ」



 胸を弾丸が貫き、視界に赤が広がっていく。コツコツと闇に消え遠くなっていく足音を聞きながら、俺は今にも動かなくなりそうな震えた右手で胸ポケットからかつて神津にもらった黒い手帳を取りだした。その中心には弾丸が貫通し出来た大きな穴が開いており、中にはいっていた写真も神津とのデートのメモも悉く穴が開けられていた。唯一の思い出の品、俺たちの記憶に穴が開けられている。それを見るのが何よりも悲しかった。


 心には、頭にはその記憶が残っていても。

 だんだんと合わなくなってぼやけ、暗くなっていく視界の中、俺はそこに何もないのに左手を伸し、薬指にはめられた指輪を見て、口角を上げた。



「……恭、わり……ぃな…………おれ、いま……よろこ、んで……るかも」



 俺は、そう最後に笑いながら目を閉じた。



 ――――お前の元にいけるんだぜ? なら、もう幸せだろ?




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