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追憶の探偵  作者: 兎束作哉
第4章 追憶の探偵
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case14 大嫌いな奴に



 神津を置いて季節は巡り巡って春が来た。


 神津と初デートに行った公園には、去年彼ときた日付と同じ日にいき、同じように一人でボートに乗り、まだ咲きかけの桜を見た。去年よりも少し開花が遅く、まだ満開ではなかったが、それでも花びらが散る姿はとても感慨深いものだった。去年はそれを一緒に隣で見てくれる人がいたのだと思うと、途端に悲しくなる。

 あの頃は幸せだったなと痛感して、時の流れには逆らえないことを改めて実感した。


 神津を置いて世界は進んでいく。俺の時は、あの日から止っているのかも知れない。前へ進もうと思っても、あの記憶が邪魔をする。

 俺が思い出すのは、神津との幸せな思いでだけで良いのに。

 手のひらに落ちてきた桜の花びらを握りしめて、過去をしのぶ。

 大丈夫だと、まだあの頃の記憶が優しさが心の中にあると、俺は神津がくれた温かさを必死に思い出して引っ張り出した。

 そんなことをしながら、四月をむかえ、もう少しで誕生日になると言うところで、事態が大きく動いた。それは何気ない代わり映えのしない日だった。事務所のポストを開けたとき、一通の手紙がはいっていた。依頼の手紙か、はたまた迷惑メールの手紙バージョンか。そんな軽い気持ちで見てみれば、差出人は書かれておらず、それでいて、妙に綺麗な封筒に入れられてた。

 事務所の中に戻り、その手紙を開けてみることにした俺は、何だか嫌な胸騒ぎがした。開けてはいけないと誰かが俺に訴えかけてくるようだった。そんなわけ、決してないのに、神津が開けるなとでも言っているようだった。



「……これは」



 俺はそんな幻聴を聞き流して、手紙を開けて目を大きく見開いた。

 手紙には短い文章で、こう書かれていた。



【明智春探偵へ


 貴様の恋人の仇を取る機会をやろう。

 4月13日に指定の場所まで来い。


 探偵が憎む爆弾魔より】



 俺は、それを読み終わる前にくしゃりと手紙を握りつぶした。

 巫山戯ている。



「今更なんだよ。全く手がかりも何も掴めなかったのに……今更、今更!」



 こんな手紙を送りつけて来て何のつもりだ? と、俺は怒りで頭がどうにかなりそうだったが、何とか冷静になろうと深呼吸をする。

 落ち着け、落ち着いて考えろ。

 偽の手紙にしては出来すぎている。相変わらず半年前と変わらない達も悪けりゃ、趣味も悪い奴だと思った。一体どんな奴が神津を殺した犯人だというのか。

 冷静になれと頭では分かっていたが、このチャンスを逃せばもう二度とこの爆弾魔を捕まえられないような気がして、俺はずっと棚の中にしまっていた拳銃を取りだし、弾を装填した。カレンダーに目を移し、指定された日付が三日後であることを確認する。



(俺の誕生日の前日か……それに、金曜日)



 不吉すぎるだろと、乾いた笑いが漏れたが、それでも俺は行くつもりだった。

 別に仇討ちを頼まれたわけではない。きっと、神津なら自分の命を大切にしてと言っただろう。だが、俺にはそんなこと出来なかった。大切なものを失って取り返しがつかないと分かっていても、神津の人生を、俺の人生共々踏み荒らしていった爆弾魔が許せないだけだ。

 気持ちを抑えるため、俺は一旦事務所の外に出ることにした。ベランダでもよかったが、神津と一緒に並んだあそこではダメだと直感的に思ったのだ。そうして、エレベーターをつかい1階まで降りれば、そこには見知った人物がいた。青髪を揺らし、その海の底のような瞳を俺にゆっくりと向ける。



「何でお前がここにいるんだよ。二十面相」

「やあ、明智君。久しぶり。そろそろ君が動く頃だと思って」



と、彼は貼り付けた笑みを俺に向ける。


 俺は、二年……もう三年前のことになるあの時のことを思い出し、一瞬からだが硬直したが、今はそんな過去の事よりも目の前のことに囚われて、二十面相への恐怖が薄れていた。



「単刀直入に言うよ。やめておいた方がいい」

「はあ?」

「君が追っている爆弾魔。そいつは、海外のマフィアと繋がっている。マフィアを敵にするわけじゃないし、そいつはお気に入りと言うだけで完全にそこに属しているわけではない。が、そいつの作る爆弾は芸術品だ。威力も他とは比べものにはならない。何より――――」

「んなこと、目の前で見たから分かってんだよ」



 俺は、二十面相の言葉を遮った。

 二十面相は目を細め、「まあ、落ち着きなよ」と呆れたように言う。何故此奴がここにいるのかは不明だが、その忠告は聞けなかった。

 海外のマフィアと繋がっていたとしても、爆弾の威力が比べものにならなかったとしても、俺には仇を取るということしか頭にはない。



「君に復讐は向いていない」

「仇討ちだ」

「どっちも同じだよ。それに、あの拳銃は、犯罪者を殺すために渡されたものじゃない。それを見誤ってはいけないよ。明智君」



と、二十面相は言うと俺と向き合った。


 今までに見たことの無い真剣な表情に、俺は息をのむ。此奴も人間らしい表情をするのかと思ったからだ。



「君は優しすぎるんだよ、明智君。だから、きっと殺せない。また逃がして、また後悔する」

「その口ぶりじゃ、犯人が分かっているようだな」

「……この件は公安でどうにかする。君は動くな」

「命令は聞けない。お前はもう俺の上司でも何でもないんだからな」



 俺がそういえば、「生意気」と二十面相は吐き捨てた。

 何と言われようとも、決意は揺るがない。決めたことは最後まで貫き通すつもりだ。



「君は変わってないね。そういう所が愛おしくで、大嫌いだった……そう、死ぬなよ。明智春」



 そんな二十面相の言葉を受けて、俺は事務所に戻る手前で足を止め、再び二十面相の方を見た。

 彼はどうしたの? とにこやかな笑顔を向けて俺を見る。



「二十面相……お前に頼みたいことがある」





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