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追憶の探偵  作者: 兎束作哉
第4章 追憶の探偵
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case12 お前の匂いを忘れたくないから



「明智先生、タバコ吸わなくなりましたね」

「ん? ああ……そうかもな」



 空の灰皿を見て、小林は不思議そうに目を丸くしていた。

 俺は、寝転がっていたソファから立ち上がり小林の頭を撫でた。神津と似た亜麻色の髪の毛先はチョコレートのように焦げ茶色をしている。



「タバコの匂いで、神津の匂いを消しちまったらいけないと思ったからな。それに、俺がタバコを吸ってたのは、親父を忘れないためだったわけだし」

「お父さんを?」

「ああ、殉職した俺の目標だった親父」



 俺がそういえば、小林はすみませんと頭を下げた。いちいちそんなことを気にしなくても良いと、俺はもう一度今度は乱暴に小林の頭を撫でる。

 小林は優しすぎるのだ。人のことを考えすぎて、自分に置き換えすぎて、人の痛みを自分も負って……いつか壊れてしまうのではないかと心配だ。



(つか、ほんと小学生には見えないんだよな……人生何周目なんだよ)



 そう思いつつも、頭を撫でられて気が紛れたのか小林は「やめてくださいよ」と言いながら笑っていた。こうして、小林がきてくれるだけでも、少しだけ虚しさが埋まる。ほんの少しだけだが。



「明智先生のお父さん会ってみたかったな……」

「すっげぇ、ヘビースモーカーだったんだぜ?」



 小林はヘビースモーカーの意味が分からないのか頭にクエスチョンマークを浮べていた。

 そういう所を見ると子供だなとは思う。



「タバコがやめられない男だったんだよ、親父は。だから、俺の着てるスーツにもその匂いが滅茶苦茶残っててな……まあ、でも凄く格好いい男だった。小林にも会わせてやりたかったな」

「あ、明智先生も格好いいです!」



と、小林は顔を赤くして慌てて言った。そんな姿はやっぱり可愛くて、つい頬を緩ませてしまった。


 お世辞だろうと格好いいと言ってくれるのは、小林ぐらいだ。神津は俺の事可愛いなんて馬鹿にしてきたから。



「んな、お世辞言っても何も出ねえぞ~」

「お、お世辞なんかじゃないです。本当に、明智先生は!格好いいです、僕の、目標です」



 そう、小林ははっきりと言ったその表情からは本気度が伺え、俺は彼の頭から手を離す。

 そんな格好良くない、と俺はぼそりと呟く。

 目標なんて言われても、ピンとこないし、小林は俺の何処を見て格好良くて目標だと言ってくれるのだろうかと気になった。それを聞く勇気も、聞いて何になる訳でもないと、俺は小林に背を向けて、爆破事件の資料を読むフリをする。



「俺みたいになっちゃダメだぞ。とくにタバコを吸うのはダメだ、肺がやられる」



 俺が冗談を言えば、小林は笑ってくれた。

 先生が言うなら。と小林は素直に返事をする。良い子だ。と俺は振向いて笑ってやれば、小林も笑顔を返してくれた。

 本当にいい弟子を持ったと思う。

 弟子を持てたのも、そのきっかけを作ったのも神津で、彼が俺と小林を繋いでくれた。死んでも、その繋いだ縁が途切れていないこと、また彼の繋いだ縁に救われていることを俺は噛み締める。



「はい。でも、本当に明智先生みたいになりたいので。優しくて、格好いい先生みたいに」

「お、おう……ありがとな」



 熱を持って言ってくれる小林を見ていて、これ以上俺みたいになるなとは言えなかった。

 弟子が俺を理想だと言ってくれるなら、目標と言ってくれるなら、俺はそれに答えるしかないと思った。理想であり続けること。

 優しくはないかも知れないが、少なくとも格好いい目標であり続けようと。



「そうだ、小林。お前の夢は何だ?」

「夢、ですか?」



 きょとんとした顔で、小林は首を傾げた。

 俺はそうだと大きくうなずいた。

 夢ってなんだ? と言われても困ってしまうだろう。しかし、この少年には何かしらあるはずだ。神津のようにピアニストになることか、それとも他のことなのか。これぐらいの子供は夢を持っているはずだと思った。

 小林は少し考えた後、これだ。とでも言うように顔を明るくさせ真剣な表情で俺を見つめた。



「明智先生みたいな、格好いい探偵になる事です!」



 そう言った小林の目は本気だった。キラキラと星のように輝いた、期待や希望に満ちた瞳。

 俺はそんな目と言葉を受けて、彼の頭に手を乗せた。ふわふわとしている彼の明るい亜麻色の髪は部屋の照明を受けて一本一本輝いているように見えてた。



「じゃあ、お前が一人前の探偵になったら、この探偵事務所を継いでもらおうか」

「そ、そんな、良いんですか? 明智先生」

「ああ、だがすぐに一人前になれるとは思うなよ? これからも、俺がビシバシ鍛えてやるからな」



 そう言えば、小林は嬉しそうな声を上げながら、はい! と元気よく返事をした。

 そして、彼は自分の胸に手を当てた。



「僕、頑張ります。明智先生に認めてもらえるように、明智先生みたいになれるように」

「そうか。頑張れよ。小林」



 何処か他人事みたいな言葉をかけて、それでもたった一人の弟子を思っての言葉がそれだった。

 俺がいつまで、こいつの面倒を見てやれるか分からないから。そして、俺と神津が過ごしたこの場所を残して、引き継いでいって欲しいから。


 俺は、希望に満ちた小林の顔を見て微笑んだ。





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