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追憶の探偵  作者: 兎束作哉
第4章 追憶の探偵
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case06 指輪



「改めて、凄いホテル取ったんだなって分かりました、春ちゃん!」

「んだよ、その言い方」



 俺たちの泊まっていたホテルは、通常開園時間より早くは入れるようになっている。なので、朝7時に起きて、朝食を済ませ支度をし、8時30分には園内にはいった。もっとゆっくり朝食を食べても良かったのだが、どうしても行きたい店があったため、爆速で済まし、俺たちは目的の場所へと向かっていた。

 本来であれば、早く入園できたのなら一番人気のアトラクションに乗るのが良いのだろうが、それよりも先に神津のいきたい店を優先していくことになった。



「いつもと違う春ちゃん可愛い~」

「そこは格好いいだろうが」



 そう言って、俺は神津の頭を小突く。


 俺の服を選んだのは神津だ。

 普段は絶対に着ないような真っ白なパーカーに、デニムのスキニーパンツ。足下は黒を基調としてアクセントにピンク色がはいっているスニーカーで、キャップを被れば、普段の俺からは想像できないコーディネートになる。神津にいつも黒い服ばかり着ていて、重いと言われたためである。昨日着てきたスーツはトランクの中にシワにならないように突っ込んである。



「いらっしゃいませ」



 ドアを押せば感じの良いベルが鳴り響く店内に入る。そこには、たくさんの宝石が綺麗に並べられており、店内も白で統一されていて高級感があった。流れているクラシックもまた、上品な印象を受ける。

 店員さんは、若い女の人で、俺が珍しいのかジロジロと見てくる。その視線に耐えられず、俺はさっさと神津を引っ張って、ショーケースの方へと向かった。ガラス越しに、キラキラと光り輝くダイヤの指輪たち。デザインはシンプルなものが多かったが、やはり目がいくのは大量に並んだ0という数字。貯めてきた金で足りるかと不安はあるが、せっかく神津が楽しみにしているのだから、買えないとはさすがに言えない。



「わぁ! 春ちゃん、見てこれ!」



と、神津が指差したのは、一つのリング。


 シンプルなデザインながらも目を引くもので、銀色に光り輝くそれは、神津に似合いそうだと思った。

 神津も目を輝かせてそれを眺めていた。



「いいんじゃね? 値段も悪くねえし、デザインもシンプルでよさげだ」

「値段のこと言っちゃ駄目だって。というか、僕も半分出すし、なんならプレゼントしちゃう」

「お前の誕生日だろうが」



 本気なのか冗談なのか分からない神津の言葉を受け流しつつ、他のも見てみたが、やはり最初に目についたそれが一番心を引かれた。指につけた目に行くだろうなあと考えて、矢っ張りそれを常時つけ続けるなんて俺には恥ずかしくてとてもじゃないが出来ない。

 俺が他のを見ていると、神津はもうそれしかないと心に決めたのか店員を呼んで買う意思を伝えていた。そうして、その指輪には文字が刻めるという情報を聞いて、互いの名前でも彫れば良いんじゃないかと提案してきた。



「どう、どう? 良くない?」

「はあ……お前の好きにしろよ」

「春ちゃんに聞いてるの! ね? 彫ってもらおうよ」

「…………分かったよ」



 俺が折れると、神津は嬉しそうに笑って、店員に頼みにいっていた。俺はそんな神津を見ながら、幸せだなあと感じつつ窓の外を見た。今日は天気が良いとは言えない。鈍色の空。雨が降りそうというわけでもなく、これから晴れそうと言うでもない何とも言えない空。どうせなら青空が良かったなあと贅沢な願望が渦巻く。

 そうこうしているうちに、神津が戻ってきて嬉しそうに俺に指輪を見せた。



「はい、これは春ちゃんの分」

「……ふーん」

「何その反応。もしかして、プロポーズの言葉も添えた方が良かった?」

「馬鹿なこと言ってんじゃねえよ」



と、俺はいいつつ、神津から指輪を受け取って、それを眺めた。確かに文字が刻んだあると内側を見つつ、俺は近くにあった首からさげられるチェーンを購入した。神津が不思議そうにそれを見ているので、俺は買ったばかりのそれに指輪を通して首からさげた。



「えー!指につけるんじゃないの!? 僕は、ほら、左手の薬指につけたっていうのに」

「それが嫌だから、こうして首からさげてんだよ!」



 神津はぶーぶーと子供みたいに頬を膨らませて文句を言ってきたが、俺には神津みたいな度胸はない。

 もし、この指輪を指にはめられるとしてもそれは、事務所で二人きりの時だけだろう。神津がしているだけならまだしも、俺もはめていたら完全に恋人同士です。とアピールしているに等しいから。

 その後も、神津は文句を言っていたが、俺が折れないことを悟ったのか、わざとらしいため息をついて、わかった。と一言だけ呟くと、俺の手を引いた。



「次、何処行くんだ?」

「春ちゃん行きたい場所ある?」

「お前の誕生日なんだし、お前が決めれば良いんじゃね?」

「そこは、『俺がリードする』とかじゃないの?まあ、春ちゃんらしいけど」



と、神津は俺に向かって言う。嫌味なのか何なのか、俺は少し不満を覚えつつも、ガイドブックを見ながら次に行く場所を考えている神津の横顔を見る。楽しそうな表情を浮かべている神津を見て、ああ好きだなと思う。どんな顔も、大好きだけど、矢っ張り笑顔が一番だと思った。その笑顔を一番近くで見れる俺は本当に幸せ者だと思う。


 その笑顔が俺だけに向けられたものなんだーって、すげえ自慢したくなる。

 神津は行きたい場所が決まったのか、ガイドブックを閉じて俺の手を握る。



「何処に行くんだ?」

「プラネタリウム」

「プラネタリウム? ジェットコースターとかじゃなくてか?」

「うん。だって、春ちゃん乗り物酔いするじゃん。それに、静かで暗い方が何か雰囲気あっていいじゃん。後ね、カップル席があるの」

「それが目的だろ」



 バレた? 何てクスクス笑う神津を見ていると、こっちまで可笑しくなってきた。

 神津の「いこう?」という優しい声かけとともに俺たちは歩き出す。熱い神津の手が、いつもより熱く感じたのは気のせいだろうか。




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