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追憶の探偵  作者: 兎束作哉
第3章 音楽を捨てた探偵
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case14 情けない



「――――だから、もう、無理だっ! 盛んな、馬鹿馬鹿馬鹿!」

「え~春ちゃん約束とちがーう」



 俺の腕を掴みながら不満そうに頬を膨らませる神津。その顔が可愛いと少しでも思ってしまった自分に嫌気がさした。神津の甘えスキルは高いと思う。それに流される俺はきっとチョロいんだろうな。



「あと一回、あと一回だけ!」

「お前、それいってこの間……!おい、だからもう無理だって言ってんだろうが!」



 足の間に割って入ってくる神津を止めつつ、俺は抗議の声を上げる。

 こうなったのは、俺のせい……いやもう、全ての元凶であるストーカーのせいにしよう。俺は悪くない。



「春ちゃん体力つけといた方が良いよ?」

「こんなんでつかねえだろ」

「有酸素運動……」



 などと、訳の分からないことをほざく神津に苛立ちつつも、俺はもうこれ以上付合いきれないと必死の抵抗をした後ベッドから降りることに成功した。

 「行かないでよ、春ちゃん」と、ベッドの上で転がりながら神津はいう。

 だが戻ったら戻ったで、また食われるだけだと、俺は寝室の扉に向かって足を進めた。



「何処行くの?」

「水取に行くんだよ、ついてくんな!」

「でも、春ちゃんには無理させちゃったし……僕が取りに行くよ」



 そう言って、神津はよっこらせ、と年寄り臭い言葉を言いながらベッドから降りると俺の方へ歩いてくる。少し身構えてしまうのは、不可抗力だ。



「何? 期待してるの?」

「してねえし、つか、お前無理させたって思ってんならもっと俺をいたわれ」

「どうしよっかな~」



 そんな事をいいながらも、持ってくるといって起き上がったくせに俺の手を引いて冷蔵庫まで連れていく神津。本当にこいつは……と思いつつ、結局許してしまう俺も大概だなと思った。ただ、腰の痛みを思い出して全部許すには値しないと思った。


 コップ一杯の水を一気に飲み干すと、俺は息をついた。

 そして、ふと、神津を見る。



「春ちゃんのえっち」

「何でそうなんだよ」

「だって、僕にあつ~い視線送ってたから。穴あいちゃう」



 神津はそう言うと腹を抱えて笑っていた。

 神津を見ていたのは足し方が、そういう意味で見ていたわけじゃ無い。そう言われる筋合いもない。



「ねえ、春ちゃん。そろそろ外出禁止令解除してくれない?」



と、神津はからになったコップを机の上に置いて改めて俺の方を見た。


 数日前から、俺は神津に外出禁止令を出した。まだ何処で写真を撮られたり嫌がらせをされたりするか分からないからだ。ストーカーを捕まえるまで、事務所の中で大人しくしてもらおうと神津に提案した。神津からしたら、別に何もしていないのに事務所の外に出れないわけだし、軟禁されているのも同じだし、不満があるかも知れない。でもこれは、神津を守る為なのだと俺が強くいえば、神津は提案をのむ代わりに条件をつきだしてきた。



『事務所にいてもやることがないから毎日春ちゃんを抱かせて欲しい』



 それが神津の出した条件だった。


 それまでも毎日か二日に一回、三日に一回のペースで神津は俺を抱いていた。正直、神津が満足するまで付き合うのはしんどい。気持ちよくないわけではないが、ねちっこいというか体力がありすぎて、最後まで付合いきれない。それを、毎日なんて俺の体力が限界に達してしまう。

 もしかすると、それが狙いなのかもと俺は考えている。俺がギブアップして、ストーカーのそうさに加わろうとしているのではないかと。だが、神津が少しでも危険にさらされるなら、危険があるのなら俺はそれを避けたいと思っている。



「ダメだ。いっただろ? ストーカーを捕まえるまでは、お前には大人しくしてもらうって」

「何か、それ犯罪者みたいな言い方」

「……ッチ」

「怒るとさらにそれっぽく見える」



 神津は、わざと俺を苛立たせようとしてくる。



「ねえ、春ちゃん。僕は、春ちゃんに守ってもらえるのは嬉しいし、この提案をした春ちゃんの気持ちもよく分かるよ。でも、春ちゃんがそれで傷つくのも無理して疲れるのも僕は見てて嫌だ」

「……疲れるのはお前の相手だよ」

「春ちゃん、一緒に解決するっていう考えはない? いったじゃん、春ちゃんが、頼れって、信頼しろって。だから、僕のことも信頼して? 僕は大丈夫だから。弱くないよ」



 そう神津はいって俺の頬に手を当てた。じんわりと底が熱くなり、俺は自分が間違っていたのかとどうしようもない気持ちになる。

 神津を守りたい。ただその一心だったんだ。



「早く一緒に解決しちゃおう? そしたら、僕も春ちゃんも負担が減るでしょ?」



 ね? と優しく同意を求めてきた神津に、俺は結局首を縦に振ってしまった。



(何か、凄く情けねえな……)



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