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追憶の探偵  作者: 兎束作哉
第3章 音楽を捨てた探偵
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case11 ネットニュース



「すっげぇ……かっけえ」



 三日後、冷蔵庫が到着し早速設置してもらったが、こう新しいものは想像の百倍キラキラと輝いて見える。

 神津には、見すぎて冷蔵庫が穴空きそうで心配。などと馬鹿にされたが、新品のものって良いよな……と俺は新しい赤と黒で統一された冷蔵庫を眺めていた。



「おはようございます、明智先生、恭さん」

「あ~おはよーとわ君。今、春ちゃんお取り込み中」

「依頼ですか?」



 事務所に入ってきた小林は、神津の声を聞いて俺の方を見たが、神津のお取り込み中の意味を理解してサッと身を翻して彼のほうへと歩いて行った。



「朝からずっとあんな感じなの、春ちゃん」

「そうなんですね。新しい冷蔵庫ですか?」

「そっ、格好いいよね。まあ、ずっと見ていたいって思えるものではないけど」

「うっせえな! 皮肉か、神津!?」



 あれ、聞えてたの? とわざとらしく、神津は言う。


 小林はそんな俺たちを交互に見ながら、会話には入れないなあといった雰囲気をかもしだしていた。さすがに、弟子がきたため冷蔵庫を眺めるのはこれぐらい西、小林に方へ向かう。

 小林は俺の気配を察知すると、背筋を伸し膝の上に手を乗せて行儀良くソファに座った。



「悪いな、小林。でも、小林も格好いいと思うだろ? あの冷蔵庫」

「は、はい。とても」

「とわ君、あんま気を遣わなくて良いから。後あれ選んだの僕だし」



と、神津は横から口を出す。


 確かに、あのデザインと色を選んだのは神津で、半分以上神津が出してくれたため、実質神津が選びかったに等しい。神津は、プロ時代に稼いだ貯金がまだまだあるようで、生活に困ったときは彼のすねをかじっている。

 小林は、お世辞なのか本気なのか「格好いいです」ともう一度口にすると、俺の方を見た。その目は違うものを期待しているようで、俺は少し肩を落とす。

 まあ、正直冷蔵庫なんて他の人からすれば日常にあるものだし、買い換えたとしてもどうでも良いものなのかも知れない。



「あの、今日()依頼ないんですか?」

「うっ……」

「あ~とわ君、そういうこと言った駄目だよ。春ちゃん傷つくから」

「す、すみません」



 神津が小林に言えば、彼は申し訳なさそうに頭を下げた。

 確かに小林の言うとおり今日「も」依頼がない。最近何故か、ピタリと依頼が来なくなってしまい、逆に神津への依頼が増えた。神津はその中からピックアップして依頼をこなしているようだったが、このままでは新しく買った冷蔵庫をまた売らなければならないかも知れない。


 その前にこのままでは、事務所を畳むことになってしまうかもしれないのだが。



「んー……」

「何だよ、神津。文句あんのか?」

「いや、そうじゃなくて、そうだね……」

「はあ!? 文句あんのかよ」



 そう俺が怒鳴れば、そうじゃなくて。と神津は慌てて訂正した。

 俺が拳を握ったためか、小林が俺の腰にしがみついて殴ってはダメですと言わんばかりに首を横に振っていた。何だか凄く恥ずかしい。

 俺は取り敢えず、落ち着くために席に着き、開いた膝の上に肘を置いて頬杖をつく。神津は何やらスマホを見ているようで、ゆっくりとスクロールしていく。俺の話よりかも、依頼かよと睨んでやれば、神津はちらりと俺を見ただけで、またすぐにスマホに視線を戻した。



(ほんとむかつく……)



 小林の手前、あまり神津に怒鳴るのもあれかと思いグッと堪えているが、この間思いが通じ合ったはずなのに、また俺に対する態度が悪くなった、また隠し事をしている気がしたのだ。

 小林はひょいと立ち上がると、神津の後ろに回りスマホを覗いた。



「恭さん、依頼ですか?」

「うん?ううん、違うよ。ちょっとね」



 そう言って、二人でこそこそ話でもするように話すものだから、俺の怒りはさらにたまっていく。

 弟子に嫉妬するのもあれだし、まだ小林は小学生だしと何とか自分を保つ。だが、親しく話している姿を見ると、こうもやっとするものがある。



(あーダメだ、タバコ吸いに行こう)



 俺は、思い切って立ち上がりベランダへ向かって歩いて行く。そんな俺を見てか、小林が俺の方にちょちょちょっと走ってくる。



「何処へ行くんですか?先生」

「ちょっと、タバコ吸ってくんだよ。子供のお前には、毒だろ」



 小林は未成年だし、俺だって可愛い弟子にタバコの煙を吸わせたくない。人前では、神津の前以外では吸わないようにしているし、吸っていることを隠しているのだが、どうにも、気持ちを紛らわすためには吸わなければと思ったのだ。

 小林は、そうですか。と素直に答えて神津の方へ戻って行った。



「ったく……」



 俺はポケットからタバコを一本取り出しライターの火をつける。そうして、タバコを吸いながら、スマホを開き依頼がきていないか確認する。が、やはりきていない。



「つか、あいつ何見てたんだ? 依頼じゃねえって言ってたけど……」



 そう思い、俺は普段は見ないネットニュースを開くと真っ先に飛び込んできた記事に思わずタバコを落としかけた。



「おい、これなんだよ」



 そこには、神津と俺の関係について誹謗中傷する記事が書かれていた。




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