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追憶の探偵  作者: 兎束作哉
第3章 音楽を捨てた探偵
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case09 お前が不安そうにするから



「どう? 幻滅した?」

「……恭」



 神津は、一通り話し終わるとまた自傷気味に笑った。


 神津の空白の十年間は俺が想像していた以上に重く辛いものだった。

 聞かなければよかった……とは思わなかったが、何だか俺のせいで相当苦しめていたんだなと思うと、また神津に対しての罪悪感が一つ増える。きっと、それは神津は望んでいないだろうけれど。



「僕って以外と重いでしょ? でもね、それぐらい春ちゃんは僕にとって大きな存在だったんだよ」

「海外で友達出来なかったのかよ」



 そう俺が尋ねると、神津は一瞬目を丸くしたが、プッと吹き出して笑うと「出来なかったよ」と即答した。

 あのコミュニケーション能力と、適応能力に長けた神津に友達が出来ないわけ無いと、睨んでやれば、神津は子供をあやすように、まあまあ。と両手を前にして笑った。



「お父さんの転勤も多かったしね、一番付き合いが長くても三年、四年ぐらいかな。だから、春ちゃんが一番長い付き合いだったし、何処へ行っても春ちゃんのことばっかりで他の奴ら眼中になかったよ」



と、本気だと伺える目で神津は言った。


 それを聞いて、神津の言ったとおり重いな。と少しだけ、ほんの少しだけ思ってしまった。でも、その重さが、愛情が自分にだけ向けられているのだと思うと嬉しくも思った。全く矛盾している。



「ねえ、春ちゃん。もう一度聞くけど幻滅した?」



 神津は再度俺に尋ねた。


 彼の若竹色の瞳は不安でいっぱいで溢れそうで、幻滅していない。という回答以外答えられないような雰囲気だった。そうでなくとも、幻滅したなど神津にいうはずがない。

 俺は、彼の手を取って自分の頬にすり寄せた。神津は驚いたように肩を上下させ、手を振り払おうとしたが、俺はそれを許さなかった。いつもは、喜ぶくせに。そう口にはしなかったが、俺は神津の手を自分の頬、顎、唇と動かしてく。



「今お前がここにいるの、以外と奇跡なんだな」



 俺が神津から手を離せば、神津は俺の輪郭をなぞるように自ら手を動かした。顔、肩、胸と神津の手はゆっくりと俺の形を確かめるように動く。



「お前の母親が、お前を止めてくれて良かったって、今凄え感謝してる。じゃなきゃ、こんな風にお前に触れて貰えなかったんだって。なあ、恭、お前はどうなんだ?」



 俺は神津に尋ねた。

 幻滅していない、寧ろそんなお前を愛してるという意味を込めて、神津を見てやれば、今まで見たこと無いような表情を彼は俺に向けていた。

 それから神津はもう一度俺の形をなぞり、最後には俺の肩に両手を置いて顔を下に向けた。



「顔みせろよ」

「今見られたくない気分」

「どんな顔してんだよ」



 神津は俯いたまま顔を上げようとしなかった。

 けれど、その声は喜びと恥ずかしさで震えているようにも思えて、俺はそれ以上の無理強いはしなかった。見たいとは思ったが。



「どんな顔って……春ちゃんが大好きで仕方ないって顔」

「ほんと意味わかんねえな」



 その言葉に思わず笑ってしまえば、神津はやっと頭を上げて、今度は俺の首元に腕を回してきた。結局は顔が見られないままだ。それでも、彼の周りに溢れている幸せな俺にしか聞えない音で、神津が満足そうな笑みを浮かべているんだなと分かった。

 俺はそんな神津の背中をぽん、ぽんと二度三度叩いてやれば、それに答えるように、神津は俺の肩に頭をすり寄せた。そのたびふわりとしたシャンプーの匂いが香る。慣れた匂いなのに、いつもより甘く感じてしまうは何でだろうか。



「……恭、話してくれてありがとな」

「…………引かれないか、凄く心配だった」

「引くわけねえだろ」



 少し不安げな声色に、俺は呆れつつ、少し強めに抱きしめてやると神津の不安はすぐに霧散した。

 神津が以前、自分の事よく分かっていないと俺に言ってきたが、神津も俺の事分かっていないんじゃないかと思う。いや、自信が持てないだけだ。



「俺が、お前の事何年好きだと思ってんだ。十年ばっかじゃないぞ?」

「僕も」

「いいや、俺の方が長い」



 張り合っても仕方がない愛を、顔の見えない状況でぶつけ合う。

 なんて滑稽なんだろう。でも、俺たちにとってはそれが幸せで、掛け替えのないものだった。

 暫くそうしていれば、神津は俺の耳元に口を近づけた。

 何を言われるのか、内心ドキドキしながら待ってやれば、聞こえてきたのは神津らしくない弱々しい声だった。



「これからも、ずっと好きでいていい?」

「ダメっつったら?」

「……それでも好きでいるし、隣にいる」



 神津はそう言うと、俺の肩の上で頬を膨らませた。

 拗ねているようにも見えて、可笑しくなった俺は神津の頭に手を乗せ、わしわしと撫でまわしてやった。



「なあ、寝に戻ろうぜ。すっげえ、眠い」

「確かに。僕も眠くなってきちゃった」



 欠伸をしながら言えば、神津も同意した。

 今夜はよく眠れそうだなあと再度欠伸をすれば、神津は可笑しそうに笑っていた。



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