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追憶の探偵  作者: 兎束作哉
第2章 逆恨みの探偵
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case12 全肯定



「うわ、寝癖ひでえなこれ」

「僕は可愛いと思うけど」



 ぴょんぴょんと俺の跳ねた髪を指先で弾く神津を鬱陶しいと感じつつも、寝過ごした俺の朝食を作り終えた神津に感謝する。目玉焼きとトーストという簡単なメニューだが、俺にとっては有難いものだった。

 パンを齧りながら、テレビをつけて朝のニュースを見る。ちょうど俺たちが追っている誘拐事件についてのニュースだ。



『えー、先月から続いている連続誘拐事件の犯人は未だ見つかっておらず、警察は捜査を続けていますが――』



 ピッと、テレビの電源が切られる。



「おい、なんで消すんだよ」



 折角見ようと思ったのに、と不満げに神津を見上げれば彼は何とも言えない顔をしていた。

 その表情が珍しくて、俺は思わず口を閉ざす。神津は少し黙った後、口を開いた。その時にはいつも通りの笑顔に戻っており、俺は数回瞬きする。



「矢っ張りまだ捕まってないんだね。僕達が先に犯人を捕まえることが出来るかも知れないね、春ちゃん」

「……そう、だな」

「ありゃ、乗り気じゃない?」



と、神津は不思議そうに言う。 


 昨日の神津の言葉が響いているのもあるが、俺達は、あくまで探偵であって正義の味方ではない。だからといって、目の前に起こっている事件を解決したくないわけでもない。

 ただ、数年前まで警察だった俺のみからすれば、探偵など部外者に値する存在なのだ。

 探偵は正義の味方ではない。勿論悪人でもない。ただその中間地点にいて、真実のみをつまみ出す存在だ。



(それでも、時々分からなくなるんだよな。二年前の俺のあの言動は果たして正義の元に執行されて、誰かを救えたのかって)



 俺は神津に返事をする代わりに残りのパンを口に押し込んだ。神津はもごもごっと苦しそうに咀噛をしている俺をみて、苦笑を浮かべた。



「春ちゃん、隈出来てるけど大丈夫? 寝不足?」

「あ、ああ……あの後も少し考えてて、そのままソファで寝たからか」

「そう……」



 机に事件に関する資料をちらけたまま俺はその場で寝てしまった。時計の針は二時を過ぎていたし、いつの間にか掛けられていたタオルケットを見ると、一度神津は起きて俺の様子を見に来てくれていたらしい。まあ、寝不足なのはそれだけが理由ではないが。



「んだよ、その顔。まだ何かあんのか?」

「ううん、別に何もないよ。眠いなら二度寝する? 添い寝してあげるけど」

「ダメだ、これから小林を連れて捜査の続きをする約束だっただろ」



 そう俺が返せば、神津は残念とか細く笑った。

 神津も俺が事件について考えていて寝不足になったのではないことを勘付いているのだろう。あえてきかないのは、神津の優しさか、踏み込むことが出来ない臆病な性格からか。どちらでもいいが、聞かれないだけマシだった。



(久しぶりに、二年前の事件が夢に出てきたから……)



 思い出したくもないが、背負っていかなければならないもの。けれど、それから結局逃げて探偵になっているのだから、俺は卑怯者なのかも知れない。

 忘れたわけじゃない、思い出したくないだけだ。


 けれど、今回の事件に関わると決めた以上、もう逃げることは出来ない。二年前の事件が今回の事件に関わっている。だからこそ、向き合わなければならない。


 俺は立ち上がって、洗面所に向かった。

 顔を洗い歯を磨けば幾分スッキリした気分になる。鏡の中の自分を見つめ、俺はため息をついた。



「溜息つくと幸せ逃げるよ?」

「うわっ、びっくりさせるなよ、神津」

「僕は歯を磨きにきただけだし~」



と、立ててあった色違いの歯ブラシを抓んで神津は笑う。


 ここで二人で生活し始めてだんだんとものが増えてきた気がする。とくに、生活用品は俺より神津の方が充実しているし、やたらと色違いやらペアルックやらを好むせいでたまにどちらがどちらのなのか分からなくなるときがある。

 俺は、神津の後ろ姿を眺めていれば、歯磨きを終えた神津が蛇口を捻り、ピタリと動きを止めた。



「春ちゃんは、間違ってないと思うよ」

「神津?」

「だから、気にしなくてもいいと思う。僕は春ちゃんの味方だし、春ちゃんが自分の正義にしたがって行動したんなら結果はどうあれそれを咎められたりはしない。きっと、救われている人もいると思うから」



 そう神津はいうと振り返り、慈愛に満ちた笑みを俺に向けた。





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