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追憶の探偵  作者: 兎束作哉
第2章 逆恨みの探偵
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case06 優先順位



「さてと、探すか」



 事務所を出て、俺は依頼人からもらった手紙と情報を頼りに少女の捜索を開始した。

 神津も手伝ってくれるらしく、少女誘拐の記事をいくつか印刷してくれ、事務所を出る前に全て目を通した。


 捌剣市で起きている少女失踪事件。誘拐の可能性が高いことから、誘拐事件と考えることにする。

 狙われているのは八歳の少女。誘拐される時刻は下校時間といったところか。

 また、ネットの記事では赤いランドセルに、黒髪お下げの少女が攫われているという記事を見つけた。この間倉庫で縛られていた少女もその特徴が当てはまった。となるとやはり、犯人は以上の特徴を持つ特定の少女を狙っているということになるだろう。それに一人じゃ満足しないところを見ると、捕まえない限りこれからも被害者が増えることになる。



(犯人の予想はついているが、犯人を捕まえるより先に子供達の救助が優先だ)



 犯人の予想は大体ついていたが、その犯人が今どこで何をしているのかは全く知らない。何せ二年前のことで、引っ越しているかも知れないし……とにかく、犯人の逮捕は探偵の仕事ではないので、俺はまず少女達の居場所を突き止めることが最優先である。

 だが一つ言えることは、この間の倉庫での事件。誘拐したのはおそらく今追っている犯人だろうが、あそこに放置したのはまた違う犯人であるということだ。俺の知っている犯人で間違えなければ、そこまで酷いことをする奴だとは思えない。どちらかといえば少女を大事に扱うはずだ。



(まあ、そっちは考えなくていいか……誘拐犯だけ突き止めて少女達を親の元に返すことができればそれで)



「春ちゃん闇雲に探そうとしてない?」

「……しゃーねーだろ、誘拐だとすればそんじょそこらにいるわけねえだろうし。いつもやってる人捜しとはまた違うんだよ」



 やる気があるのかないのか、キッチンカーで買ったクレープを食べながら神津は俺に声をかけてきた。

 正直、この広い街の中で少女を探すというのはかなり骨が折れる作業だ。しかも、失踪ではなく誘拐とくれば、幽閉されている場所を突き止めなければならない。そう考えると手がかりが少なすぎる。

 それでも引き受けてしまった以上引き返せない。

 それに、二年前のあの日。俺は助けられなかったから。罪滅ぼしの意識からか、だから、今度こそ救いたいと思う。



「はい、春ちゃんも一口どーぞ」



 そう言って、神津は俺に食べかけのクレープを差し出してきた。

 神津の持っているのは苺と生クリームのたっぷり入ったクレープだ。正直腹は減っていなかったが、甘いものにはめがないため、差し出されたクレープにかぶりついた。



「うわぁ、一口大きい」

「お前が、くれるって、いったんだろうが」



 モグモグと咀しゃくしながら文句を言うと、神津はクスリと笑って俺の口の周りについた生クリームを親指で拭った。



「美味しい?」

「……ん」



 素直に答えれば神津は嬉しそうな顔をして俺を見つめたあと、先ほど拭った生クリームを舐めた。そんな行動に俺は思わずドキリとする。何というかその色っぽさに、見てはいけないものを見ている感じがして、俺は思わず顔を逸らす。



「春ちゃんのえっち~」

「ばっ! そんなんじゃねえし!」

「でも、さっきの間接キスだったじゃん」

「ッ!」



 神津にそう言われ、俺は思わず自分の口元を手で覆った。

 神津は、クリームつくよ。などと笑っていたが、そんなことが気にならないぐらい動揺していた。別にこれが初めてのことでも何でもないのに、いつも気にしていないだけで何度もしているだろうに、いざ口にして言われると妙に恥ずかしくなって顔が熱くなる。


 俺ってこんなに初心だっただろうか?


 俺は何とも言えない気持ちになりながら、神津の顔を見れずにいた。きっと彼奴は笑っているだろうけど。



「春ちゃんのそういうところ可愛くて好きだなあ」

「可愛くねえし……二十四になる男に可愛いってないだろ」

「そう? 春ちゃんはずっと可愛くて、格好良かったよ」



と、神津はさらりと言ってのける。


 こういうところが天然タラシなんだと思いつつ、神津の言葉を聞いているとどうにも落ち着かない気分になってくる。それは多分、神津の声が優しくて愛おしむような声音で、言葉の一つ一つが俺の中に入ってくるからだ。そしてそれが心地よくて安心できるものだから、余計に落ち着かないのだ。



「ったく……それ食ったら再開するぞ」

「りょーかい、りょーかい」



 ふいっと顔を背けた俺の横から神津の楽しそうな声と視線が刺さって、俺は顔が熱くなるのを感じながら悠々と雲が流れる青い空を眺めた。



(眩しいな……)



 降り注ぐ日の光は、俺には少し眩しすぎた。




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