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助けを求めて


 一方その頃、東門付近に存在する『王都印・騎獣の雛店』裏側。

 騎獣となる雛達を育てている大型厩舎にて、店主は獅子型の魔物『レオパルド』の子供に顎髭を噛まれて四苦八苦していた。


 ミルクをやろうと抱き上げた瞬間の狼藉である。

 あくまで商品として人間に慣れさせる必要があるため、あまり店主は雛に強く出ることができない。せっかくのミルクも慌てた際に顎髭にかかってしまい、ますますレオパルドが離れなくなってしまったところで、どうにか髭がちぎらないように引き剥がそうとしているのである。


 つるりとした頭に髭だけふっさふさの店主は、それはもう必死だ。


「くそったれ! 顎髭までなくなっちまったらどうすりゃあいいんだ!! 離せこのクソガキ!!」

「がうがう〜」


 レオパルドの檻の中で悪戦苦闘していた店主は、遠くから響いてくる奇妙な音に顔をあげる。そのまま、がぶがぶと髭に染みたミルクを吸うレオパルドは宙ぶらりんになった。


 ダダッダダッダダッと勢いよく石畳を打ち、走り込んでくる()の音。それは店主も聞いたことのある、ヒッポグリフに近い足音だった。


 やがて、音がどんどん近づいてきて、立ち入り禁止の看板が立っている横を素通りして一頭の『馬』が厩舎内に侵入してくる。


「な、な、なんじゃあ!?」


 彼の近くでゆったりとした歩きになり、ぐるぐると回り出した汗だくの黒馬。その上に騎乗している女の姿を見て店主は目をむく。


「やあ、店主。ちょいとこの厩舎で匿ってもらえるだろうか?」

「は?」


 彼がレオパルドの子供を支えるのをやめたとたん、ぶちりと顎髭ごと小さな獅子が藁の中に転がり落ちる。


「がうがう」

「あ……」


 それを見て彼はさめざめと泣き出してしまったのだが、無言の店主をいいことに馬に乗った女。レミィはしばらくぐるぐる歩いてから下馬をする。


「どうした、店主。目にゴミでも入ったか」

「へっ、おめーを見た瞬間目が潰れちまわぁ。あんまりにも美人だからな」

「そうか、美しいエルフですまない」

「けっ」


 皮肉の通じないレミィに嫌そうな顔をした店主はしかし、馬の姿を上から下まで見てその目を鋭くする。


 体一面の汗。

 泡を吹いている口元。

 身体中の擦過痕。

 疲労が入り混じる、気が狂ってしまったようなぎょろっとした目。

 全身の筋肉の震え。

 なにか硬いものを踏んだのか、ガタガタの蹄。

 ばっさりと切られてしまったような短い尻尾。

 なにもかもに怯える様子。


 その全てを確認した彼は、床に落ちたレオパルドを抱え直してミルクをやりながら視線を動かす。


「そっちに蹄のある魔物用の寝床が余ってる。そこを使え。表からは見えにくい場所だから安心しろ」

「ありがとう、とても助かる」


 その言葉を聞いて、レミィは目に見えて安堵するように微笑みを浮かべた。


「まあ、そんなボロボロの馬を見ちゃあな……例の連中は悪どい奴らか」

「確実に」

「そうか。ま、そいつを休ませてやんな。今は俺一人だからな、食いもんとか水とかは後で場所を教えてやる。こいつをおねんねさせちまうまで少し待っててくれ」

「飲み水に関しては魔法があるので心配ない。バケツだけ貸してほしい。あと、洗い場はどこにあるだろうか?」

「バケツはその辺のを使いな。洗い場はもっと奥だ。繋ぐところがあるからそこを使え」


 店主が顎をしゃくった方向へ視線を向け、彼女は汗だくの馬に再度『治癒香(アルマ)』と回復魔法をかける。


「……なにからなにまでありがとう店主」

「いいってことよ」


 ちゅうちゅうとミルクを飲むレオパルドを、店主は慈しむように見つめている。


 レミィは本当にここに来てよかったと思いながら、馬を()いて厩舎の奥へ向かっていくのだった。

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