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一人と一頭の攻防

 ひらり、なんの支えもなしに動く馬に飛び乗ったエルフはそのまま片手で手綱を持ち、馬の首を撫で……。


「ヒヒィィィーーーン!」

「おっと」


 ……ようとして、思い切り暴れ出した馬の反応に目を丸くした。

 立ち上がり、飛び跳ね、真後ろに向かって高々と蹴り上げる尻っ跳ねを行う馬と、その上で跳ね上げられるエルフ。片手で持っていた手綱以外の全てが鞍から浮いて、あわや一瞬で落馬か! と一団の誰もが思った。


「おー、おー、元気だね〜」


 が、エルフは跳ね上げられたそのままに、ロデオ状態で暴れまくる鞍の上に着地し、それ以降はまるで吸い付いているかのように座りが安定する。


「よーしよしよしよしよし」


 暴れる馬もなんのその。それどころか驚異的な体幹でバランスを保ち、非常に嬉しそうな顔で声をかけている。


 あまりにも非現実的な光景に、その場を見ていた男達全員が「なんだこいつ」と思った。


 二度目の快挙だった。


「うんうん、元気なのは、いいことだ」


 レミィは激しく揺れる馬の背中でほんのりと笑顔を浮かべていた。軽装である彼女に、見てとれるような汗は一滴たりとも存在せず、ただただヤンチャな子供を相手しているような様子である。


 ありえない。そんなことはあってはならない。今自分達はなにを見ているんだ? ギャラリーはそんな風に、なにか恐ろしいものを見たときのように一人と一頭の姿に釘付けになった。


 汗だくになって飛んだり跳ねたりと抵抗をする馬は、横目でギッと彼女を睨みつけてこれでもかと暴れる。


 とうとう、馬が頭を激しく振り上げて背後を直接首を向けて睨みつける。

 ギリギリと咥えたハミを引っ張りながら、どうしてもまとわりつくエルフの女にうんざりしているようだ。


 そしておもむろに前肢を振り上げ立ち上がると、そのまま己もろとも背面にぶっ倒れて背中の騎乗者を潰してやろうと試みて――。


「あ、それはダメかな」

「!?」


 突然、レミィが馬の首に抱きつき、手綱を地面に向けて真下に引いた。倒れようとしていた馬体は、上半身に重さが加えられたことでひっくり返ることはなく、前肢が地に落ちる。


 自分ごと怪我をさせてやろうと目論んでいた馬の行動は、ほんの些細なエルフの手さばきによって阻止されてしまったのだ。


 しかし、首にべったりと抱きついた女を見て馬は逆にチャンスだと考えたのか、後ろ足を高々と蹴り上げる。前重心になっている女が、後ろが跳ね上がることで今度は前に転がり落ちることを期待したのである。


 しかし、レミィはあっさりと上半身を起こしてバランスを立て直し、再び馬上で見事な騎乗姿勢をとってみせた。


「うーん、賢いね。でも、自傷行為はよくないよ。それに汗だくだし運動のしすぎで、もう君自身も危ない。『治癒香(アルマ)』……ほら、聞こえるかな? なにも怖いことはない」

「ブルルルッ」


 疲れ果て、しかし強い目の光を失わない馬の首をレミィが撫でる。

 しばし両者の視線が交差し、沈黙。


 それから彼女が手綱を操り少し腹を圧迫すれば、ふうふうと息を荒げながらも馬はゆったりと円を描いて歩き出す。


 ――このとき、時間などとうに過ぎていた。


「リーダー、どうするんだ?」

「はっ、時間なんて測っちゃいねーよ」


 だが、一団はレミィがロデオを制し、馬を従えることに成功したことなどどうでも良いと考えているようだ。


 リーダーは最初から時間を測ることなく、彼女の騎乗を見続けていた。それは信頼や、彼女なら大丈夫という気持ちからの行動ではない。


 彼女が馬を操ることに成功しようが、しまいが、彼らには関係なかった。


「あの女は俺達でお楽しみしたあと人買いに売りつける。いいな? てめーら、合図をしたら催眠魔法をいっせいにかけろ。あいつが五分経ったとかぬかして降りてきたらすぐだ」

「へい」


 こそこそと悪巧みをする一団に、ふとレミィが視線を向ける。

 そして馬を巧みに操り「もうこれで私の手の中だな」と自慢げに言葉をこぼしてから、一団に馬ごと背を向けた。


「もう十分くらいは経っただろう」


 リーダーと一団がいっせいに杖を後ろ手に持つ。

 彼女が馬から降りたその瞬間を狙う、卑劣な彼らの手はしかし……レミィによって打ち砕かれた。


「賞金は必要ない。この馬は買うので、金は好きに持っていってくれ。多めに置いていくとする。それでは、私はこの子を貰い受けるよ」


 なんと、レミィは懐に入れていた巾着袋を一団に投げつけると、そのまま馬を操って走り去ろうとした。


 突然のことに唖然とするリーダーの顔面に、金貨の入った袋がぶち当たって後ろ向きに倒れる。


「いい買い物をありがとう」


 一団が張っていたそれ以上逃げないようにするための結界すらも、彼女が片手で指を振るとあっさりバリィンと音を立てて割れていく。


 結界が割れた瞬間に逃げ出す一人と一頭。

 ダダダッダダダッと重く、石畳を叩く音が遠ざかっていき……。


「「「はーーーーーーーーーーーー!?」」」


 彼らが我に返ったそのときには、レミィと馬の姿はどこにもなかった。


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