女サンタが同級生だった
星見 継人と申します。
29歳の童顔だけが特徴の男なのですが、恥ずかしながら今まで彼女が居たことがありません。好きな人は高校の時に一人居たのですが、結局は臆病風に吹かれて告白できませんでした。
まぁ、でも社会人に成れば一人ぐらい出来るだろうと思っていたのですが、超草食系男子である僕は全然ダメダメで、全く彼女なんて出来ませんでした。
ですが、僕ももうすぐ30歳。そろそろ一人ぐらい彼女が欲しくて堪らないので、藁にもすがる気持ちで、とある噂を信じてみることにしました。
それは、近所の商店街にあるポストに、サンタクロース宛の欲しいものを書いたハガキを出すと、クリスマスの夜にその欲しい物が手に入るという噂でした。
僕は彼女がほしいと書いて、こっそりポストに投函。
こんな噂デマだろうし、対象も子供だろうけど、さっきも言ったけど藁にもすがる気持ちです。もうなりふり構っていられないのです。
そしてクリスマス当日の夜。自宅のアパートの一室にて、ひたすら待つ僕。もうすぐ日付け変わりそうですが、コタツでぬくぬくしながら待ってます。
すると、ベランダ窓の所に人影が。
「ぎゃあああ!!」
僕は悲鳴を上げました。いや、急に来られるとビックリしますよね。
"ドンドン!!"
「おい、サンタクロースが来てやったぞー!!開けろーー!!」
窓をドンドン叩く音と共に聞こえる女の人の声。すりガラスなので分かりづらいですが、赤い衣装を着ているので、おそらくサンタさんなのでしょうが、乱暴だし、女の人のみたいなので怪しさMAXです。しかしながら、このままでは窓を叩き割られそうなので、開けることにします。
"ガチャ・・・ガラガラ"
「ヤッホー!!星見元気ー♪」
「えっ?ミサさん?」
僕の目の前に現れたのは、高校の時のクラスメートの山田 美彩さんであり、その彼女がサンタの格好をして僕の目の前に現れたのです。
「うぅ・・・とりあえず寒いから家の中入れてよ。」
「は、はい。」
僕はミサさんを家の中に招き入れました。ちなみにココに女の人が入るのは初めてです。
「おぉ、中は温かいね。サンタ服脱ぐわ。」
「えっ、ちょっと!!」
戸惑う僕をよそに、彼女はモコモコしたサンタ服を脱ぎ。ティシャツ短パン姿のラフな服装に、サンタ帽を被ってるというアンバランスな格好になりました。
それにしても相変わらず胸が大きい。自慢の金髪のロングヘアーも、鋭いけどパッチリとした目も高校時代のままで、感慨深いものがあります。
「コタツ入ると落ち着くよね♪」
「そ、そうですね。何か飲み物でも出しましょうか?」
「いえいえ、お構いなく♪アンタもコタツに入りなよ。そんで話をしよう。」
「は、はい。」
僕もコタツに足を入れて、ミサさんの対面に座ると、彼女がこの状況の説明を始めました。
「実はね、私は高校卒業してからサンタクロースやってたのよ。」
「ちょっと何言ってるか分かりません。」
説明始めで腰を折るようで、大変申し訳なかったのですが、いきなり過ぎて頭混乱中です。
「だ・か・ら!!私、サンタクロースなの!!信じろバカ!!」
「は、はい!!信じます!!」
ミサさんは相変わらずキレやすい。ココは話を合わせる方が無難ですね。
「んで、アンタ、ポストに欲しい物書いたハガキを投函したでしょ?だから来てあげたの。」
どうしてそれを!?あのハガキには宛先を何も書かずに、欲しい物だけ書いたというのに、まさかミサさんは本物のサンタ?
「本当にサンタクロースなんですか?」
「はぁ、そうだって言ってるじゃん。外に空飛ぶトナカイとソリもあるけど見てみる?」
「い、いや、遠慮しときます。」
見たら世にも奇妙な世界に迷い込みそうな気がしたので断りました。何事も普通が一番ですもんね。
「ふーん、まぁいいや。ようやく信じたみたいだし。で、サンタになった私がアンタのために来てあげたの。感謝しなさいな♪」
ニコッと笑うミサさん。彼女の笑顔が久しぶりに見れて嬉しいですが、欲しい物を見られたかと思うと恥ずかしいです。サンタクロースに見てもらう筈が、元クラスメートに見られたなんて、顔から火が出そうです。
「いやぁ、でも笑ったよ。『彼女欲しいのです』って切実に書いてたからさ♪」
「や、やめてぇーーー!!」
からかわれるのも久しぶりですが、今回はあまりに恥ずかしい。
「あはは♪変わんないねアンタも♪」
「もう・・・からかわないで下さいよ。」
「でも良いじゃん。アンタの願い叶えてやるよ。」
「ほ、本当ですか?」
にわかには信じ難い。大体願いを叶えると言っても、肝心の女の子は何処に居るんでしょう?
「あっ、今お前、女の子が何処に居るか探したな。」
「いや、あの、その。」
ミサさんには敵わない。僕の考えていることなんて彼女には筒抜けですね。
「何処に居るか教えて欲しい?ねぇ♪教えて欲しい?」
ノリノリだなぁ。まぁでも正直に答えた方が良いですよね。
「そりゃ、教えて欲しいです。」
「そっか、じゃあ教えてやるよ。あんたの目の前に居ます♪」
「はっ!?」
居ない居ない。目の前にはミサさんしか居ないです。
「あ、あの・・・冗談はやめて本当のこと・・・」
「いやいや、居るじゃん。ほらっ、私。」
・・・ん?今なんと。
「私がアンタの彼女になってやるよ。」
「えっ?・・・えぇぇぇぇぇぇ!?」
「むっ、失礼な奴だな。私じゃ不満なのかよ?」
マジで言ってるんでしょうかこの人は?いや、流石に無い無い。
「か、からかってるんですよね?」
「からかってない。私がアンタの彼女になってやるって言ってんの。」
「僕のこと好きなんですか?」
「うーん、まぁまぁかな。私の彼氏としては及第点ってとこかな?」
及第点かぁ。そんな男と恋人関係になろうとして、ミサさんは一体どういうつもりなんだろう?
「まぁ、正直助かったよ。実はプレゼント運搬中に腰やっちゃってさぁ。これ以上サンタ続けられなかったんだ。だからどっかで良い男捕まえて、寿退社しようと思ってた矢先にアンタのハガキを見つけたのよ。これは天命だと思ったわ。」
待て待て、寿退社っていきなり結婚させられそうになってないですか?それは流石に段階をぶっ飛ばし過ぎでは?
「何よ不満そうね。そんなに私のこと嫌い?」
「いや、その・・・突然なので戸惑ってしまって。き、嫌いでは無いです、むしろ光栄なんですけど。」
高校の頃、不良っぽくて近寄り難かったけど、消しゴムを貸してあげたことにより、仲良くなった女の子。そんな彼女は僕の初恋の人であり、そんな彼女から恋人の申し出を受けたら、断るなんて選択肢は僕にはありませんでした。
「本当!?オッケー!!ならさ、既成事実作ろうぜ!!」
「ちょ!?何脱ぎ始めてるんですか!!」
「良いではないか♪良いではないか♪」
「あぁ!!ちょっと心の準備が!!僕童貞なんです!!」
「大丈夫、アタシが男にしてやるよぉ♪」
「ぎゃああああああ!!」
こうして聖夜の夜。僕は彼女が出来て、ついでに僕らに子供も出来てしまった。
〜五年後〜
「お父さん、サンタさん来るかな?」
「あぁ、ミカちゃんは良い子にしてたからサンタさん絶対に来るよ。もうすぐ来るんじゃないかな?」
「やったぁ♪」
聖夜の夜。新築の一軒家で5歳になる愛娘とサンタクロースを待つ僕。居間には大きなクリスマスツリーが置かれ、コタツのテーブルの上にはケーキや七面鳥といった御馳走が並んでいます。
ミカは奥さんに似て、可愛く育って嬉しい限りです。
「ねぇ、お父さんはサンタさん見たことある?」
娘のこの質問に僕は正直に答えた。
「うん、あるよ。サンタさんは望んだ物より大きなモノを僕にくれたんだ。」
「スゴーーーイ♪」
この後、僕は久しぶりに大きなプレゼントを持とうとして、腰を痛めたサンタさんを助けに行く羽目になりました。
メリークリスマス♪