彼女の最期
『死なないでね!?絶対に生きて、また会おうね!』
『ああ。だからお前は避難してくれ。絶対にまたいつか会う為に。』
ああ、またこの夢だ。
もう何度も何度も、それこそ何万回も何十万回も視た、私の根源にある誓い。
もう名前も忘れてしまった彼と交わした懐かしい約束。いつからだろうか、映像の記憶も薄れ、今ではあの優しい焦げ茶色の瞳と、大好きだった彼の声しか思い出せない。
『絶対だよ!?絶対に迎えに来るんだよ!?』
『おうよ!だからお前も待っててくれよな!』
今思い返せば、私はこの時、彼と離れるべきではなかったのだろう。
もし、あの当時、私がこれほどまでに運が良く、生き残れることが分かっていたならば、迷わずその選択をしたはずだ。
例え、彼と共に過ごすことによって、死んでしまう可能性があっても、だ。
『じゃあ、またな!すぐに俺もエデンに行くからな!』
『うんっ!待ってるから!!』
結局、約束が果たされる事はなかった。
人類最後の希望、エデンは、あれから直ぐに崩壊した。
私は、幼い頃からの付き人二人と他数人と共に逃げ、祖国を、彼を目指した。けれども、結局、化物が蔓延る海を越える事は叶わず。
共に逃げた皆は、私達三人を残して殺されてしまった。きっと、逃げ場のない絶望に耐えられなかったのだろう。私のように、すがる希望がなかったのだろう。
そして、私達は生き続けた。
化物を倒した影響なのか、喰い続けた影響なのか、はたまた呪いなのかはわからないけれども、私達は老いる事もなく、愚かにも生に執着し続けた。
既に、この世にはいないであろう彼との約束をいつか果たすために。
しかし、それも今日までだ。
もうとっくの昔に限界だったのだ。無数に入り組んでいたヒビが、決定的に意思を壊すのには、小さな衝撃だけで十分だった。
『お嬢様、御先に失礼します。』
ある日、沙耶はそう言い残し、二度と帰ることのない旅に出た。
そして、その三日後にはティーナも、乱れた心の隙を突かれ、化物の手でこの世を去った。
そして、今日、私も死ぬ。元々、希望のない夢に縋り続け、生きながらえた身だ。支えてくれていた二人が居なくなれば、終わりを迎えるのは自然なことだった。
きっと、きっと、やっと…
待ちきれなかったよ、翔ちゃん。約束、破ってごめんね。