彼の最期
『死なないでね!?絶対に生きて!また会おうね!』
『ああ。だからお前は避難してくれ。絶対にまたいつか会う為に。』
ああ、またこの夢だ。
もう何度も何度も、それこそ何万回も何十万回も視た俺の根源にある誓い。
もう名前も忘れてしまった彼女と交わした懐かしい約束。いつからだろうか、映像の記憶も薄れ、今ではあの絹の様に滑らかな銀髪しか思い出せない。
『絶対だよ!?絶対に迎えに来るんだよ!?』
『おうよ!だからお前も待っててくれよな!』
今思い返せば、俺はこの時彼女に残る様に懇願すべきだったのだろう。
もし、あの当時俺がこれほどまでに運が良く、強くなれると分かっていたならば、迷わずその選択をしたはずだ。
例え、彼女と共に過ごすことによって、死んでしまう可能性があっても、だ。
『じゃあ、またな!すぐに俺もエデンに行くからな!』
『うんっ!待ってるから!!』
結局、約束が果たされる事はなかった。
人類最後の希望、エデンは程なくして崩壊し、彼女は行方不明に。
心の中では既にこの世にいないと分かっていたが、俺はいつか約束を果たす為に戦い続け、気がついた時には周りにいたのは数人の猛者のみ。
化物を倒した影響なのか、喰い続けた影響なのか、はたまた呪いなのかはわからないが、俺とダチ公共は老いる事なく、愚かにも生への執着を持ち続けた。
そして、今。
とっくの昔に限界を迎え、なんとか他者に生きる理由を見出す事で、保っていた俺らの心が遂に崩壊した。
最初に自殺したのは、兄貴分の万ちゃんだった。もう既に、本人も自分の本来の名前を忘れ、生きる意味を見出していた娘の存在すら時に忘れていた万ちゃん。
やはり、何百年間と殺し続けた魔物に殺されるのはプライドがうるせなかったのだろう。彼は、俺らに迷惑がかからない様に、自らを土に埋めた。当然、俺らが掘り起こせば彼は死ななかったのだろうが、自らを暗闇の中で窒息死させることができる人間を救い出す事など、俺らには無理だった。
その次に自殺をしたのは、ムードメイカーだったテッつん。彼は、万ちゃんの気配が潰えた三日後に、自らの首を切断し、逝った。
それからは、もう止まりようがなかった。きっとみんな早く解放されたかったんだろう。
数百年間、生き延びてきたか俺ら十五人は、たったの一週間で俺一人になってしまった。
そして、それももうすぐ、ゼロになる。
ああ、凛。もう直ぐ会えるよ。約束、破ってごめんな。