消えたがりモンスターと倒さない勇者
思い付きです。いろいろテキトーです。かるーく読めるので、暇なときにどうぞ。
勇者である俺こと良知羅零太には絶対に倒せないモンスターがいる。
それが、彼女。
真木小麻麗という名の長髪黒髪美人型モンスターだ。
能力的な面で言えば、彼女はチュートリアルで出てくる雑魚キャラよりも弱い。
今日も彼女は飽きずに言う。
「消滅させて」
そして今日も俺は聞き流す。
「晩飯できたよ」
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異世界転移させられたとき、俺は校舎の下駄箱にいた。
委員会の活動で、帰るのが何時もより遅かった。
急いで靴を履き替える。
今日の晩飯は何にしよう、特売セールまで時間がない、メニューを頭で組み立てながら歩き出す
そして、昇降口をぬけたらそこは
異世界だった。
草原だけが何処までも続いている。
俺は後ろを振り返り、出てきたはずの昇降口を確認しようとした。
そして愕然とする。
昇降口は既になく、そこには先程まで委員会で一緒にいた学校のマドンナ、真木小麻麗の姿があった。
黒いサラサラとした長い髪を片方にまとめてたらし、その髪の下には誇張するようにブレザーを押し上げる豊満な胸がある。
普段女子高校生とは思えない大人の色香を漂わせている彼女が、今は年相応の女の子のように怯えていた。
「良知羅君...ここは?」
「.......」
彼女は震える声で問いかける。
マドンナからの貴重なその問に俺は答えられなかった。
その後、俺たちは草原にポツンと立っていた教会に助けを求めた。
彼らは気持ち悪いほどの笑顔で僕らを招き入れてくれた。
そして異世界からの訪問者ということで、王国に連絡をしてくれたうえ、王にまで謁見することとなった。
俺らは異世界転移という異常事態に気をとられ
この奇妙な連続に裏があるだなんて一度も信じて疑うことはなかった。
「よく参った勇者よ」
「「勇者?」」
王は俺たちのことを見てそう呼んだ。
「その通りだ勇者よ、名は何と言う」
王は俺を指さした。
「俺?!」
いきなりのことで動揺する。
何となくそうかなと思ってはいたが、実際自分がこの状況に立たされると咄嗟に言葉が出てこない。
真木小麻麗、彼女も心配そうに大きな瞳を不安げに揺らしてこちらを見ていた。
これが学校でのことだったら、俺は全男子生徒に八つ裂きにされていただろう。
彼女に見られているからか、王の前だからなのか、どちらのものかわからない緊張で、かすれた声が出る。
「えっと..良知羅零太..です」
「ラチ・ラレータか」
やめてほしい。
この名前で散々バカにされた。
それに今の現実をこれ以上明確に表現している言葉はないだろう。
俺の気持ちを知ってか知らずか王は話し続ける。
「いい名だ
お主がこの世界に来てくれたこと歓迎するぞ
だが、何故お主はモンスターを連れている」
モンスター?
俺は首をかしげる。
モンスターと言えば、あのスライムとかゴーレムみたなヤツのことだよな。
俺の隣には、一緒に転移させられた真木小麻麗しかいない。
王には幻覚が見えているのだろうか。
何も答えない俺に焦れたのか、もう一度王は怒鳴るようにモンスターについて確認してくる。
「だから、隣におるだろ!
人の形をしたモンスターがっ!」
ここまでハッキリ言われてしまったら、いやでも検討がついてしまう。
つまり、王には彼女が、真紀小麻麗がモンスターに見えているのだ。
彼女も自分が窮地に立たされそうになっていることに気づいたようだ。
健気にも怒れる王に話しかける。
「あの..私モンスターじゃ」
だが、その先の言葉が紡がれることはなかった。
その前にどこからともなく現れた騎士たちが、彼女のことを床に組み敷いてしまったのだ。
白い大理石の上に、真紀小麻麗のきれいな黒髪が艶やかに舞う。
俺は動けなかった。
そして王の風格をそのままに、勇者としての初仕事を俺に命令した。
「勇者よ
このモンスターを我の目の前で斬れ」
命令を聞いて彼女を組み敷いている騎士の一人が、腰に差した剣を俺に差しだしてくる。
俺は、どうすることもできなかった。
彼女を助けることも、王の命令を聞くことも、何もできなかったんだ。
「勇者よ
ここまで御膳立てしたというのに、貴様はモンスターの一つも斬れないのか」
王は呆れた声を出すと、騎士の一人に耳打ちをし玉座から消えた。
王の間には床に組み敷かれたままの彼女と、茫然と突っ立ているだけの俺が残された。
その後、俺は勇者として世間に広く伝えられ
一定期間、王城の一室に泊まり騎士たちに交じって剣の鍛錬を積むこととなった。
何の承諾もしていないというのに勝手に勇者に仕立て上げられたせいで、俺は各地で暴れているモンスターを退治しながら、その悪の親玉である魔王と戦わなければいけないらしい。
真紀小麻麗。
彼女はあの後騎士に追い立てられるように王の間から掴み出されると、どこかへ連行された。
彼女の絶望に沈んだ目と、すぐにでも折れてしまいそうな後ろ姿だけが、俺の中で鮮明に焼き付いた。
騎士との訓練で俺はすぐにメキメキと実力をつけ旅に出ると、全てのモンスター(真紀小麻麗以外)と悪の親玉をぶちのめし、王に直談判した。
彼女と一緒に元の世界へ帰らせてくれと。
だが王は勇者のたった一つの願いも叶えてはくれなかった。
俺たちを拾ってくれた教会にも、この国が腐っている事実を知らせ、彼女を助け出してもらおうとした。
だが、誰一人耳を貸すものはいなかった。
王と教会は裏でつながっていた。
勇者云々はとんだ茶番劇でしかなかったのだ。
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あの時、すぐにでも床に組み敷かれる彼女を助けだし、この王国から抜け出せていたら、何かが変わっていたのだろうか。
目の前でおいしそうに俺が作ったお味噌汁を飲んでいる彼女を盗み見る。
だいぶ元の体形に戻ってきている。
肩くらいまで短く切られてしまった髪も、順調に伸びていて、後半年もすれば元の長さになるだろう。
カチャカチャン
どうやら食べ終わったようだ。
震える手もだいぶ改善できているし、食事の時間も短くなってきている。
「ごちそうさま
最後の晩餐楽しかったわ」
「明日の晩飯はポトフにしようか」
今日も俺は彼女を倒さないし、倒せない。
最後までお読みいただきありがとうございました。