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4 酷いよ……

 止まらなかった。


 彼女の髪を触ってから、謎の衝動に駆られてしまった。次に目に入ってきたのは頬だ。僕は人差し指でつついた。


 柔らかく、ひんやりとしていて女の子だなということが分かる。


 ふと視線を感じた。


 彼女ではなく、入り口の方からであった。委員の声である。


 僕は自分の行っていたことに反省して、咄嗟に手を引っ込めた。


「もう時間だけど」


 そう言いながら距離を縮めてきた委員の顔は、同じクラスではないが、なぜか印象に残っていた。


 そうだ、彼は去年のミスターに選ばれていた。実に男前といった顔立ちだ。


「はい、ですが彼女が……」

「ああ」


 彼は相変わらず机に突っ伏せている彼女をまじまじと見て、どこか下びたような笑みを浮かべた。


 委員だからといっても、彼も僕と同じ男だ。彼女の無防備な姿を目前にして平然としている方が不思議だ。


 だからといって警戒を緩めてるわけではない。


「ここはまかせて。君は帰っていいから」

「ですが……」

「何?」

「……分かりました」


 高身長な彼の前では、平伏すようだった。どこかめんどくさそうに口を開いた彼は他の男と何かが違った。どうも敵わない気がして僕はとぼとぼと図書館から出てしまった。


 彼女を待つべきなのか、帰るべきなのか僕は図書館の入り口前で思考を巡らせながら佇んでいた。





「お前、図書館であの乙葉と2人きりだったらしいな! どんな関係だ!!」


 寮部屋に入るなり、鬼のごとく形相で駆け寄ってくる晴人に胸ぐらを掴まれた。


「別に……ただ勉強を教えてただけだよ」

「こんな遅くまでか? 勉強だけじゃないだろ!?」


 勉強だけと言えば嘘になる。先程の彼女の髪質、頬の感触がどうも頭から離れてくれない。


「だから、あの乙葉だよ? 僕はせいぜいただの隣の席の子という認識だけで、そういうのはないよ」

「ああ良いよなー、学年一位はいーよなー、学年二位の乙葉に目をつけられるしー」


 どこか投げやりでそう言った晴人は寝室に戻ろうとしていた。確かに僕は一位だが、一位だから秀才という認識は間違っているのだ。先程の彼女の話を思い出しそう思った。なにせ二位の彼女が勉強の面では学年の半分くらいと言っていたのだから。


 僕は彼女に一位ということを公表してないが、三十位以内だと思われている。


 この学年──320人の中で三十位に入ってるのはすごい事なのだろうが、僕が彼女に勉強を教えるきっかけは、テスト返しの僕の動揺だったらしい。


 つまり僕が何位だからだったというわけではない。


 と言う事を晴人に言おうとしたが、寝室の扉は既に閉まっていた。


 




 ──次の朝、昇降口にて僕の嫌な予感は的中した。


 周りからの目線が妙に痛いのだ。心当たりしかなく、僕は晴人に助けての合図を送ったのだが「知らん」といわんばかりに、そっぽを向かれた。


 その日、なぜか自習室に行かないほうがいいと本能が訴えてくるので、僕は乗った。


 教室に辿り着いたところで晴人が「ちょ、おま、ついてこい」と、行き先は言わないがトイレと察し、仕方なく着いてった。


 途中で廊下がやけに騒がしくなってきた。人々はまるでどこかの有名な人が現れたかのように目を点にし、一点を集中していた。


 純粋な好奇心でその視線を追うと、有名人がいた。それに二人も。


 一人は僕が昨日勉強を教えた相手でもあり、この学校のミスでもある穂波乙葉。もう一人はというと、昨日僕が図書館で会った委員でもありこの学校のミスターでもある……人だ。


 とてもお似合いなのだが、なぜか僕の心はモヤモヤしていた。これご嫉妬だとしたら僕は馬鹿だ。この二人に僕は何を妬んでいるのだろうか? 何ができるのだろうか?


 それに彼女は僕を勉強のできる子という認識だけで、他に何もない。


 僕は昨日、彼女を待つべきかと図書館前で考えていたが、帰って正解だったようだ。あんなに楽しそうに話をしてるでないか。二人の相性は良かったのだ。危うく邪魔をするところであった。


「絵になるよな」


 本当にその通りだと思った。彼女が恋愛をするとすれば、相手はきっと彼か彼みたいな人だ。


 トイレは二人の向側で、そこへ行くには二人とすれ違わなければならない。引き返すわけにもいかなく、僕は歩き出す。


 途中彼女と目があってしまった。気まずさのあまり俯いてしまった。


 彼女達の会話は止まり、僕は聞いてしまったのだ。彼女とすれ違う瞬間、良い匂いと共に彼女の口からは聞きたくなかった言葉を。


 酷いよ──


 どこか悲しそうなトーンだった。


 僕に言ったのだろうか? それしか考えられない。目を逸らしたことがそんなに心を傷付けるものなのか。


 後で謝っておこう。


 



「お前ら何なんだ?」


 トイレを済ませた晴人は手を洗いながらそう言った。


「何が?」

「お前らの仲だよ。なんで同時に俯くんだよ? 別れたてのカップルかよ」


 彼女が俯いてたというのは初耳だ。同時だったのか。

 

 同時……。


「本当に同時だったの?」

「言ってるじゃん。あ、でも乙葉の方が早かったかもな」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かったです(゜∀゜*)(*゜∀゜)続きは書かれないんですか(´・ω・`)?
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