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3.彼女の寝言

 僕はポイント制が嫌いだ。自分の存在価値が数字として出されてるのが気持ち悪く、気に入らない。


 そしてこの学校は実力主義だ。努力したものは報われ、怠った者は相応の結果が出る。


 なぜそんなに1位にこだわるのか僕には分からなかった。僕は1位を必然的にに取ったわけではない。自然にとってしまったのだ。


 一人の僕は特に、遊ぶ予定がなく、勉強に当てる時間しかないのが理由だと思う。


 とはいえ、昔から勉強は嫌いではなかった。毎日復習するという習慣を身につけてる僕にとって、テスト前に追い込まれることもなく、授業もしっかりと聞いてる僕は、応用問題でも難しいと思った問題はほとんどない。


 強いて言うならば、模試の最後の問題。あれは頭を捻らされる。


 そして結果で報われた時のあの達成感がなんとも言えない。


 ただ勉強をしているだけではない。部活動もしっかりと参加している。といっても、この学校は部活動の参加が義務付けられているため、行かざるを得ないのだ。


 僕は中学からずっとソフトテニス部に所属している。小さい頃から親に勧められ、小学校からソフトテニスを始めたのだ。


 他の人よりもマウントを取っているので、相応の結果は大会で叩き出している。県大会は常に行っているが、やはり上には上がいるため、その先に進むことは簡単ではない。


 委員会でもそうだ。僕は昔から判断力には優れていると自信はある。去年、僕らの委員会──放送委員会は、文化祭の時に問題が起こった。


 その委員会を僕は中学の頃に3年間続けてやっていたため、機材には詳く、持ち前の判断力でその問題を陰で解決して見せた。


 きっと知っているのは先生だけだろう。

 

「恋愛をしてみたいんだ!」


 彼女の一言に驚愕した。一位を取りたい理由は恋愛がしたい……。どう考えても分からなかった。彼女程の容姿があれば恋愛など容易だろう。


「私、恋愛禁止されてるの」

「アイドルだったの? 僕知らなかった」

「違うよ! ただうちさ、両親が厳しくって……一位も取れないお前に恋愛をする資格がないって言われて」


 なぜか僕の胸糞が悪くなった。


「それに私って女神じゃん」

「そうなの?」

「碧真くんが言ったんじゃん!」


 頬を膨らませる姿がぼくの頬を緩ませる。


「あぁ、そうか」

「冗談だけど。私ってさ、自分で言いたくないけど、ほら……モテちゃったり……するじゃん?」

「うん」

「だから私、多分恋愛しようと思えばすぐにできちゃうと思うの。それが怖くて、変に気を起こさせたくはなくて、接する時は気をつけてるの」


 嘘をついている。席替えの時のあの挨拶……あれが気をつけてる、つまり自然ってことか。だとした彼女の接した相手はみんなきっと変な気を起こしているだろう。


「私だっていつ人を好きになっちゃうか分からないし」

「僕には気をつけないの?」

「君は変な気を起こすの?」

「そのつもりはないよ」

「君は恋愛に興味がなさそうだよね」

「そう見える?」

「違うの?」

「違くないよ」


 僕の推測でいくと、彼女は僕に安心しているのだ。確かに僕はパッとしないし、これといって行動も起こさない。席に座ってることの方が多いだろう。


 恋愛に興味がなさそう……か。その通りなのかもしれない。僕は今まで彼女といったものがいなかった。同性愛かと言えば違う。


 彼女みたいな容姿端麗な人を見るとくるものがある……が、僕とは絶対に無縁の存在だと結論付けるため、まず好きになろうとすらしないのだ。


「ずいぶん長くなったけど、本題ね」

「うん」


 隣の椅子に腰掛けた彼女は、目を細める。


「私に勉強教えて」

「君は2位なんだよね、頭いいんでしょ?」


 乙葉は「チッチッチ」っと人差し指を目の前で揺らした。


「碧真くんは分かってないなー、この学校のシステムってものをね。勉強が全てだと思っちゃいけないよ?」

「えっと……」

「この進学校がテストの順位を明かさないのは何でか知ってる? そもそもなんでポイント制なのか知ってる?」

「知らないな」

「秘密……」


「うふふ」と言わんばかりの形相で、彼女は微笑んだ。これが男子に変な気を起こす元になってることを彼女は知らないのだろう。


「焦らすのが好きなんだね」

「時間がないからだよ。この話は長くなるからね……。一つ教えてあげるとすれば、私のテストの順位は半分位だよ」


 勉強が全てではない……。彼女自身も自分の順位が半分位というのは分からないはずだが、仮に半分位だとして、2位が取れるのか。


「さぁ! 勉強を教えて」


 彼女のオシャレな鞄からは問題集が取り出された。


 聞かれるがままに答えて、彼女はふんふんと納得したのかしてないのか分からない表情で問題と睨めっこしていた。


 時計の短針は、8と9の間を指していた。


 館内から閉館を知らせる音楽が流れ始めたことが、本を読みながら気づいた。この音楽だけはやめて欲しい。彼女がより深い眠りに落ちてしまうから。


 彼女は机に突っ伏しながら、規則正しい寝息をたてている。


 館内には僕らと、委員だけになっていた。途中、彼女の無防備な寝ている姿に、何人かの男子からの視線を集めていたようにも感じだが、その視線が僕への妬みなのかは分からなかった。


 どの男子も変な行動を起こさなかったことに僕は救われていた。


「碧真くん……」


 あざとさ全開の小さな声に、心臓が跳ね上がった。彼女の額はこちらに向けられたが、相変わらず寝息と共に目を瞑っている。額に流れる乱れた髪の隙間から見える睫毛は長くて、見入ってしまった。


 はっと我に帰った僕は、彼女に声をかける。


「ねぇ、えっと……乙葉?」


 返答の様子はなく、ただ寝息をたてている。女子に触ることなんて殆どない僕には抵抗があったがやむを得なかった。


 彼女の肩を優しくさする。


「……ん」


 その声は反則だ。


 それでも起きない。本当に彼女は僕なんかを安心していいのだろうか? ふと彼女の長髪が目に入った。少しだけならと僕は髪をすくうように持った。とてもサラサラで、彼女はどこまでも手入れが行き届いているんだなと実感した。


 この時、彼女が起きていたことを僕は後に知るのであった……。

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