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1.地の亀、天の月を目の当たりにする。

 ポイントこそ全て。ポイントさえあればいい。ポイントがなければ底辺。僕らの高校の生徒はこのように、ほぼポイントというものによって左右されて生活してるといっても過言ではない。


 僕らの通う帝京北(ていきょうきた)高校──通称北高は、誰もが一度は耳にするであろう、県有数の名門高校だ。


 今年の倍率は馬鹿にならないくらい高かった。一クラス40人、それが8クラスで一学年320人。それが3年の960人で構成されている高校だ。去年僕はそれに勝ち抜いて入学した。


 この都心に佇む北高は私立で、とても金持ちだ。広大な土地を有しているため校舎はかなり大きく、築数十年と新しい。一部屋4人の寮制であるため、家にいる妹に中々会えないのが寂しい。そして生徒の意識のおかげか掃除が隅々まで行き届いている。


 つまり環境が完璧であるのだ。


 何よりこの制服がいい。きっと誰もが目を奪われるであろうこの制服。現に僕は目を奪われた。僕にはファッションセンスがない。それに中肉中背、顔面偏差値普通の僕に、この制服は似合わない。


 ファッションの全ては素材が決めるんだなと、トイレの鏡越しに立っている自分を見ながらつくづく思うのであった。


「おはよう碧真(あおま)、今日ポイントの配布日だぞ。どのくらい貰ったんだよ?」

「あー、はいよ」

「相変わらず愛想ねーな」


 寮の洗面所に入って来たのは僕と同じ7組のクラスメイトである、八重樫晴人(やえがしはると)。入学当初、席が近いという理由で話すようになったが、どうやらボッチの僕とは違い、晴人はちゃんと友達がいるようだ。


 とはいえ入学当初、僕は友達を作らなきゃと焦っていた。結論から言うと、失敗した。つまり僕は一人ぼっちになってしまったのだ。しかし僕は一人でいることの気楽さに気づいてしまい、今となっては、友達が出来なかったのは良かったのかも、と思う。


 僕はポケットからスマホを取り出し、電源をつけ、校内とリンクしているポイントアプリを開き、渡した。

 

「すげーな、また校内一位かよ。ってかこんなにポイント貯まって、使い道ねーのかよ」

「学食にしか使わないからね」


 この学校は毎月ポイント配布が行われている。その月での学力、応用力、行動力、コミュニケーション力、理解力、など様々な力を総合し、ポイントとして僕らに配布される。


 ランキングというのを見ると、現在の総合ポイント、月間のポイントというのがそれぞれ上からズラッと表示されて、どちらも1位から30位までが名無しで表示されている。


 僕の解釈だと、これらのポイントは本人の価値を決めるものだと思っている。つまり僕はこの学年で一番の価値があるのだ、と、総合ポイントランキングの一番上──56万ポイントと月間ポイントをランキングの一番上を見ながら嫌々思う。


 総合ポイントの二位から下は、40万から30万辺りで争っているようだ。つまり僕は断トツなのだ。


 これらのポイントはただ価値を見出すだけでなく、使うこともできる。例えば僕が唯一ポイントを消費している学食。毎日食べている定食は現金でざっと500円。これがポイントだと800くらい。こういったものにポイントを使うため、僕は財布を開けることなく済んでいる。


 僕の現在の所持ポイントは33万。確かに貯まり過ぎかもしれない。


 ポイントは学食以外にも自動販売機、校内運営の文房具屋、スポーツ用品店で使うことができる。本当にこの学校は金持ちなんだなと実感する。とはいえ、入学金がそれを物語っていたので、期待はしていた。


 総合ポイントは今まで貰ったポイントの総合であって、所持ポイントとは無関係だ。他の人の所持ポイントはどのくらいなんだろうか。


「ってかさ、7組っていーよなー」

「どうして?」

「だって乙葉(おとは)と同じクラスだろ?」

「今更かよ」


 寮のもう一人の生徒、5組の一条銀太(いちじょうぎんた)が二段ベットの下の段に寝転がり、スマホと睨めっこしながら言う。


 僕はクラスの生徒の半数以上は覚えてない自信がある。覚えてたとしても、苗字はどうか、名前の漢字はどうかレベルだ。


 八重樫晴人と宮奈乙葉(みやなおとは)を除いて……。


 なぜ僕が彼女の事を知っているのかというと、単に彼女が有名だからだ。


 去年のミスコンテストに、乙葉は他クラス他学年の立候補者を見くびるかのように、断トツで一位の座を手にしたのだ。


 そして、昇降口にも廊下にも彼女の写真が貼り出され、目や耳に嫌でも入ってきた。


「よし、碧真行くぞ」

「うん」


 お互いに支度ができたので、僕はいつも通り晴人と校内へ足を踏み入れる。


「そういや、今日席替えだってな」

「そうなんだ」

「隣、乙葉だといいな」

「別に」

「本当はなりたいくせに」


 本当になりたいとは思ってない。まずなってどうする。僕と乙葉とじゃ天と地の差、月とスッポンだ。こんな地の亀があんな天の月を目の当たりにする……とんだ無礼だ。


 別に僕自身コミュ障だとは思ってないが、彼女と話すのには何か大きな覚悟が必要な気がするのだ。


「んじゃお先」

「うん」


 早朝から僕はそのまま自習室へ勉強しに、晴人は教室へと、これは日課だ。


 


────




 放課後のホームルームで席替えを行い、僕は教室の隅だった。頬杖をつき、二階の窓から茜空をバックに聳え立つ多数のビル群を眺めていると、後ろからどこまでも透き通るような声で「宜しく、碧真くん」とつかれた。


 恐る恐る振り返る。隣の席に腰かけていたのは、案の定乙葉だった。


「……あ、うん」


 僕はコミュ障だった。

 

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