第6話 呆気ない決着
「皆撤退しこのことを伝えろ!私が食い止める!」
「それじゃ隊長が!」
アインの叫びにエルは返す。どう考えてもこの場にアイン一人を残して生き残れる可能性は低い。当人もそれを理解しての決断だろう、だが人道的にそれを許すことが出来る人間はここにはいない。
「アスカ、皆を連れて行ってくれ。頼む。」
「――…。」
しばしの沈黙、このままアインの意図を汲んでやる事が俺たちの出来る事なのか、否、そんな訳がない。全員生きて帰る、それが良いに決まってる。
「寝惚けてんじゃねェ、まだ始まったばかりだろうが、あきらめんのは全力を出し切ってからにしろ!」
「…!そう…だな。どうも年を取ると諦めが早くなって適わんな…。」
肩の力を抜き目の前の凶魔を見定める。突破口を探す用に。
「物理無効なんてふざけた力無限なんて事ねェだろうな。」
「魔力が減ればその分弱まる…人間と同じ…。」
昔から常に本を読み深けていたアミィは凶魔に関する知識も少なからず持っている。
「なら倒せない事もねェな、おいカイル!いつまでも寝てんじゃねェぞ!!」
アミィの隣で横たわるカイルに怒号する。
「少しは怪我人を労われないのかっての…。」
よろめきながらゆっくりと立ち上がる苦痛に顔を歪ませつつも何とか笑って見せている。
「油断して手負いになるようなやつを労ってやるほど聖人じゃねェよ。」
「あぁ、悪かった、二度もやられて黙ってらんねーぜ…!」
滲み出る血液を押さえながら凶魔に対峙する、その表情は先ほどとは違い心配はいらなそうだ。
「男共は交代して凶魔を抑える!エルは魔力を溜めて待機していろ!私が先行する!」
アインは凶魔に向かい走り出した。
「ごめんなさい…こういう戦場で私の能力は役に立たない…。」
悔しそうに涙を浮かべ唇を噛み締めるアミィ。
「気にすんな、お前のやれることをやればそれでいいさ。」
アミィの頭を軽く撫でるとアスカは凶魔を眼前に捉える。
激しい凶魔の動きに歴戦の感頼りに防御を繰り返すアインだがそろそろ限界だ。
「くっ、次だ!」
攻撃にあわせ凶魔を弾き体勢を崩すと即座にアスカと入れ替わる。
すぐさま体を立て直した凶魔は激昂しているのかアスカに前足を振り下ろす。
腰の剣を抜き振り下ろされた一撃を受け止める。
「この脚かぁ?うちのバカのどてっぱらにぶち込んでくれたのは。」
ニタリと微笑を浮かべると剣を一閃する。
なんと言う事か、凶魔の右前足はその血で真っ赤に染まり倒れこむようにバランスを崩した。
「グゥルァァァァァ!!!!!」
「なっ……!?」
アインは驚愕を露にしている、何せさっきまで生死を分かつ戦いをしていたはず、凶魔には物理攻撃も効かないはず。それがどうだ、アスカの一太刀で魔力装甲は完全に破れていたのだ.
「機嫌はどうだよ、犬っころ。後は任せるぜ。」
剣に付いた血を振り払い早くも剣を収めてしまったアスカの脇をカイルが駆ける
「さっきのお返しだ、食らいな!!」
魔力を全力で込めた太剣は凶魔の体躯を叩き上げた、さっきのアスカの攻撃で既に凶魔の魔力装甲が切れているおかげだ。その周りには数十メートルはあろう氷塊が対に浮いている。
「くったばれぇぇぇぇ!!!!」
エルはその氷塊を操作し腕を勢いよく交差させた。
氷の砕け散る爆音と僅かに鈍い音が重なり落ち砕け散る。
氷塊の隙間からは凶魔の血がゆらゆらと流れ溶けた氷に混じり合っていく。
「やったか。」
「それ言うと大抵やってねェ感じするから止めとけ。」
カイルのお決まりのセリフを両断し全員の無事を確認する。
「皆無事のようだな…正直驚かされた、お前たちがこれ程の戦力だとはな。」
「へへっ、一時はどうなることかと思ったけど、何とかなったな。あたた…。」
緊張が解けたのか、傷口の痛みが舞い戻ってきた様子のカイルはバタンと横になる。
「初任務でコレはしんどすぎるって…。」
魔力を出し切り憔悴状態のエルは既にうつ伏せでぐったりしている。
「…こっちも終わったよ。」
凶魔と交戦している間アミィは邪魔が入らないように取り巻きのオオカミ達をしっかり抑え掃討していた。地味ながらもしっかりと仕事をこなしてくれる。
「これで任務達成だ、皆ご苦労だった。」