第1話 騎士アスカ
春風が心地良い季節、街中は賑わいを見せ人々は入り乱れる。
ここはカイリーン王国王都、カイリーン、人口1000万人を有する大都市だ。
騎士学院を卒業し晴れて王国騎士となって早くも半月が経過した。
騎士の役目は国民をあらゆる脅威から護り、安寧の生活を支援すること、と言えば聞こえはいいが実際の所は数多くある一般人には手に負えない面倒事の依頼を処理することが殆どだ。
国同士の争いで招集されるのは一線級の騎士だけ。勿論騎士となるからには俺もその高みへ登りつめたいものだ。
騎士団本部へと向かう道すがら、そんな事を考えていた。すると背後から声がかかった。
「よっ、相変わらず気だるそうだなーアスカ。」
聞き覚えのある声に振り返るとそこには騎士服に身を包んだ茶髪にピアスをつけたチャラそうな男。
「仕方ねェだろ、朝は苦手なんだよ…」
こいつはカイル・フェンデル、騎士団の同僚であり同じ隊の所属で何かと気の合う友達みたいなものだ。
「ま、昨日は大変だったしなー、仕方ねーよ。」
腕を後頭部で組み能天気に歩みを進めるカイル。
「確かにな…迷い猫を探すだけの任務がまさか丸一日掛かるとは思ってなかったぜ。」
新人騎士に課せられる任務の殆どが依頼のあった雑用で、先日は飼い猫を探す仕事だったのだが…
このだだっ広い城下町から1匹の猫を探すだけでも骨が折れるというもの、挙句の果てには見つけた猫が魚屋の商品を荒らしその後始末までさせられたのだった。
「こんなんばっかりじゃ騎士になったって気がしないな。」
「あーわかる、オレ絶対に個人で何でも屋やった方が儲かるわ。」
「そういう意味でいったんじゃねェんだけど…まぁそろそろ骨のある任務がやりてェよな。」
そんな会話をしている内に王国騎士団本部へと到着した。
王城には劣るもののかなりのでかさを誇る、レンガ造りの外装に騎士団が掲げる戦旗が飾られている。
いつもどおり新兵修練場に到着すると戦意旺盛な新兵たちが各々訓練に励んでいた。
「相変わらず汗臭い所だなーここ。色気も糞もない。」
隣でげんなりしているカイルをよそに椅子へ腰掛けると一人の女性が声を掛けてくる。
「そういうあんたたちは相変わらずしみったれた面構えしてるわね。」
「『あんたたち』って…俺は別に何も言ってねェだろ。」
「一緒よ、ろくに寝癖も整えずにゆったりとやってくるんだもの。」
「おぉ我が麗しの女神エルちゃんじゃないか!今日もかわいいね!」
急にテンションを上げてその女に猛アピールしているカイル、こいつかなりの女好きだが女なら誰でもいいのか?確かに見た目は悪くないが…
この開幕罵倒を押し付けてきた赤茶のショートヘア女はエル・ミクリア、カイルと同じく同じ隊の同期である、俺たちの任務に対する態度や日々の適当な鍛錬が気に食わないようで何かと突っかかってくる。
簡単に言えばかなりまじめな奴。
「うっさいチャラ助。」
「くっ・・・どんな言葉でもエルちゃんならご褒美だ!」
本格的に大丈夫かこいつは…
「フェンデル新兵!並びに同隊所属の者たちよ、至急第一会議室に向かえ!」
突如二階から新兵訓練担当教官から室内に響く声で告げられた。
「何だ突然、俺たち何かやったか?」
「昨日の任務の報告ならしたわよ?」
周りの新兵たちがざわつき始める中俺たちは疑問を抱き会議室へと向かった。