プロローグ
――プロローグ――
鼻につく血と硝煙の臭い、荒れ果てた大地には血を流し横たわる数々の屍。
地獄のような場所にたった1人。聖剣を携え生にしがみつき立ち上がる騎士。
「どんな事があっても…倒れてはいけない…!騎士は…人々の希望なのだ!!立ち上がれ!!!騎士たちよ!!!」
その声に1人、また1人と立ち上がる。
「絶望を跳ね除け光を灯せ!!我らがカイリーン王国に栄光あれ!!!」
声をひとつに張り上げ騎士は進む。
さぁ!国を守ろうとする果敢なる勇士よ!集え!!
王国騎士団広報部――
「くっだらねー…」
街中で行われていた演劇を終え思わず声が漏れてしまう。
「激しく同意だけどサボってていいの?アスカ、ただでさえ落第ギリギリなのに。」
白銀の髪に爽やかな笑みを浮かべる青年、ライカは俺にそう問いかけた。
「そりゃそうだけどよ…これはねェだろ…。」
騎士学校の卒業試験を控え、実技の方は問題なく進んだのだが、座学は絶望的な状況で担当教諭からこの三文芝居につき合う事で免除してやると促された。
外じゃ他国とのいざこざで大変って時に暢気なものだ。
「つか、学院主席のお前が何でここに居るんだよ。」
ライカは実技、座学共に今期トップの成績で、騎士に叙勲されれば即戦力とまで言われる天才肌だ、単位が目当てでこんなことをしてる俺たちには無縁の存在のはずだが。
「せっかくだから冷やかしに来たんだよ。俺とアスカの仲じゃん?」
「ぶっ飛ばすぞテメェ!?」
「なんて冗談さ、半分はね。本命はアレさ。」
冷やかしに来たことには代わりないようだが、ライカが指差す方向にはフードを深く被った小柄な人物が演者を眺めていた。
「…すごい、カッコいいですわ!!」
「あぁ…お前も大変だな。」
とてとてと興奮した様子でこちらに近づいてくる、フードが外れて美しい青色の髪とライトブルーの瞳が露になる。
「見ましたかライカ!?やはり私騎士を目指すべきだと思いますの!!」
「また始まった、貴方はそんな危険な事に手を出していい身分じゃないんですよ、姫様」
カイリーン国王の一人娘、ルーミア姫はライカに真剣に伝えるが当然ライカは拒絶する。
「相変わらずのじゃじゃ馬っぷりだな姫さんは。」
「うるさいですわよ!何なんですのあの腑抜けた演技は!やる気はありますの?」
「倒れた騎士の役なんざ何をどうやってやる気を見せろってんだよ…」
どうして一国の姫君とこんなにも仲良く話しているのかはいろいろと事情がある。
俺の祖父はかつて王家専属の剣術指南役として王城に赴くことがあった。その時幼かった俺は王城によくついて行き歳も近いということで姫さんに出会った、そしてその姫さんの従者がライカだった。今では2人とも幼馴染のようなものだ。
そしてこのじゃじゃ馬姫は護衛の目を盗み街へと飛び出すことが多く、よくライカを連れては無茶をするのだ。
「とりあえず姫様、ここには御忍びでつれてきたんですから、陛下に知れればまたお城に閉じ込められてしまいます、どうかお静かに、ね?」
人差し指を口元に当てルーミアのフードを被りなおさせる。
脅しが効いたのかは知らないが借りてきた猫のようにおとなしくなり一息つく
「学院生活ももうすぐ終わりか、なんか不思議だね。」
ふと呟くライカの表情はなんとなく寂しそうに見えた。
「お前は卒業を待たずに陛下直属の『プリオンナイト』に招集、叙勲だもんな、エリートは違うねェ」
若干いやみっぽくなってしまうのが悔しいが、ライカの実力ならと納得してしまう自分の劣等感を更に搔き立てる。
「心労は尽きないけどね。プリオンナイトって言ってもやる事は今までと変わらず姫様の護衛さ」
そんな内心を察しているかは定かではないが、ライカは苦笑いしながら言った。
「お前は王家を守る。俺は国民を守る。役目は違えどやる事は一緒だ、一般兵は精々雑用に励むとするぜ。」
「次会うときはお互い騎士としてになるかな…」
来週には王城に召集されてしまうライカとはしばらく会えなくなるだろう。
「だな、あのときの『約束』、忘れんなよな」
「忘れないさ、命に代えてもね。じゃあそろそろいくよ、元気でね。」
にっこり微笑むとルーミアをつれてこの場を去っていく。
お互いの騎士道を胸に、騎士たちは歩みだす。
そして運命の歯車は狂い始める――