第38話『ドッキリ大作戦』
さぁ、今日は暇な日。何もする事がない美紀はある事を企んだ。
小夜をドッキリにかけたら、引っ掛かってくれるのか。
美紀と小夜の間には、既に『絆』と呼べる程の深い関係がある。お互いの好みや性格と内面、さらには武器と弱点も。
今の小夜には、心霊と水泳が弱点なのも美紀は知っている。
だからこそ、美紀は小夜の強みと真っ向勝負して負かしたいのだ。
美紀は部屋で色んな方法を考えて、小夜をはめる為の作戦を考える。
小夜の強みである頭脳戦、ロシアンルーレット、狙撃、精神力。
一度挙げたらキリがない程の強みを持った小夜は、もはや軽くチート染みている。
美紀はノートいっぱいに小夜へのドッキリ方法を書き留めて、パタンと閉じた。
「よし…! ドッキリ開始!」
美紀は小夜がいる境内へと走って向かった。
ドッキリその一。
裏口から出て、ハシゴを使って神社の屋根に上がってある物を手にする。
サッカーボール。
両手でしっかり持って、掃き掃除をする小夜に狙いを定めた。
“くらえ爆撃……!!”
スローインを意識してフッと投げ、その時に音を立てない様に用心した。
ボールは小夜の頭上へと飛んで行き、見事に直撃する事が美紀には分かった。
“当たった……!”
小夜は突然ふいにしゃがみ込み、何かを拾い上げた。
“アレは……”
随分前に誰かが落として、そのまま凍った神社の御守り。小夜は返納場に御守りを返納し、掃除を再開した。
美紀は今の行動で察した。
“神の御加護か……!!”
こんな事で諦めないのが伊藤 美紀。
すぐに次のドッキリへと移行する事に。
ドッキリそのニ。
おやつの時間になり、小夜は縁側で緑茶を口にし始めた事を確認して、
「小夜大佐! 毎日ご苦労様です!」
ビシッと敬礼して小夜を見る。小夜は少し遅れてだけど、ピッと敬礼をしてくれた。
「そんな小夜ちゃんに私からの差し入れだよ! はいどうぞ〜」
お皿にいくつかのチョコを乗せて差し出して、小夜はそれを受け取るなり、
「ありがとう美紀。じゃあ私からもお返しにこれを」
「もうくれるの? …でも頂くね」
ガムを貰った。さっき美紀が渡したチョコは感謝のお礼で、バレンタインを意識して渡した訳ではなかったのだが…
小夜から貰った物は、商品をそのまま渡した訳でもない。
小夜の手作りかもしれない。
「いっただっきまーす!」
美紀はガムをパクッと口に入れて美味しく噛んだ。
「……ッ!!」
ガムが一瞬だけ、刺激的な味になった。
「酸っぱい…」
一つだけ刺激的なガムの商品の中から、刺激的なガムだけを貰ったみたいだ。
“あれ…? そういえば小夜ちゃんは……”
小夜はチョコを一つ口に入れて美味しく頂いている。
「うん、美味しいよ美紀」
「あ、うん……」
小夜があまりにもノーリアクションでチョコを食べている事に疑問を感じた美紀は、チョコを一つ口に入れた。
“ん〜…………”
やっぱり、間違って出した訳では無かった。
“あれ…? んー?”
ドッキリその三。
「小夜ちゃん! 私ね、ちょっと遠くに行って来るから! 帰りは遅くなりそうだよ」
「分かった。じゃあ、夕食は美紀一人で食べるって事で良いかな?」
「うん! じゃあ行って来まーす!」
「行ってらっしゃい」
一気に走って、街のとある公衆電話の前で呼吸を整え、ゆっくり扉を開けた。
十円を入れて、神社に電話をかけた。
「あっ、小夜ちゃ––––」
『…………』
何も聞こえない。間違いなくボタンを押したはずなのだが…
「もしもーし?」
度数が無くなり、電話が切れた。
このままでは何も出来ないまま帰る事になってしまう。
“…たまには山に登ろうかな”
美紀は財布を取り出して、八王子の有名な場所へと向かった。
そして、夜遅く。
息を切らしながら帰った美紀。
“やっ… やっと帰って来られた……”
美紀はあの後、行った先で沢山の思い出を作って、夜になっている事に気付かなかった。
大慌てで帰って来たが、今はもう夜の十時手前。
流石に怒っているかもしれない。
「た、ただいま〜…」
やはり、小夜はいた。
しかも仁王立ちで。
「…お帰り、美紀」
美紀はジャンピング土下座で小夜が許してくれる事を願った。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい––––」
二〇〇〇年初期に放送されたアニメの主人公レベルの早口で「ごめんなさい」を連呼して土下座を続けた。
「いや、その…… ポーズが悪かったかな?」
「そうだよ! ポーズ何とかしてよ!」
「反省してないじゃん!」
小夜から軽くツッコミを貰った。
「えへへ〜…」
突然小夜が美紀を見つめ始めた。それはもう恋する少女ではなく、人以外の何かを見ている感覚を覚える視線。
「美紀、あなた八王子城跡地に行ったでしょ?」
「うっ……」
「私に憑かせようとしたんでしょ?」
「うぅ……」
「効かないからね」
「あっ、『効くワケないじゃん』的な…」
小夜は左手を強く握り、打つ構えをとった。
「ちょっ…… デトロイトはやめてよ……」
ドッキリその四。
いつもの時間、朝の四時に起きた小夜。しかし、いつもしていない事が一つ。
寝た場所だ。
小夜の部屋ではなく、すぐそばの廊下。
部屋には裸の美紀が、朝起きた小夜のリアクションを見ようと布団の中で待機していたからだ。
そこで先回りして夜中に起き、こっそり部屋を出て廊下で二度寝したという訳だ。
“美紀が起きるまでの一時間、何していようかな……”
とりあえず、いつも通りの反撃として美紀が勝手に使った布団をめくって、風邪を引かせる事に。
“…………”
小夜は美紀を一瞬見つめ、顔を赤らめながらすぐ逸らした。
見ない内にすっかり……
いや、やめておこう。
“さっ、朝のやる事やらないとね……”
朝の五時過ぎ。
普段より遅めのテンポで階段を降りる音が。
扉の向こうで、くしゃみをする音も。
食卓に来た美紀は身震いをしながらもしっかりと学校に行く準備を済ませていて、行く気満々だが、体が寒いのか、ちゃんちゃんこを纏ってから椅子に座った。
「おはよう、美紀」
「おっ… おはよう……」
美紀は日向の当たる席に座って少しでも暖まろうと、丸まっている。
「ココアでも飲む?」
「ミルクを入れて… ミルクココアにして飲みたい…」
すぐに用意してくれた。美紀は震える手で必死に取っ手を掴んで、ゆっくり喉に通した。
「ねぇ小夜ちゃん……」
「何?」
「寒い……」
「そうだねー。もう二月だからねー」
「そう言う事じゃない…… そう言う事じゃないよ……」
美紀はまた、くしゃみを一つして体を震わせた。
ドッキリその五。
「やっと昼休みまで耐え切れた…」
マスクや消毒などを身にまとい、重装備で朝の授業を耐えた美紀だったが、それはもう限界に近付いて来た。
「あれ? 美紀のとこだけお薬のにおいがするー」
明が美紀に話しかけてくる。
悪いが、今は明と話す余裕は無い。ここは何とか文音と協力して明を離してもらおう。
「ねぇ文音、私は今寒いんだよ」
「まぁそうだよね。朝から身震いしてたしね」
「もしかしたら風邪かもしれないよ。もし明に感染ったら大変だよ… だからさ、また今度一緒にお話しようね」
文音は明を説得させている時、美紀のくしゃみを聴いた気がした。
「…本当に風邪かなぁ?」
まだ体の冷えだけの症状なのかも。文音は美紀の咳の仕方でそう予想した。
そして、学校が終わって神社に戻った。
「ただいま〜…」
小夜の声が聞こえる前に部屋に入り、着替えもせずにベッドに倒れ込んだ。
“もう寝よう……”
それからしばらくして、
「美紀ー、私これから買い物に行って来るから……」
美紀は布団に潜ってスヤスヤ眠っている…
気持ちよく。
「寝てたんだ…」
小夜はそっと部屋を出て、こっそり神社を出た。
美紀の胸元に怖い画像を忍ばせていたが、それは不発に終わった。
ドッキリその六。
「う〜ん、よく寝た〜」
時計を見ると、夕方も終わる夜六時。かすかに空は明るく、部屋の電気を付けるまでもない。
「小夜ちゃ〜ん、どこー?」
あちこち探したが、さっきから風呂場でシャワーの音がうるさい。
「小夜ちゃん…?」
小夜はグッタリして倒れていて、小夜のそばには赤のペンキが置いてあり、バレバレな程にお湯を赤くしていた。
美紀はふと心霊番組を思い出した。
「きゅっ…… 救急車呼んで下さい!! 早くっ!! 早く救急車を!!」
緊迫の演技を自分なりに意識して、スマホを焦りながら取り出し、電話で番号を打ち耳に当てた。
「救急です、人が… 小夜ちゃんが倒れてて……!!」
小夜をチラッと見て、
「だから早く見に来てっ、文音!!」
「そっちかい!!」
小夜が復活した。元気そうで何よりです。
「大丈夫だよ、写真撮ってるから」
「消して!! 今すぐ消して!!」
小夜は顔を赤くして、美紀に顔を見られない様に隠した。
ドッキリその七。
「やっとお風呂だよ…」
あの後、徹底的に掃除した。
今は夜の八時。
小夜はもう寝る時間が目の前にある。
「それにしても、小夜ちゃんがまさか命に関わるドッキリをするとは…」
「うぅ…」
恥ずかしがってる。美紀から目を逸らした。
美紀は小夜を励まそうとフォローを始めた。
「あゆみさんや大学教授より現実味があって怖かったよ!」
小夜の羞恥心はまだ残ってる。
まだ足りない様だ。
「それに、私だったらもう絶対やんないよ。あんな事」
確かに、もう先にやられた以上、美紀がやっても効果はない。
「あとは自分の部屋のベッドでやって貰いたいね!!」
「それ、未来イベントじゃん……」
顔を逸らしながらも突っ込んでくれた。
ドッキリその八。
「さぁ小夜ちゃん! ここからは一騎討ちだよ!!」
美紀は小夜の部屋で決闘を申し込んだ。
「いや、最初から一騎討ちだったでしょ……」
小夜の冷静な突っ込みを受けるが、美紀には慣れた返答。
全く効かない。
「ふっふっふっ… 喰らえ呪いの爆弾っ!!」
スマホを小夜目掛けて投げた。よく見るとイヤホンが挿されたまま。
「おっと…」
小夜はサッと避けた。
その時、スマホに挿されているイヤホンのコードが抜け、その瞬間、耳をつんざく爆音で呪われそうな音楽が神社全体に流れた。
「どうだっ!! これが呪いの爆弾……!!」
足を引っ掛けられて、転んだ。
「おやすみ」
「おやすみ…… グフッ」
チーン……
美紀「小夜ちゃんは強いね〜」
小夜「少しは強いからね」
美紀「じゃあ体操しようか、ニ時間」
小夜「出来るよ」
美紀「嘘……」
小夜「……?」




