表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
巫女さんメモリーズ  作者: 華永夢倶楽部
第1話〜第12話
1/85

第1話『いつもの日常』


 「美紀みき、もう朝だよ。ほら、起きて」

 「う~ん… もうそんな時間?」

 「そうよ。もう朝の三時だよ」

 「え、もうそんな時間!?」

今、これを読んでいる人のほとんどが「朝早ッ!!」と思っているかもしれないが、この時間が彼女達の朝の始まりである。

 「待ってて、今起きるから」

美紀は寝ぼけた頭をなんとか起こして、虚ろな目で起こしてくれた少女を見た。

 「う~ん… おはよう、小夜(さよ)ちゃん」

 「おはよう、美紀」


食卓につき、小夜が作った朝食を口にしながら眠気を覚まし始めた。

美紀が牛乳を飲んでいる途中で、小夜が自分の朝食を食卓に置き、両手を合わせて、「いただきます」と言ってから食べ始めた。

しばらく無言の空気が流れていたが、この空気に耐えられなくなったのか、美紀が口を開いた。

 「お、美味しいよ。このチャーハン」

 「それ、チャーハンじゃなくてピラフだよ」

 「…このピラフ、美味しいよ」

 「ありがとう美紀。いつも私の料理を『美味しい』って言ってくれて」

 「だって本当に美味しいんだもん。やっぱり小夜ちゃんは女子力が高いよ!」

 「そんな事無いよ。確かに私は女子だけど、努力すれば美紀も料理が出来る様になるよ」

 「う~ん、努力はしてるんだけどなぁ~…」

美紀は視線を反らして自分の料理の腕前を思い出した。

焼きそばを作ろうとして、焼きそばのソースがまんべんなくかからず、味に偏りがある焼きそばが出来た事を…

今では焼きそばを作れるが、やはり何でも作れるかと言われたら『作れない』としか言えない。

美紀は少しだけ、料理が苦手だった。


学校の制服に着替えながら、美紀は小夜に話しかけた。

 「昨日は入学式と自己紹介だけだったけど、今日は夕方まで帰らないから」

 「じゃあ、私は夕食を作って待ってるね」

 「うん! あぁ後ね、放課後に部活の見学も行くから、先に食べても良いからね?」

 「うん、分かったよ」

小夜は美紀が着ている制服を見ながら、普段通り美紀に質問した。

 「ねぇ美紀…」

 「何? 小夜ちゃん」

 「その制服のデザイン、意外とシンプルに見えるなぁ~って」

 「当然だよ! だって有名なアニメーターがデザインしたんだもん!」

美紀は体をクルッと1回転させて、制服のスカートを軽く舞い上がらせた。

 「いや、美紀の事だからきっと、制服のデザインに惹かれてあの学校を選んだのかなぁ~って」

 「いやいや、私はそんな軽い気持ちで入学しないよ。ちゃんと自分のレベルに合わせて選んだから」

 「でも、ミニスカート…」

 「じゃあ小夜ちゃん! 行って来るね!」

 「今、ごまかしたでしょ…」

けど小夜には、美紀の制服については『ツッコんだら負け』なのが分かっていた。

 「じゃあ、行って来まーす!」

 「行ってらっしゃい!」


放課後、部活の見学へ向かう前にトイレへ行き、準備を整えていると、トイレの外から人の声が聞こえて来た。

気になった美紀は個室のドアに耳を当て、盗み聞きを始めた。

 「…本当に良いのか?」

 「あぁ勿論さ。むしろ秀の方から来ても良いのだぞ?」

 「んで、その後はどうしたら…」

 「私の両手を縛って馬乗りをすれば、少しは雰囲気が出るのでは?」

 「…良いのか? 来宮、お前はやられる側なんだからな? 俺は、お前を本気で…」

廊下を歩きながら話している二人の声が遠ざかり、やがて聞こえなくなった。

たった今聞こえた会話を美紀の頭で整理した結果は、美紀にとって嬉しい内容だった。

 “青春を謳歌(おうか)する気だ!!”

美紀の目はキラキラ輝き、嬉々とした表情でトイレから出て行き、二人の後を追った。

 “けしからん! 実にけしからんなぁ!!”

美紀の表情は完全にポンポンと弾んでおり、あらゆる妄想が全開の『夢見モード』に入ってしまった。

二人を追いかけて行くと、一際広い教室に辿り着いた。

 “ここで二人は白昼堂々とやる気だなんて… なんてエッチな… じゃなくて、けしからん二人だ!”

美紀は扉に手をかけ、思いっきり引いて教室に突入した。

 「すみませーん! 部活の見…」

美紀の目の前には、何人かの人に見られながら盗み聞きした内容通り少女の両手を縛り、その子に馬乗りをしている一人の男子がいた。

 「学…」

美紀は二人と目が合った。

 「…………」

しばらくの沈黙の内、美紀は見てはいけないものを見てしまったかの様な表情で教室を出ようとした。

 「違う!! 誤解だって!!」


 「演劇部?」

 「そう。役者や脚本家になりたい人が集まって、学校祭で演じたり、同人映画を制作して動画サイトに投稿したりするんだ」

 「じゃあ、さっきのシーンは?」

 「悪の魔女を捕まえて倒そうとするシーンさ。続き見る?」

 「いや、遠慮します」

美紀はノーと答えた。

 『じーーーーーー』

さっきから両手を縛られている少女が、美紀を見つめている。

 「えっと…」

美紀はその子を見ながら質問した。

 「ドMなの?」

 「いえ、違います」

 「じゃあ、ほどいた方が良いかな?」

 「ほどかなくて結構です。これはキャラ作りの為なので」

 「それ、どっちの意味で言ったの…?」

 「ところで、あなたは何者ですか? 演劇部に入るかはともかく、お互いに自己紹介でもするべきなのでは?」

 「その格好で自己紹介するんだね…」

美紀はもう一度彼女を見た。彼女も真似する様に美紀を見た。

深呼吸し、心を落ち着かせてから自己紹介を始めた。

 「私は幼女ボイスがチャームポイントの小さいアイドル! 皆の妹、伊藤(いとう) 美紀(みき)だよー!」

リアルでやったら公開処刑モノの恥ずかしい自己紹介を、いとも簡単にしてみせた達成感に浸っていると、演劇部の皆が拍手してくれていた。もしかしたら、空気を読んでくれたのかもしれない。

良い人だよ…

 「では、次は私ですね…」

彼女がそう言うと、演劇部員がチラッと美紀を見た。美紀にはその一瞬の意味が、彼女の自己紹介で理解出来た。

 「我が名は来宮(くるみや)! 大魔導書物『ウィザードヒストリー』にその名を刻んだ、来宮家の血筋を受け継ぐ者! そしてこの私自身もまた、来宮家の魔力を持つ者…」

『来宮』と名乗った彼女は、両手を縛られたまま、清々しい程の痛いポーズと自己紹介で、恥ずかしげも無く名乗り上げた。

 “あれ? 今、『来宮』って言った…? 来るに宮、って書いて『くるみや』って言った…?”

来宮は自分の自己紹介を特に気にせず、馬乗りをしてた人の協力でメロンソーダを飲み始めた。

 “いや、それよりも…!”

来宮は、

 “高校生にもなって…”

筋金入りの、

 “厨二病だ!!!”

高校三年生、来宮(きのみや) めぐみ。

彼女は、生粋(きっすい)の厨二病だった。


 「ふっふっふっ… 私は人間界にて『来宮(きのみや) めぐみ』として生きているが、それは他の魔法使いから逃れる為、人格形成の術によって生まれた()()()()()()()である! 私の本当の名は来宮(くるみや) めぐみである!!」

痛いポーズに痛いポーズを重ね、周りの空気を一切気にせず、彼女は、来宮 めぐみは中二病全開で話を続けた。

 「あれ~? コレって演技とかじゃ…」

部員全員が首を横に振った。

“えぇ〜…”

美紀は来宮を見たが、あまりの痛さに目を逸らしてしまった。

 「何をしている、伊藤 美紀。お前も立派な名乗りだったではないですか」

 「あれは小さい頃からやってた普通の自己紹介だから!!」

 「ふっ… 奇遇だな。私も小学生からやっていたぞ」

 「まっ、負けた…」

美紀は膝をつき、肩を落とした。

 「しかし伊藤 美紀、お前からは何も感じないな。さては純粋な人間ですか?」

 「当たり前だよ!!」

美紀は涙目で訴えた。しかし来宮は、

 「だが、伊藤 美紀の周りを強い力が守っている… コレは一体…?」

 「そ、それって…」

小夜の霊力による加護。

とは流石に言えず、

 「わ、私が持ってる御守りじゃないかな~?」

御守りを見せびらかし、必死でごまかそうとした。

来宮はそれを見て納得したのか、振り向いて背を向けた。

 「では、伊藤 美紀」

 「もうちょい短く呼んでくれるかな…?」

 「では、伊藤D」

 「伊藤D!?」

Dって何の略!? デビル? ディレクター?

 「伊藤Dが行きたい部活は、どこにある」

 「グラウンドにいるサッカー部に行きたくて…」

 「ではそこへ私が(いざ)なおう。付いて来るがいい」

来宮が教室を出て、美紀を案内し始めた。美紀は不安で後ろを見たが、部員達は来宮との付き合いが長いからなのか、「怖がらないで」と言わんばかりに見送っていた。

 「何をしている! 置いて行くぞ!!」

 「ま、待ってよ!」

階段の前で待っていた来宮に追い付く様に、走って追いかけた。一緒について行くと、意外にもあっさりとグラウンドに案内してくれた。

中二病の割に礼儀やマナーはなってる様だ。

 「さあ、着いたぞ。ではまた会おう。妹の美紀よ」

 「あ、待って! さっきと違って私の呼び名が変わってるんだけど、どういう事?」

 「わざわざ言うまでもありませんが、強いて言うとしたら… そう、呼びにくかったのだ」

 “呼びにくかったんだ…”

美紀はあまりにも拍子抜けな質問の答えに首を傾けた。

 「では、また会おう。この世界のどこかで…」

来宮は決め(痛い)台詞を言い残し、グラウンドから颯爽(さっそう)と去って行った。

美紀はそんな来宮を見て思った事は、

 「あれはもう駄目だ。中二病をこじらせているよ。早く何とかしないと…」

来宮に対して、美紀はこれしか言えなかった。


 「では、部活見学もそろそろ終わりなので、見学の方にはPKに挑戦してもらいます」

ルールの説明を真剣に聞き、先輩のシュートを見て学んでから、見学の人達によるPKが始まった。

勿論そのメンバーに美紀もいる。流石に女の子を相手にするので部員の人達は手加減をするかもしれない。

 「では、最後の人! 伊藤 美紀!」

 「はい!!」

普段の美紀からは想像出来ない程の、真剣さが伺える声色で返事をして、立ち位置についた。

 “上手く飛ぶかなぁ~…”

不安な表情を見られない様にしつつも、キーパーとにらめっこをした。

相手が何を考えているかは分からなかったが、手加減をする可能性があった。

 “だったら、本気で蹴る!!”

美紀は狙いを定め、軽く後ろに下がり、一気に助走をつけて右へボールを蹴り上げた。

キーパーも、そのフォームに何か感じたのか、動きに手抜きを感じない本気の防御で美紀のボールを取りに走った。

 「うぉ!? 何だあのスピードは!?」

 「ホントに女子か!?」

 “これでも女子なんだよ!!”

キーパーの手はボールを触れず、ボールがキーパーを素通りしてゴールへ一直線に飛んで行った。  

 “やった…!! 一点取っちゃった!!”

 『ゴン!!』

ボールがゴール寸前でゴールポストに直撃し、一瞬で美紀の前に飛んで来た。

 「えっ?」

そのままボールは美紀の頭に直撃し、美紀の体を吹っ飛ばした。その瞬間、部員総出で、大急ぎで美紀の怪我の有無を確認をしに走った。美紀は吹っ飛ばされた姿勢のまま、じっと動かなかった。

 「アハハ… 一点入らなかったよ…」

次回掲載日  2019年5月19日 午前0時

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ