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むし子  作者: はやし りょう
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ショウジョウバエと共に生きる理系女子

おいおいおいおい!いい加減にしろよ!


またかぁ…

はいはい、なんでしょうか?


お前んとこのハエがうちの研究室で死んでんだよ!なんとかしろよ!


そんなこと言われましても、ハエには翅がありますから…


だから、試験管で飼ってるんだから逃がすんじゃねーよ!!!


まぁでも、一度も空を見ずに一生を終えるなんて、寂しくないですか?


お前なぁぁぁ~!!!


そして、お言葉ですが、あなた方の研究室のアリたちもこちらの研究室でよく見かけますよ?ならお互い様ですよね?


うぬぅ~!!!


ダンダンっと足を踏み鳴らして1階の住人、動物行動学、通称アリ研究室の学生が帰っていった。


君たち、あまり遠くに飛んじゃいけないよ?


マイコは試験管をコツンと叩き、中で小さく飛んでいるショウジョウバエたちに囁いた。


翅があるんだもん、死ぬ前に自由になりたいよねぇ…


マイコはしばらく試験管の中をぼやぁと見つめ、昼食のサンドイッチにかぶりついた。当たり前のように逃げ出したショウジョウバエがサンドイッチにぴたりと留まった。


君たち好きだねーサンドイッチ。

いいよ、一緒にたべよう


マイコは端に乗っているショウジョウバエを見ながらサンドイッチをむしゃむしゃと食べ進めた。


オッスー


黒いリュックを背負って大股で入ってきたのは博士課程の滝野だった。


お疲れ様ですー


マイコはちゅうちゅうとパックジュースを飲みながら返事をした。

滝野がリュックからカップ麺をだすと、


それ、昨日も食べてましたよね?というか、今週ずっと食べてません?


とマイコが突っ込んだ。


俺はね、好きな味をとことん食べ続けて、最後には飽きて嫌いになって食べなくなるんだよー


といってガハハと笑いだした。


あぁそういえば滝野さん…

マイコがそういいかけた時、


どぅやぁ!!みんなやっとるかぁ!!


ペタペタとサンダルを鳴らしながら発生生物学研究室、通称ハエ研の助教授が軽快に現れた。


お疲れ様ですー


マイコが横目で助教授の姿を確認し、サンドイッチをほおばりながら軽く会釈した。


なんやぁ まだ二人しかおらんじゃないのぉ

他のみんなはどした?花咲さん?


なんで私に、と心のなかでイラっとしながら

知りませんよー そのうち来るんじゃないんですかぁ?


と横顔でこたえると、


つめたいじゃないのぉ えぇ? こっちにガンっと向いてこたえてよぉ


と半ばニヤつきながら助教授に言われたため、マイコはサンドイッチを強く噛んで助教授の方にくるりと体を向けた。


みんなのプライベートなことは知りませんので、いつ来るかはわかりません!!!


そういうとマイコはまた元の方向でジュースを飲み、あっという間にパックをぺしゃんこに潰した。そしてガタリと立ちあがり、実験してきます。と無愛想に言葉を発して部屋を後にした。


なんやぁ 花咲さん機嫌悪いなぁ

滝野くん、なんか怒らせたんやないのぉ?


えぇ いやぁ 違うと思いますよ、と静かに返しながら、相手のテンポを読もうとしないその対応が花咲さんを苛立たせることにまだ気づいていないのか、と滝野は助教授に背を向けパソコンを開いた。


なんやぁ みんな つめたいやないのぉ


ペタペタとサンダルを鳴らし、ふーんと口を尖らせながら助教授は自室に戻った。


助教授の冷やかしのような時間は日常的で、長く所属する学生たちは毎度冷たくあしらうのだった。研究室に配属されて間もない四年生の学生は、そんな助教授の生態を把握していないために、助教授のライフサイクルに合わせるように振り回されてしまうのだった。






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