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僕とひと夏のルペ  作者: 高庭 千
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第8話 階級は劣悪か

「何かあったの!?」


三限が終わった途端に、咲良が勇人の席へ飛び込んで来た


「何もないよ」


平静を装いつつ、勇人は机の上の消しゴムをポケットへ押し込んだ


「嘘だ」


さながら証拠品を探す名探偵のように咲良は勇人を凝視した


「あやしい…何かがおかしい。勇人が数学の問題が解けるなんて、あり得ない。絶対に何かあるはず…」


ブツブツと咲良は独り言をいう


「本当に何でもないよ。それより放課後は職員室に寄るの、忘れないでよ」


生まれて初めて、人に話を逸らすという行為を行ったかもしれない、と勇人は思った

やはり慣れないことは、ぎこちなくなってしまう。咲良も幾分か違和感を感じたようだったが、諦めて自分の席へと帰っていった


それから昼休憩の時間になるまで、ルペにアクションはなく、ただ時々暇なのか消しゴムカバーの色を変化させていたぐらいだった


昼ごはんはいつも決まって、教室を出て渡り廊下を越え、すぐ右手にある生徒資料室で一人で食べているので、鐘が鳴ると例外なく、購買で菓子パンを購入してから資料室へと向かった。勿論、ルペはポケットに入れて連れていった


資料室にいつも通り人がいないことを確認してから中に入ってから、少し奥に進み、資料棚の間に挟まれてあるスペースの窓際の壁に座ってもたれかかる。ここが勇人の特等席である


一息ついて、購入したメロンパンにかじりついたところで、ルペがポケットから出てきた


「もう喋ってもよいか」


「ああ、まあここならいいか。人が来たら消しゴムに戻れよ」


「わかったぞ」


ルペは姿を変えて、渡部の姿になった

食べていたメロンパンが気管に入って勇人はむせた


「何で、渡部になるんだよ」


「何でって、この渡部と話す時に勇人は嬉しそうにしていたではないか。こいつの姿が好きなのではないのか」


「誤解だ。それだと僕はゲイになってしまうじゃないか」


「違うのか?」


「断じて、違う」


意外と色々見ていたんだな、と再びメロンパンをかじりながら思った


「とにかく姿を変えてくれ、朝の奴でいいから」


「ふむ、わかったぞ」


今朝の同年代くらいの男の子の姿にルペは変わった


「学校とは面白いところだな、勇人」


「どういうことだ?」と素っ気なく、返事をした


「人間が物事を学ぶのに、一番効率のよい場所であるということだ。学問を深めるにあたり、最も効率が良い行為は「語る」ことだ。学校という場は学問を深め、物事をよく知り得るには適した形式であると言えよう」


「ふーん、僕にとっては学校はつまんない場所だけどな。同い年の人がクラスに集められて、自分を上手に披露できる奴らだけが、その空間を楽しめる。毎日、人気者コンペでもやらされているような気分になって、嫌気がするよ」


するとルペは呆けた顔になった


「競うことの何が悪いのだ?人間は“注目“をヒエラルキーとする存在ではないのか。勇人がつまらないと感じるのは、そこが君の居場所ではないからだ。日々に退屈と感じたのなら、上に登る。日々に痛みを感じたのなら、下に降りる。そうやって、調節しながら、日々を過ごすべきなのではないか」


「急に難しいこというなよ。そんなに簡単にできたら、苦労なんてしてないんだよ」


勇人は残りのメロンパンを口に無理やり突っ込んで、牛乳で流し込んだ


「ほら、そろそろ時間だから消しゴムに戻れ」


「シャープペンシルでもいいか、勇人」


勇人は束の間、検討したが


「ダメだ。シャーペンは先端が尖って、ポケットが破れる。あと、僕に刺さったら痛いだろ」


「また、消しゴムなのか」とルペは少し心萎えした

そんなルペの様子を見て、一考してから勇人は妥協案を述べた


「はあ、修正テープならいいぞ」


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