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僕とひと夏のルペ  作者: 高庭 千
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第7話 転機は好機か

一限目が終わり、酒井が教室が出ていったところで急いで消しゴム、もといルペを持ち出して、勇人はトイレへ駆け込んだ。個室にこもり、しっかりとロックを掛けた後、息を大きくはき出した


「何でお前がここにいるんだよ」


トーンを最小限まで落として、勇人は掌においたルペに話しかけた


「ルペは勇人の側にいなければならないからな。だから、きちゃった」


ルペは水銀に代わり、勇人の掌を飛び跳ねる


「それは、もういいよ」


はあ、と再び溜息をつく


「いいか、朝も言ったがお前が他の奴らに見つかったら…」


「それは、理解している。だからこうして見つからないように消しゴムに姿を変えているのではないか。それとも他の姿のがよかったか。案ずるな、他の人間に見つかるなんて落ち度は取らない」


何でここまで僕につきまとうんだ、とルペを鬱陶しく思った

携帯で時刻を確認すると、三限開始まであと二分ほどだった


「とにかく、消しゴムから姿を変えるなよ。あと僕の側から絶対に離れるなよ。分かったな」


「わかったぞ」


返事とともにルペは消しゴムの姿へと変わる

ルペをポケットに突っ込んでから、トイレのドアを開け、勇人は教室へ戻った


教室へ戻ると、早速に三限が始まった

三限はチサト先生の数学だった

しかし、そんなことはお構いなしに勇人は消しゴムをポケットから取り出し、机の真ん中において、ひたすらに監視した。とにかく何も起こさないでくれと祈るばかりだ


「じゃあ、昨日の復習からな。少し難しいが、頑張って解いてもらうぞ。今日は10日だから、出席番号10番の志波 勇人。前に出てこの問題を解きなさい」


「え!?」


唐突に名前を呼ばれたことに、面食らって、大きな声が出てしまった


「どうした、勇人。前に出て板書しなさい」


ルペのことで頭がいっぱいで、油断した。しかも科目は数学だ。どうやったって勇人に目の前の問題は解けそうにない


わかりません、そう口にしようとした


その時、身体が勝手に立ち上がって、自分の身体はおもちゃの兵隊のような行進を始め、黒板の前まで移動した。次に右手でチョークを持ち黒板に知らない数式をつらつらと書き始めて、やがて右手が止まった


隣のチサト先生に視線を移すと、ポカンと口を開けて目を見開いていた

まさか、出来るとは思っていなかったといった顔をしていた。僕も恐らくそんな顔をしていたと思う


「あの、合ってますか」勇人はおずおずと訊いた


はっ、とチサト先生は我に返り

「よろしい」と告げる頃には、身体も元に自由に動かせるようになっていた

訳もわからず、席に戻ったところで、渡部が顔を隣に乗り出してきた


「すごいな。あの問題は俺よくわかんかったぜ?志波って数学が得意なんだな」


「いや、たまたまだよ」


なんて口に出しつつ、渡部に褒められること少しが照れくさくて、顔が緩んでしまった


ふと、ここで右腕に何かが張り付いているような感触に気づいた。ああ、そういうことか。銀色の物体はゆっくりと腕から手へ滑り落ちてきて、机にストンと落ちた。そして水銀は消しゴムへと姿を戻す時に小さな煙を立てた


まるで「ルペは役に立つだろう」と訴えかけるかのようだった

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