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僕とひと夏のルペ  作者: 高庭 千
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第6話 来訪は突然か

教室に入り、席に着くと早速、勇人を見つけた咲良が友達の輪から抜けて、勇人に近づいてきた


「今日の帰りに職員室に一緒に行くから覚えといてね。チサト先生が花火スタッフの話するからって」


にこにこと嬉しそうに咲良は喋り、そのまま友達の輪に戻っていった

引き受けるとは一言も言っていないのだが、咲良に事前に話を通すことで、断りにくい状況を作ったチサト先生にはある意味で悪意を感じた


チャイムの鐘が鳴り、同時にチサト先生が教室に入ってきた


「おはよーさん、みんな」


溌剌とした声が教室に響き渡る


「大成、ボタンは一番上まで閉めろ」


「夢香と愛、スカートの丈直しとけよ」


「俊、パンはあと三秒で食え」


「よし、出席とるぞ」


一人の人間が四十人近くを相手にするのは、想像以上に大変な事ではないのかと思うのだが、この先生は当たり前のようにこなしてみせる。本当にどこに目が付いているのかと疑問を抱く


全員の出席を取り終わり、簡単に連絡を済ませた後で、チサト先生は一限を行うクラスへと向かって教室を出ていった。ちなみにチサト先生の教科は数学で、勇人の一番の苦手科目である


チサト先生と入れ替わりで、一限の物理の教師である酒井が入ってきて、すぐに一限開始を知らせる鐘がなった


授業が始まって束の間、ふと隣の席から声を掛けられた


「志波。咲良と花火スタッフやるんだってな」


どこか清涼感のある声で、中性的に綺麗な顔立ちをしているこの男は咲良の彼氏こと、渡部 達哉だ


「あ…、そうだけど」


少し上ずった声で返答する。渡部に話をされることなんて、この半年の間に滅多にないことだったからだ


「俺にできることがあったら、なんでもいってくれよ。俺も去年に爺ちゃんの手伝いでやらされたとき、えらい大変だったからさ」


渡部のおじいさんは、この地区の総代を務めている。たまに目にすることがあるが、かなり固い印象だった。常に仏像の様に変わらずしかめ面をして、周りに激怒することもしばしばだ、と記憶している


「うん、ありがと」と短く応える

本当は咲良のことを心配してるだけだろ、なんて考えがよぎるのは僕の性格が悪いからだ

「おう、そんだけ」と笑顔で言って、渡部は視線を黒板に戻した


それから、どうしても渡部との会話はぎこちなくなってしまうなと勇人は反省した。だが相手が自分とは違う種類の人間だと感じることや、咲良の彼氏だと考えると、どうしても口に出す言葉が素っ気なくなってしまう。渡部がただのいい奴なんてことは、誰が見てもわかることだ。せめて、もう少し会話の機会に恵まれれば、それなりにぎこちなさを削ってみせるのに


なんて考え事をしてる最中、板書を間違えたことに気づいた。勇人は筆箱の中の消しゴムを取り出して使おうとした。だが文字が消せないのだ。それどころか、消しゴムが何やらいつもより柔らかい


まさか、とある予感が脳裏をかすめた

「おい、ルペか」と顔を消しゴムに近づけて囁いた

すると消しゴムは水銀になり、文字を描いた


「きちゃった」


こいつの人間文化は、一体何処で覚えてきたのだろうかと勇人は額に手を当て、消沈した


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