表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕とひと夏のルペ  作者: 高庭 千
4/35

第3話 過去は引金か

志波 雅俊は先端応用生命科学研究所の研究員であり、勇人の父親である


雅俊は妻を病気で失ってから、主に生命創造の分野と人体構築の分野の二つに研究分野を絞った。言わずもがな、自分の妻を作ろうとしたのだ。愚かな行為であることは、わかっていた。だが追わずには、求めずにはいられなかった。愛する妻にもう一度会いたい気持ちが雅俊を研究に没頭させていった


研究成果が芽を出し始めたのは、自分の次男である息子。志波 敦己が事故で亡くなった翌日のことだった。息子の死がさらに、雅俊を研究にのめり込ませ、ついに鼓動する生きた金属を作り出すことに成功した。その、製造方法は雅俊のみが知っていた


その金属は通称、実験体Rと呼ばれていた。Rは基本は一定の周期で収縮したり、膨張したりするのみだったが、近くに人間を感知すると、感知した部分を人間と同じ組成を示すことが分かった


このままいけば近くない将来、妻に息子にまた会えるのではないか。淡い期待でしかなかったものが、やがて確かな希望へと変わっていった


そして実験は最終段階まで進行し、いよいよ人間の形作る為にRに構築情報の多い人間の血液を流し込んだところで事故は起きた

血液を吸収した後に、Rは強い拒否反応を示してから、内部に抱えていたエネルギーが急速に一点に集まったと思えば、次の瞬間に研究所は光に包まれ、爆発した


そして辺り一面は焼け野原になっていた。Rはこの場で初めて自我を認識し、自分を探す手がかりとして近くにあった雅俊の死体をトレースし、その場を後にした


それからは数ヶ月は人間社会としての文明を吸収していき、同時に沢山の人間の姿、形をトレースしながら、雅俊の家族についての情報収集を行なっていた

その中で、自分の存在の鍵となりうる雅俊の息子である勇人の存在、所在を突き止めたのだ


以上が私の集めた情報と自身の経緯と統合した結果であり、ここに来た理由だ、とRは流暢に勇人に語った


「ここまでは、大丈夫か」


Rは雅俊の姿、声で勇人に問いかけた


「大丈夫なわけあるか」


勇人は話しの半分も理解できていなかった。目の前の父親は、父親ではないこと。そしてRは父親が作り出した未知の生命体であること。さらにRは俺を訪ねてきたということ


「つまりお前は自分が元は人間であって、その正体を知りたいからお前を作った親父の息子である僕のところへ来たってことか」


「そうだ。知ってることがあるなら教えて欲しい」


知ってるも何も、勇人は自分の父親が研究者であることすら今、初めて知ったのだ。それまでは母親と弟を見殺しにして、何処かへ行って帰って来なくて、挙句死んだことも叔父、叔母から聞かされただけで詳細など知らず、聞きたくもなくて触れずに生きてきた


「うるさい」と勇人は小さく呟いた

それから、立ち上がって大声で叫んだ


「うるさい、勝手なこと言うな」


Rは面食らったように眉が上がった


「お前を作った僕の父親のせいで、僕の家族はぶっ壊れた!母親が死んだ。弟が死んだ。おまけに、父親も死んだ。全部お前のせいだ」


口から出る言葉が滅茶苦茶なことも、Rに喚いても何にもならないことは分かってていたが、じゃあずっと向かい合ってこなかったこの怒りを、切なさをどこにぶつければいいのか勇人には分からなかった


「私が悪いのか?」


Rは本当に不思議そうな顔をして、勇人を覗き込んでいた


「そうだ、お前が悪い!」


「そうか…私が悪いのか」


Rは窮したような表情をした

それから直ぐにRは立ち上がって、また崩れて水銀に溶けた。それから、また康太の姿に戻った。そして、こう言った


「分かった。では、償おう。今日から、私が君の側にいよう。そして、君を幸せにすると誓おう。その代わりに、私の正体探しにも協力してくれ」


「…は?」


まさかの未知の生命体Rからのプロポーズだった



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ