第30話 投影は希望か
あと4話くらいで終わります!
それでは30話です。どうぞ、
病室では咲良の死が淡々と片付けられているようだった。しっかりと悲しむ両親に、気持ちの整理を促す医者、悲しそうな表情で場に同化しようとする看護師達
訳が分からない。どうしてドラマのワンシーンのような、作業のような行動しか取れないんだ。その辺の知らない他人じゃないんだよ、咲良が死んだというのに
病室にいると、自分まで咲良の死を消化してしまうかもしれないと思い、勇人は外に出た
外には、見たことのない男が呆然と立ち尽くしていた。勇人にはその男が誰だかわかっていた
「ルペだな?」
男はゆっくりと頷いた。その瞬間に勇人は飛びかかって倒し、ルペの胸ぐらを掴み上げる
「約束を破ったな、ルペ」
抵抗も見せずに、ルペは何も答えない
「お前が死んでしまったと思ったら、お前が咲良で、咲良は死んでた。どういうことだ、説明しろ!」
束の間、黙ってからルペは口を開いた
「場所を変えよう、勇人。ここでは人目についてしまうから。その後でちゃんと説明する。ルペにもあまり時間は残されていないから」
ルペは自身の腕裾を捲り上げて、勇人に見せた。溶け出しているルペの腕を見たあと、勇人は掴んだ手を離した
「説明に納得出来なかったら。お前死ぬまえに、僕がお前を殺すぞ」
勇人の目はルペを映していない
「屋上にいこう」
勇人の目を見ずに、ルペは屋上へと足を向けた
扉を開けると、屋上にはベンチに一人座っているだけで、あとは誰も居なかった
「よう、志波」
座っていたのは渡部だった
「なんで渡部がここにいるんだ」
「渡部はルペが呼んだ。いい、ここにいて貰うぞ」
沈みかける夕日を背にして、ルペは言った。勇人は無言で答える。勇人の反応を見て、ルペは続けた
「前置きとして今からルペが話をする」
「前置き?」渡部が口を挟む
「そう、ルペよりももっと適任者がいるということだ。話を始めるぞ」
温い風に紛れて、刃のような冷たい風が身体を切り刻む。屋上に干されたシーツが棚引く。目の前には、できる限りゆっくりと落ちていく夕日に対して、着実と伸びる影。影に覆われているルペの身体全体は暗かったが、その目には使命感にも思える光が見えた
「咲良のついた嘘は大きく分けて二つある
一つは渡部と付き合っているとしたこと
もう一つは自身の病気を隠したことだ
一つ目は割愛する。ルペは殆ど関わっていないし、第一にルペが話すことでもない。だからルペが話すのは、二つ目だ
始まりは先週の金曜日だった。咲良から呼び出されたルペは分裂体を向かわせて、この市民病院に来ていた。そこに咲良は入院していたのだ
もう随分前かららしい。花火大会以前までは学校と病院を行き来していたが、花火大会が終わってからは、咲良はずっとこの病院で治療を受けていた
咲良から呼び出されて要件は「花火大会が終われば、私はもう動けなくなる。私は私が死ぬまで、私が死ぬことを勇人に知られたくない。だから協力して欲しい」というものだった。ルペは承諾した
花火大会が終わってから、安川に分裂体の方は潰されてしまったが、逆にそれを利用して勇人の思考から入れ替わりの可能性を排除することに成功したのは好都合だった
それから学校にいたのは咲良と入れ替わったルペだ。勇人と出来るだけ話をしないで欲しいという要望を守りながら、生活していた。そして、今日咲良が死んだら正体を明かして勇人を病院まで向かわせる
以上が咲良から与えられたルペの役割だ」
「そんなことが聞きたいんじゃないんだよ」
話終わったかの顔をするルペに勇人が叫びをぶつける
「何でだ。咲良は何でこんなことをお前に頼んだんだ。お前はどうして咲良の申し出を引き受けたんだ。答えろよ!」
「言っただろう、勇人。ここまでは前置きだ。ここからはより適任者から聞くといい」
「適任者って誰の事だ」
勇人の疑問には答えずにルペは続けた
「ルペは分裂の他にもう一つできる事があるのだ。それは投影だ。投影は過去に記録した人物の表情、声色、仕草から全てを一度だけ再現することができる」
「…それって」
「そう、咲良の投影をルペは持ってる」
言葉が出なかった。ふと咲良の持っていたメッセージカードの裏に書かれていた言葉を思い出す
『P.S.私をルペちゃんに託す』
まだ咲良の気持ちを確かめる手段が残されていたことに勇人は希望を抱いた
「ルペにはもう時間が無い。今から投影を始めるぞ。準備はいいか?」
勇人は頷きをもって答えた
ルペが姿を変える。長い髪が夕日を受けてキラキラと光る。見慣れた制服から白い肌を覗かせる
現れたのは、ずっと待ち望んだ向日葵の咲いたように明るい笑顔の咲良だった
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